第12話「淡い期待」
「えっ……?」
俺が見逃す態度を取ったことで、桂は意外そうに見てくる。
そりゃあそうだろう。
敵対組織の人間――それも政府側の人間が、悪人を見逃すなどありえないのだから。
「どうした、見逃してほしいんだろ?」
「あっ、いや……何を、考えているの……?」
「見逃せば俺のことを信用すると言ったから、見逃すことにしたんだよ」
「ありえない……」
どうやら桂は、俺のことを信用するどころか、疑いを強めたらしい。
まぁ、当然の反応だろう。
「お前を捕まえるために罠を張っているとでも? 悪いが、そこまでしなくても《ギフト》を封じている時点で、勝負はついてるぞ?」
体格や格闘技の経験差により、肉弾戦になっても桂には負けない。
そして桂は、銃などの扱いにも慣れていない。
たとえ今銃を持っていたとしても、彼女が取り出す頃には捕らえることができる。
足も俺より遅いので、彼女がここから逃げるのはほぼ不可能だ。
「……僕を味方につけて、どうしようって言うの? あの組織に対して、スパイとかできないからね?」
「わかってる、別にそんなことを期待しているわけじゃない。俺が言いたいことは、さっき伝えたしな」
「…………」
桂は目を細めた状態で、ジィーッと見つめてくる。
俺を観察しながら、頭の中で考えを整理しているんだろう。
俺は黙って桂の答えを待つ。
やがて――。
「わかった、じゃあお言葉に甘やかしてもらう」
桂は、俺の仕草を見逃さないよう全神経を集中させながら、横を抜けていく。
今はこれでいい。
ここで桂を捕まえたら終わりだし、もしかしたら――という淡い期待を抱かせることができれば、十分だ。
「――ねぇ」
桂が戻ったらすぐに桜木さんたちのもとに戻ろう。
そう思っていると、なぜか桂が声をかけてきた。
さっさと立ち去ればいいのに。
「なんだ?」
「僕は政府が嫌いだ。そして、妹のためなら誰でも裏切るし、どんな犯罪にでも手を染める。僕に恩を売れたと思うのは、間違いだからね?」
わざわざ馬鹿正直に言ってくるなんて、ほんと中身はまっすぐな奴だ。
そんなことを言えば捕まえられたっておかしくないというか、むしろ捕まえられる可能性が高くなる。
それでも、言わずにはいられなかったんだろう。
「何も期待してないから、早く行け。俺もまだやらないといけないことがあるんだ」
「変な人……」
桂はそれだけ言い残すと、タタタッと走り去ってしまった。
正直、学校では結構一緒にいたのに、気付かれないというのも悲しいものだ。
だけど、気付かれたらめんどくさいことになっていただろうし、これでいい。
「さて、行くか……」
桂の時とは違い、ガンナエルは逆に捕えなければいけない相手だ。
桜木さんたちが捕まえていてくれれば、話が早くていいんだが――。
俺はダッシュで桜木さんたちのもとに戻る。
すると、地面や建物には大穴が沢山開いており、怪我を負った桜木さんを庇うようにして立つ進藤さんに、ガンナエルが銃口を向けているところだった。
「終わりだな」
「お前がな」
引き金を引こうとしたガンナエルよりも先に、俺が引き金を引く。
弾丸はガンナエルの右腕を貫き、銃がガンナエルの手から地面へと落ちた。
「ぐぁあああああ! う、腕が……!」
「影之君!!」
俺に気が付いた進藤さんは、安堵の表情を浮かべた。
だけど、彼女の後ろにいる桜木さんは汗を大量に流しながら、右足を手で押さえている。
その手には血がにじんでいることから、深い傷を負っているようだ。
「桜木さんは大丈夫ですか?」
「う、うん、ドジって負傷しちゃっただけだから……。銃弾の直撃は、喰らってないんだよ……」
強化された銃弾によって地面が抉れた際に、飛び散った石などが喰らったのかもしれない。
こちらも手当てがいるだろう。
「進藤さん、桜木さんのことお願いしますね」
「えぇ、わかったわ」
もうガンナエルが抵抗できないと思った進藤さんは、桜木さんの手当てに入る。
そして俺は、念のため、ガンナエルの左手と両足を折っておいた。
「こ、この鬼畜野郎……! お前ら、政府の人間だろ……!? こんなことしていいのか……!?」
「あぁ、安心してくれ。戦闘時のやむを得ない負傷ってことにしておくから」
「とんだクソ野郎だな!! 俺たちよりもゴミだ……!」
「別に俺は、自分のことを正義の味方だなんて思ってないし、お前に抵抗されるほうが困るからな」
俺の《ギフト》でガンナエルの《ギフト》は無効化できているが、こいつは銃の使い手の割に格闘技もいける。
自身の《ギフト》が倍増だから、相性がいいと考えて鍛えていたのだろう。
おかげで、《ガンナエル》の名前や特徴から銃だけが武器だと先入観を持ってしまった主人公は、追い詰めたい際に格闘技で反撃を喰らい、逃がしてしまったのだ。
まぁその後は、メインヒロインと合流して再度追い詰め捕らえるのだけど、わかっていて同じ
「影之君って、あそこまで容赦なかったですっけ……?」
「相手が相手だから、手段を選んでいられないだけでしょ。迷いがないのが、彼の強みよ」
後ろでは二人が俺の話をしているようだが、なんだか桜木さんが若干引いているようだった。
進藤さんがフォローしてくれたようなので、気にしなくて良さそうだけど。
「――すみません、一人は取り逃しました」
俺はガンナエルの意識を奪って手当てをした後、桂のことを報告した。
「仕方がないわ、相手が相手だもの。二人捕らえただけでも、大手柄よ」
「まぁ、影之君がいなかったら、多分私たちやられてましたしね……」
進藤さんは優しい笑顔を向けてくれて、桜木さんは自嘲するかのように目を逸らす。
実際、後少し遅かったら危なかっただろう。
「とりあえず、私たちはもっと強くならないといけないわね」
「ですね……年下の子の足は、引っ張りたくありません……」
俺はこの先の彼女たちを知らないが、もしかしたら今回の一件で、彼女たちは更に強くなるのかもしれない。
そうだったらいいなぁ――と思いながら、俺は二人と一緒に組織へと帰るのだった。
なお、俺の帰りが遅かったことで桃花は心配していたらしく、帰るなり勢いよく抱き着いてきて少しの間離れなかった、というのは内緒の話だ。
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