第10話「天敵」

「残りの敵、二人って言ってたよね……? さっきみたいに、影之君の能力に戸惑っている間に、一瞬で制圧とかできないかな……?」

「無理ですね、中の様子は向こうも見ていたでしょうから。凄く警戒されていると思います」

「だよね……」


 相手がする行動は二つだろう。


 まず、俺と桜木さんの《ギフト》を警戒して、距離を取る。

 そしてもう一つは、出てきた瞬間に俺たちを銃で殺そうとするはずだ。

 一番手っ取り早いからな。


「何してるの……?」


 俺がポイズンエルの上着を脱がしていると、桜木さんが怪訝そうな顔で見てきた。


「ポイズンエルと組んでいると言われている奴の名前、憶えていますか?」

「あっ……! ガンナエル……!」

「そう、このまま出たら、俺たちは位置もわからないまま、射殺されて終わりです」


 だから俺は、この上着を使うのだ。


 ドアから、服を投げると――。


 激しい音と共に、服と地面に大きな穴が開いた。

 普通の銃の威力じゃない。


「見つけました……!」


 俺は銃弾が飛んできた角度で、ガンナエルの居場所を見つける。

 やはり、本来のシナリオと時間が違うということで、俺が知っていた位置とは別のところにいた。


 その隣には、防毒マスクをつけた小柄な人間がいる。

 桂だろう。


「桜木さん、ガンナエルは倍増させる《ギフト》を持つ奴です! 奴は、実在する銃弾の回転数や速度、大きさを倍増させて、威力をあげてくるんで――」

「わかってる、影之君の《ギフト》でも、銃弾は防げないんだよね!?」

「えぇ、普通の銃撃戦と思ってください……!」


 俺と相性が悪い《ギフト》――それは、実在するものに何かしらの力を付加する能力だ。

 特に銃使いなんて、とても厄介だと思う。

 なんせ人は、普通の銃で撃たれただけで、死ぬのだから。


「進藤さん、まだこないの……!?」

「さっき呼んだばかりですからね、もう少しかかるでしょう……!」

「早く来てくれないと、やられちゃうよ……!」


 激しい銃弾の雨を壁で防いでいる桜木さんは、とても不満そうだ。

 まぁ進藤さんは頼りになる人だから、頼りたくなる気持ちはわかる。


「あっ、影之君、もう一人がいなくなる……!」


 桜木さんの言う通り、桂は俺たちに背を向け、ガンナエルだけを残し去っていく。

 元々桂は案内役で、戦闘要員じゃない。


《神々の使徒》の戦闘要員は、二人一組でコンビを組んでおり、ポイズンエルの相方はガンナエルだ。


 だから、ガンナエルは桂が邪魔だと判断し、情報だけ持たせて組織に帰らせたのだろう。

 これは、一応ゲームのシナリオと一緒ではある。

 違うのは、進藤さんと桜木さんが生きているということだ。


 本来なら俺は、ポイズンエルを倒した後ガンナエルと一騎打ちになり、形勢が不利だと判断したガンナエルが逃げ、俺が追いかけ――となるはずだが、このまま桂を黙って逃がすのはおかしい。


「追います……! 桜木さんは、進藤さんが合流するのを待ちながら、ガンナエルの足止めをしてください! 俺が離れたら、ガンナエルの銃弾はもう壁じゃ防げないんで、壁とかを盾にしないでくださいね!」

「わ、わかった、気を付けて……!」


 桜木さんは、覚悟を決めた表情で頷く。

 工場に突入する際は緊張していたのに、こういった時覚悟をすぐ決められるのは、さすがだ。


 進藤さんもじきに来るだろう。


「――っ」


 俺がドアから飛び出すと、銃弾が俺目掛けて飛んでくる。

 しかし、威力は普通の銃弾に戻っているので、俺は建物などを盾にしながら、桂を追いかけた。


 そして、俺が離れたことで《ギフト》を使えるよう・・・・・になった・・・・桜木さんが、念力で近くの工具や石などをガンナエルに向かって飛ばすことで、俺を追わないように牽制してくれる。

 普段は頼りないが、ここぞって時は本当に頼りになる人だ。


 後は進藤さんさえ来てくれれば、俺がいなくてもガンナエルを倒せるかもしれない。


 俺は二人を信じて、桂を追いかける。

 幸い足は俺のほうが速いし、ゲームの時主人公がいないだけで、桂がどこに向かっているかの描写はあったため、俺が桂を見失うことはないだろう。


 だから、追いつけないということで、逃がすことはない。


 後は、どう桂に言葉を投げるか――だ。

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