第9話「《ギフト》の相性」
「――うぅ…緊張する…」
目的の廃工場に着くと、桜木さんは言葉にしている通り、少し硬くなっていた。
例の組織が相手だった場合、一瞬の判断ミスで殺されかねない。
だから緊張しているんだろう。
ちなみに、進藤さんは離れたところで、車の中にいてもらっている。
離れている間に車のほうを先に壊されかねないし、万が一の場合は、別行動している彼女に応援を呼んでもらったりしないといけないからだ。
「桜木さんでも、緊張ってするんですね」
「どういう意味かなぁ?」
「他意はありません」
ジッと物言いたげな目を向けてきたので、笑顔で誤魔化しておく。
「正直、怖いよ。一流の《ギフト》の使い手ばかりいると言われている、犯罪組織だもん」
「大丈夫です、奴らに対抗するために、俺がいるんですから」
「うん、信じてる」
本当に俺のことは信じてくれているのか、桜木さんの表情が緩まる。
これなら、大丈夫だろう。
俺たちは銃を手に取り、ドアに背をつける。
「中、誰かいるね……?」
「えぇ、殺気を隠す気もないようですね」
おそらく誘っているんだろう。
ここにいるから、中に入ってこい――と。
「俺から十メートル以上は、離れないでくださいね?」
「わかってる、いつでもいいよ」
「それじゃあ――行きます!」
俺は勢いよくドアを開ける。
廃工場だから電気はついていないが、窓から差し込む月の光で人影が見えた。
その人影は、俺たちのほうを向いて、両手を広げた。
「やぁやぁ、政府の皆さん。はじめまして、そして、さようなら」
「《神々の使徒》の《ポイズンエル》だな?」
「えっ……?」
俺が確認をとると、目を見開いて桜木さんが俺の顔を見てくる。
どうして知っているのか、本当にポイズンエルなのか――という疑問が浮かんでいるのだろう。
「なんで俺のコードネームを――いや、待て。それよりも……なんでお前ら、まだ息がある……?」
そしてポイズンエルは、理解できないとでも言わんばかりに、俺たちを見つめていた。
そんな中――俺は、迷いなく引き金を引く。
「ぎゃぁあああああ!」
銃弾はポイズンエルの右足に命中し、ブシャッと血が噴き出す。
彼は右足を手で押さえながら、痛みによって地面に倒れ込んだ。
「影之君!?」
「奴は認めました。だから引き金を引いただけです。それよりも、注意してください。外にまだ、二人います」
「えっ……!?」
桜木さんはバッと銃を構え、周囲を警戒する。
しかし、仲間がやられたというのに、入ってくる気配はなかった。
当然だろう。
奴らは今、この工場内は毒で満たされていると思っているのだから。
「な、なんなんだよ、お前ら……! 一息吸えば、一瞬で意識を失って死ぬ毒だぞ……!? なんで平然と立っていられる……!?」
「ど、毒!? そっか、こいつポイズンエルだから……!」
「えぇ、無味無臭の毒で、この工場内は満たされていたようです。まぁ、こいつの《ギフト》で作り出されているものですが」
だから、今の俺たちには効かない。
これが自然のものだったり、《ギフト》以外で人工的に作られたものだったら、俺たちは死んでいた。
「答えろ、お前の《ギフト》も毒なのか……!? それで中和したのか……!?」
「答える義理はない」
「がはっ!?」
俺はポイズンエルの首に手刀をくらわし、意識を奪う。
《ギフト》を犯罪に使っている奴らにありがちだが、《ギフト》に頼りきって戦っているため、《ギフト》さえ封じれば意外ともろい。
逆に何も対策なしにこいつに挑めば、一瞬でやられていただろう。
実際に、こいつにやられた仲間も少なくない。
「なんで、他にいる二人は動きを見せないの……?」
ポイズンエルの止血をしていると、周りを警戒しながら桜木さんが尋ねてきた。
「大方、俺たちが出てくるのを待っているんでしょうね」
「うぅ……出て行きたくないな……」
「そう言ってもいられないでしょう」
俺は進藤さんにメッセージを飛ばす。
残りの敵は二人で、俺たちを待ち構えているはずだから、車から離れてこっちに来ても大丈夫だ。
それに、片方は桂だが、もう一人の相手は俺と相性が悪い。
ここは俺が桂を追いかけて、桜木さんと進藤さんでもう一人の相手をしてもらうのが一番だろう。
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