第5話「敵かどうかの見極め」

「――二人とも、なんでこんなところにいるの?」


 桂と一緒に学校を目指していると、急にリムジンが俺たちの前で停まった。

 そして窓を開け、中から不思議そうに話しかけてきたのは、クラスメイトの伊理宮いりみや美麗みれいだ。

 なお、国民的アイドルでもあり、メインヒロインの一人でもある。


「あぁ、実は――」

「もしかして、学校サボってデート? やるな~」


 説明しようとすると、美麗は口元に手を当てて、ニマニマと楽しそうに見つめてきた。

 相変わらず、立場や見た目に似合わず、こういった話が好きな奴だ。


「おっと、どうしよう影之君。バレちゃったよ?」

「乗るな乗るな」


 わざとらしく話に乗って俺を見上げてきた桂に対し、俺は苦笑いを返す。

 ノリがいいというのも、考えものだ。


「ん~、こっからだったら歩いて行けるし……うん、私降りるね!」


 俺たちと一緒に登校することにしたんだろう。

 マネージャーと運転手に向けてそう言った後、美麗は降りてきた。


 有名人とかだと身の危険を感じたりするものだが、美麗の場合は《ギフト》が強いし、俺がいるから万が一があっても大丈夫だと思っているんだろう。


「一緒に行ってもいいよね?」

「あぁ、もちろんだ」

「そうだね~。影之君といちゃいちゃできなくなるけど」

「いつまで引っ張るつもりだよ……」


 俺は桂に呆れた表情を返すが、桂は『てへっ』と言いながらおどけた表情をした。

 うん、全然悪く思っていない。

 こういう時の桂を相手しても仕方がないので、俺は美麗に視線を戻す。


「仕事だったんだろ? お昼とはいえ、よく学校に行く気になるな?」

「だって、私学校大好きだし。ほら、チヤホヤしてもらえるから」

「いや、どこでもチヤホヤしてもらえるだろ……」


 国民的アイドルなんだから、ちょっと街中を歩いていれば、きゃーきゃー言われる。

 今は制服だし、眼鏡をかけて帽子を被っているから、バレていないだけだ。


「う~ん、なんだろ? 同い年の子たちに対して、マウントを取りながらチヤホヤされるのが心地いい?」

「とんでもない奴だ」

「そういうのを素直に言っちゃうのが、美麗ちゃんなんだよね~」


 頬に指を当てながら、キョトンとした表情で首を傾げる美麗に対し、俺と桂は苦笑いを返すしかなかった。

 これでトップアイドルまで上り詰めているんだから、本当に凄い。


 まぁこういう性格が逆にウケた、というのはあるみたいだが。

 テレビでもこのまんまだからな、美麗の奴。


「ところで、本当のところはどうしたの? 二人はまじめじゃないにしても、学校サボったりしないよね?」


 うん、ちょっとツッコみたいところはあるんだけど、我慢しよう。


「影之君がね、ヒーローみたいな感じで女性を助けて、そのまま警察に捕まっちゃったんだよ。だから、さっき釈放しゃくほうされたところだね」

「おい、こら。事実がほとんどないじゃないか」


 笑顔で嘘を吐く桂の頬を軽くつねる。


「いひゃい」

「それで、本当のところは?」


 桂が頬をつねられても、美麗は一瞥いちべつしただけで、気にした様子もなく尋ねてきた。

 うん、意外とドライだよな。


「変な男たちから女性を助けて、警察で事情聴取を受けただけだ」


 俺は桂から手を放すと、簡単に何があったかを説明した。

 すると、美麗は『ふむふむ』と納得したように頷く。


「相変わらず、ヒーローみたいなことしてるな~」


 再度俺のほうを見てきた美麗は、またニマニマとした笑顔だった。


 彼女とのイベントは既に一回終えている。

 確か、彼女を狙っている奴らがいるという情報が入ったので、夜中帰宅途中の彼女をさらおうとした奴らから、彼女を守ったのだ。

 その際に、ちょっとした事故というか、彼女が俺も敵だと勘違いしたせいで、彼女の風を操る《ギフト》に攻撃されてしまい、つけていた仮面が割れて素顔を見られたのだが。


 だから彼女は俺の正体を知っていて、いわば弱味を握られている立場にある。

 ただ、彼女を助けたというのは変わらないので、正体については黙っていてくれるし、恩を感じてくれているようだ。

 その代わり、なんかあったら電話一本で呼び出される。


「相変わらず?」


 しかし、美麗がそんなことを言えば、桂が興味を示さないわけがない。

 ”相変わらず”という時点で、過去に一度は同じようなことがあったということになるのだから。


「影之君ってもしかして、人助けの活動でもしてるのかな?」


 桂に指摘され、『しまった!』という表情で美麗が俺を見てくる。

 そんな表情を向けられること自体まずいんだが、幸い桂は俺の顔を見ていた。


「俺がそんなことするように見えるか?」

「どうだろ? 人って見た目じゃあわからないし、さっきも悲鳴を聞いて一番に飛んでいったからね」


 桂は笑顔だけど、探るような視線を向けてきている。

 俺の一挙手いっきょしゅ一投足いっとうそく、見逃さないよう観察している感じだ。

 まぁ、桂の立場上仕方がないだろう。


 今彼女は、俺を敵かどうか見極めようとしているのだ。

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