ショートコント 面接シリーズ~「経験者」
鵜川 龍史
ショートコント 面接シリーズ~「経験者」
〔登場人物〕
面:面接官 コンビニの店長
学:学生 バイト応募者
面:(レジで接客中)ありがとうございました。またお越しください。
学:(コンビニに入店)あのー、すみません。
面:どうかされましたか?
学:ここで、何かすると、お金がもらえるって見たんですけど。
面:え? お金? ここ、コンビニなんで、商品をお買い上げいただく場所なんですが。
学:おかしいな。何かすると、お金がもらえるって、確かに読んだんです。
面:何か、って……ああ! バイトの面接の人だ! 働きにに来てくれたんでしょ!
学:いやいや、もう僕を雇ったつもりですか? そう簡単に雇えると思われちゃ、心外だな。
面:(傍白)うわー。こいつ絶対、変なやつだよ。どうしよう……。いや、でもな。バイトもいないしなー。しょうがない。(学生に向き直って)分かりました。店の裏に回ってくれますか。
学:店の裏! やる気か。(ファイティングポーズ)
面:いや、事務所があるんで。
学:(脅えつつ)組の事務所!
面:(呆れつつ)怖いお兄さんとか出てきませんから。
学:じゃあ、怖いお姉さんは?(嬉しそうに)
面:何、期待してんの! いませんよ、誰も。
学:なーんだ。(おもむろにスマホを取り出す)
面:じゃあ、こちらへ。(裏に案内しつつ)
学:(スマホに向かって)私は今、怪しげな事務所に案内されようとしています。私は無事に帰ってくることができるのでしょうか。
面:何の潜入番組だよ!
(店の裏から事務所に入る。面接官は呆れた様子で案内し、学生は警戒しながら中に入っていく。二人は順に椅子に座る。)
面:では、おかけください。面接を始めますね。お名前、教えてもらえますか。
学:仮に、モリ、ということで。
面:いや、本名は?
学:仮に、モリです。
面:だから、本名!
学:だから、カリニモリです。
面:え? カリニモリ? 珍しい名前ですね。
学:よく言われます。店長のお名前は?
面:僕? 僕は鈴木です。
学:(鼻で笑いながら)普通の名前ですね。
面:なんかむかつくな……。ところで、うちの募集は「タウンワーク」で見たんですか?
学:(早口で)アド街を見た!
面:え?
学:だから、(ゆっくりはっきり)アド街を見た!
面:いや、アド街、出てませんよ。
学:なーんだ。
面:なんで、普通のコンビニがアド街に出るんですか。
学:どんな店に入る時でも、とりあえず言うようにしてるんです。
面:それ、失礼なんで、やめた方がいいですよ。
学:質問なんですけど、ここって、具体的にどんな仕事があるんですか。
面:レジ打ちとか、棚卸とか。あとは、清掃とかですかね。
学:えー。もっとクリエイティブな仕事の方が、実力が発揮できると思うんですけど。
面:いや。コンビニ店員に、クリエイティブな仕事はないかなー。
学:あ、古いタイプの店長だ。そういう考え方が、やる気と意欲とモチベーションを奪っていくんですよ。
面:やる気と意欲とモチベーション……? それ、全部同じだね。もういいから、履歴書見せてくれます?
学:はい、どうぞ。あ、落書きしないでくださいね。
面:なんでだよ! しないでしょ!
学:マジでお願いしますよ。次の面接でも使うんで。
面:落ちる気満々だな! (履歴書を見ながら)あれ、写真貼ってないよ。
学:そうなんすよ。ちょっと、選びきれなくて。
面:(溜息をつきつつ)オーディションじゃないんだから! 顔が分かれば何でもいいのに。
学:何でもいいって、失礼な奴だな!
面:失礼なのは、君の方だよ!
学:だったら、好きなの、選ばせてあげるよ。
面:上から目線だなー。もういいや、めんどくさい。早く出して。
学:(もったいぶった様子で)エントリーナンバー……1!
面:いいから、早く!(手から写真をひったくる)何これ。顔映ってないじゃん。
学:寝起きドッキリなんですよ。
面:誰が撮ったの!
学:自撮りです。
面:ドッキリじゃないじゃん! いいから、顔映ってるの出してよ。
学:以上です。
面:え? エントリーナンバー2は? さっき、1って言ったじゃん。
学:まあ、そんな過去もひっくるめて……僕です!
面:(傍白)あー、いちいち腹立つなあ。ぶっ飛ばしたい!
学:何か言いました?
面:何も。……もういいよ。どうせ、落とすし。
学:なんで?
面:採用する理由がないでしょ!(履歴書を指差しながら)ここもさ……住所、途中で切れてるし。電話番号も書いてない。これじゃ、連絡取りたくても取れないでしょ。
学:見せてください。(履歴書を覗き込んで、指差す)住所、書いてあるじゃないですか。第三公園って。
面:え? 公園に住んでんの? 家は?
学:ありません。
面:そんな奴、雇えるか!
学:いやいや、それはおかしくないですか。まず働くでしょ。で、お金をもらうでしょ。それから、部屋を借りる。普通はこの順番でしょ。店長だって、働く前は公園に住んでましたよね。
面:そんなわけないでしょ!
学:じゃあ、一歩譲って……。
面:一歩! 譲るなら百歩譲ろうよ!
学:働く前から普通の家に住んでたとしましょう。
面:あ、そこ、譲るのね。まあ、事実だけど。
学:じゃあ、なんで僕は公園暮らしなんですか。
面:それ、お前の事情! 親に聞け! 親に!
学:親いないんですよ。
面:あ、訳あり?
学:ええ。家はないけど、遺影はあります。(遺影を持つジェスチャー)
面:あ、ごめん。そうか。亡くなられたのか。
学:え? そんなこと言ってませんよ。
面:今、遺影って。
学:イエイ。(両手でWhat’ up!みたいなジェスチャー)
面:お前が逝け。
学:何か言いました。
面:別に。(履歴書を見ながら)ここさ、保護者の署名欄の名字、違うよね。
学:あ、それ、友達に書いてもらいました。
面:ダメでしょ! 大人に書いてもらわなきゃ。
学:大人ですよ。一緒に住んでるし。
面:第三公園に?
学:もちろん。
面:もしかして、ホームレス?
学:もちろん。
面:仕事とかしてないの?
学:もちろん!
面:それ、ダメなやつじゃん!
学:ダメじゃないです。病気してますよ。
面:具合悪いの?
学:違う違う。病人のふりして、河川敷とか役場とかで、お金とか食事とか恵んでもらうことです。
面:それ、病気するって言うの?
学:え? 言いません?
面:言わねえよ! あとさ。ここ。学歴のところなんだけど。
学:何か?
面:英語で書いてあるけど、どこの国にいたの?
学:日本ですよ。
面:Nothern waters Junior High Schoolって。
学:北沢中学校です。
面:なんで英語にしたんだよ。
学:全体的に日本語ばっかりだな、と思って。デザイン的に?
面:もしかして、志望動機のところの英語も?
学:あ、それ、ローマ字で書いてるだけです。
面:読みづらっ!
学:きっとそうだろうな、と思って。
面:何の気遣いだよ! ええと。コンビニの経験は?
学:コンビニ? 経験あります!
面:どこでやってたの?
学:え……。これ、言っちゃっていいのかな。
面:よそのコンビニで経験があっても、特に問題ないよ。
学:あ、そういうことじゃなくて。……ここでやってました。
面:え? どういうこと? いつの話?
学:昨日、とか。
面:いやいやいや。昨日、働いてたなら、なんで今、面接に来てんの、って話になるよ。
学:あ、あれ? 経験って、もしかして、働いた経験のことですか。
面:当たり前だろ! 何の経験だっていうんだよ。
学:万引き?
面:(唖然とする)……ちょっと待て。さっき、ここでやってたって言ってなかったか?
学:まずかったですか。
面:(スマホを取り出しながら)昨日やったって言ってたよな。……警察呼ぶか。
学:嘘つき! 特に問題ないって言ったじゃないですか!
面:そういう意味じゃない!
学:もう! いいですよ。だったら早く警察呼んでください。
面:開き直りやがったな、こいつ。
学:履歴書も返してください。警察に雇ってもらうんで。
面:絶対、雇われないよ!
学:え! だって僕、土日祝日、出れますよ!
面:うーん……採用!
(幕)
ショートコント 面接シリーズ~「経験者」 鵜川 龍史 @julie_hanekawa
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