第15話 期待












 あの子はね。


 あの方は言った。

 とても嬉しそうに。

 とても心躍らせて。

 とても愛おしいと表情で語って。


 あの子はね、姫様、王子様。

 

 あの方が胸を張って話すものだから。

 どんな子だと、直接会うのをとても楽しみにしていた。


 例えば。

 目はキラキラに輝いて、全身が生命力とやる気に満ち満ちているという想像とは違う。

 死んだ魚の眼で、全身無気力感が漂っている少女だったとしても。


 楽しみだという気持ちが損なわれる事は決してなかった。




 この子ならと。

 期待してしまう気持ちが損なわれる事は。

 決してなかったのだ。


 例えばこの子に。

 期待を背負うつもりが一切なかったとしても。


 期待せずには。

 いられなかった。


 









(2023.10.6)



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