第12話 やりがい
なーんにもやりたい事はなかった。
師匠に拾われてから、手伝いはしていたけど、お願いされたからしただけ。
何も積極的にやろうとはしなかった。
積極的にやりたい事を見つけたいとすら思わなかった。
他の子どもたちのように夢を持って、その夢を叶える為に努力しようとも思わなかった。
このまま師匠の手伝いだけして生きて行くんだろうなあ。
ぼんやり考えて、別にそれでいいと思っていた。
師匠に『菫県』の姫の飛脚をするようにと言われた。
ただ『菫県』と『水仙県』の姫と王子の恋文を届けるだけの簡単な仕事だから、と。
確かにその通りの仕事だったのだ。
その割にはお給金は高いし、主からは時々植物がもらえるし、王子からは時々お駄賃のお菓子をもらえるし。
けれど、最初の内はやりがいだなんて、感じてはいなかった。
高いお給金をもらえる事にも。
植物がもらえる事にも。
お菓子をもらえる事にも。
一県の姫と王子に飛脚として仕える事にも。
別段、喜びを感じる事はなかった。
ただ師匠の手伝いの延長だと思っていたのだ。
いつから私はやりがいだと感じるようになったのか。
答えは簡単。
姫と王子が好きになってから。だ。
姫と王子の恋文を読んでいる時のとても嬉しそうな、幸せそうな、ぽやぽや笑顔がもっと見たいと、ずっと見ていたいと思うようになってからだ。
高い給金も、植物も、お菓子も、もらえたら嬉しくなった。
すごく、すごくやりがいを感じるようになった。
給料泥棒、だなんて、莫迦にされる事もある簡単な仕事だったけれど。
全然気にならなかった。
簡単でよかったのだ。
難しい仕事だったらきっと、師匠は私にお願いしなかっただろうから。
簡単な仕事でよかった。
姫と王子に会えてよかった。
あなたたちのおかげで、私は今を生きているのだから。
あなたたちはきっと、私にそんな熱量があるだなんて思ってもいないでしょうけれど。
「私と一緒に恋文を守ってください」
私はもう一度、狼と狐にお願いをした。
姫と王子が悲しむ顔だなんて、見たくなかった。
見た事なんてないから、これからも見ないでいたかった。
(2023.10.4)
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