第11話 特別




『なーんにも教える事はないよ。この子たちは特別だから。この子たちはね。あんたが食べる物をあげていいし、おトイレはいつの間にか然るべき場所でするから。本当に特別で超健康だからね。ああ。もう、諸々の予防接種も済ませているしねえ。あ。でも、一緒に暮らしている人間がいますよって証の足輪はした方がいいね。うん。えーと。ほら。これを無料であげるよ。毛と同じ色の足輪ね』




 野良の動物の面倒を見ているお店『笹の世』の店主、笹世ささよは、顔から飛び出す立派な三日月の髭を撫でながら言ったのだ。


「特別特別って。まさか動物の言葉が。でも、この子たち鳴いてなかったし。もしかして、心が読めるとか。ううん。やっぱり、専門家だからわかるんだ。すごいなあ」


 空の城の弥栞の自室にて。

 姫の自室から一部屋空けて隣にあるその部屋で、弥栞はベッドにではなく、床から少し高い場所に設置された畳の上で大の字になっていた。

 狼と狐は、ちょこんとおとなしく弥栞の見える場所で座り込んでいた。


「本当に特別なのかな」


 時折、姿が消えたかと思ったら、いつの間にか戻って来ている。

 おトイレをする場所から出て来たと、城で働く人たちから言葉もかけられた。

 引き戸である扉は自分で開け閉めしている。

 ご飯もがっつくわけでもなく、おとなしく食べていた。

 ただ、食べられているところを見せたくないのか、背を向けてご飯を食べてお水を飲んでいた。

 めったに鳴かない声も控えめで、あちらこちら闊歩するわけでもなくほとんどちょこんとおとなしく座り込んでいる。


「特別なら、私と一緒に恋文を守ってくれないかな」


 狼と狐の目をしっかりと見つめたのち、弥栞は身体を起こして座を正すと、お願いしますと頭を下げたのであった。











(2023.10.4)



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