第10話 狼と狐
『菫県』内に建設された『菫県』の城、空の城。
空の色を写しとる城の外観は、夕刻の今時分は優しい蜜柑色に染まっていた。
「あら。弥栞。その子たちはどうしたの?」
空の城の桜霞の自室にて。
その赤い瞳には映っていただろうに、銀夜からの恋文を手渡してからたっぷりと時間をかけて読み終えてのち、またまたたっぷりと時間をかけて紅茶を飲み干した桜霞はようやく、弥栞の両肩に器用に座り込んでいる二匹の動物の存在に気づいては尋ねた。
「犬………かしら?」
左肩に座り込んでいるのは、全身がもふもふの紺青色の毛並みに、細長い耳と凛々しい顔立ちの犬、のような動物。
右肩に座り込んでいるのは、全身が艶々の禾色の毛並みに、伏せ耳で愛らしい顔立ちの犬、のような動物。
「野良の動物の世話をするお店の方には、左が狼で、左が狐と言われました」
「ふ~ん。まあ、犬も狼も狐も同じようなものよね。弥栞。ちゃんと面倒みるのよ」
「面倒を見ないといけませんか?」
「だってここまで連れて来たって事は、離れないんでしょう?」
「はい」
銀夜から恋文を受け取って、また誰かに追いかけられたら嫌だと、白の城から空の城まで最速で走ってきたはずが、いつの間にか、両肩にちょこんと座り込んでいたのだ。
番犬を雇ったんですか。
昼間の三人とは違う空の城の警備兵に言われるまで、弥栞はまったく、二匹の存在に気づかなかった。
もちろん、城に入る前に離れさせようとしたのだ。
しかし、野良の動物を面倒見てくれる店『笹の
『まあ。う~ん。うん。相性はいいみたいだし。きっと君を助けてくれるよ』
なんて、店主のおじさんに言われたが。
(動物なんて、これまで一緒に暮らした事がないし。死ぬまで面倒見なくちゃいけないだろうし。でも。番犬。じゃなくて、追い返してくれる動物は、うん)
必要かもしれない。
「桜霞さま。この子たちと一緒に暮らしても構わないでしょうか?」
「ええ。おとなしそうだし。恋文に手を出さないでくれたらあとは。まあ。おトイレはちゃんと教えてあげてね」
「はい。これからまた『笹の世』の店主に話を聞いてきます」
「うん。だったらあとは問題ないわ。今日も恋文を届けてくれてありがとう。返事は明日渡すから、ゆっくり休んで」
「はい。ありがとうございます。失礼します」
弥栞は桜霞に頭を下げてのち、自室から退出した。
「恋文が狙われるようになっちゃった。か」
桜霞は刹那、表情を一変させて、弥栞が退出した扉を見つめていた。
(2023.10.4)
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