十一話 北部三国


中央大陸北部諸国は歴史を辿ると、彼らは全て北部民族アルトニアンの民が源流である。


彼らは特徴は北方の雪国で鍛えられた大柄な体格と濃い体毛、強靭な精神力、他を圧倒するような腕力。

気性が荒く、略奪と戦争を好む民族であった。



しかし、魔術が戦いに運用され始めると魔術適性が弱い彼らは必然的に弱者となる。


そのため、彼らは東部の高い魔術適性を持つルダン人に侵略され始める。そこで、アルトニアンの民は旧・アルカンタラ帝国皇帝に庇護を求めて忠誠を誓う。


アルトニアンの民の土地は旧・アルカンタラ帝国の国土になり、アルトニアンの民は5分割され、彼らの5人の代表者が地方領主なる。



その後旧・アルカンタラ帝国皇帝の権威が失墜し、内乱により帝国が崩壊。


当時のアルトニアン地方の領地であるワルガトニア、カナニア、ダルベニアは国家として独立していくのであった。



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フィルが9つになった頃。


中央大陸の北部諸国のワルガト国 アカナニア国 ダルベニア国の頭達がダルベニア国の王城の一室に中央大陸の北部三国首脳会談が行われていた。


現在、中央大陸の北部三国はナザビア帝国の影響力が増し、中央大陸の均衡が崩れかけてきている事に危機感を感じていた。


それに追い打ちをかけるようにタライタ山脈の銀鉱山発見だ。


北部三国は密偵を放ち、銀鉱山の存在を確認すると僅か半年で巨大な要塞まで築かれていた。



しかし、ナザビア帝国程の巨大な国に立ち向かう術が皆無であり、北部諸国は無念を感じていた。



特にタルベニア国はナザビア帝国は目の上のたんこぶ以上に邪魔な存在であった。


帝国との中間地点にあるはずのタライタ山脈の銀鉱山の全ての権利が持っていかれる。



権利を主張する抗議文章を送付するも、無視を決め込まれ、攻め込もうにも僅か半年で強固な要塞が築かれて手を出せない状態である。



国家の首脳3人は円卓の席に座る。


1人目はダルベニア国のアグナー外交官

2人目はアカナニア国のクラウス執政官

3人目はワルガドニア国のエッベ宰相



「ナザビア帝国は力を持ちすぎている。先のベルマレン王国と戦いに勝ち、属国にするのはやり過ぎじゃ」


「このままだといつの日にか魔大陸全土を支配下に抑えてしまうかもしれませんな」


「失礼ながら。魔大陸なんてどうでもいい事でしょう。土地に魅力も無く、魔物が蔓延ります。人族が住める場所ではありません。それより、中央大陸の話をしましょう」


「うむ。アグナー外交官殿の言う通りじゃ。我が国と帝国の間にある銀鉱山を全て持ってきおった」


「さらにタライタ銀鉱山の獲得のために、北の国境線を拡大してきています。このままだとあの要塞を起点にタイライタ山脈以北の領土も手中に収めてしまいます」


「確かに。あの要塞は堅すぎる。我々からしてみると脅威でしかないですな」


「しかし、だからと言って我々三国同盟だけで戦うのはは難しいじゃろ」


「その通りだ。悔しいが奴らの軍は強い。特に帝国軍団の強さは尋常ではない」


「それらを考慮して私から良い提案があります」


若きアグナー外交長官は不適な笑みを浮かべながら、各国の首脳陣に中央大陸を揺るがす提案するのであった。



******************



夏の終盤になるとエラの3度目妊娠が発覚した。家族皆で喜び、はまたも涙を流していた。


そんなロベルをエラは優しく慰め、「私たちも大きな家族になりましたね」と言う。



ロベルとエラはクレモベルトからナザビアに移住をして、2年が経ちフィルが生まれた。


ロベルは子育てなど無知な若僧であった。初めての育児、父として役目、村との関係。


子供が生まれてから毎日が手探り状態であった。


しかし、"男たるもの金を稼ぎ、家族を守る" これだけは理解していた。愚直に親としての役割をこなした現在では父の風格が増して威厳ある態度が板につくようになっていた。



3歳になったネルがフィルに尋ねる。


「なんでパパないてるの?」


「僕達に兄弟ができるからさ」


「どうして?」


「どうしてって言われてもな...。母さんのお腹に赤ちゃんがいるからだよ」


「ネル、おねちゃんになるの?」


「うん。僕達で下の子を守らないとね」


「うん!!」



ーーー3人兄弟っていいな。



その日の夜は決まって、祝いの宴になる。父と祖父は葡萄酒を飲み、上機嫌になる。



珍しく深酒をして潰れかけている父を部屋まで身体強化術を使って運ぶ。


普段の威厳がある父の顔が緩み、息子に身体を運んでもらっている事に琴線が触れたのかロベルは饒舌になる。


「フィル。お前は立派な長男だぁ」


「うん。ありがとうございます」


「昔はぁ ちょっとひ弱な子かもしれないと思ってたがなぁ、違う。お前はきっと強くなれる。絶対にぜったぁいに兄弟を守れよぉ ヒック」


「わかってるよ。父さん」


「ほんとぉか?」


「うん。父さんの息子なんだから」


ちょっとくさかっかたなと思いながらロベルを寝かす。凄い寝息を立てた父を見て、フィルは思う。


ロベルは今まで立派な父であろうと家族のために毎日朝から夕方まで働き、文句の一つも言わない。30代前半、まだ若い。

悪態の一つもついてもおかしくない。



ーーー本当の子でなくとも、尊敬しているよ。父さん。



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タライタ山脈から銀鉱山が発見されてから約2年が経過した。


タライタ要塞が築かれた。要塞からナザビア帝国領内の玄関口であるオルブライト辺境伯領内は必然的に発展し始めた。


元々辺境伯爵領は農作物の生産率が低い。


かつて、オルブライト伯爵は領民に農業をやらせていたが、大半の者が税を払えず農奴となった。

さらに、大寒波などにより一部の村内で人が人を殺して食べるという前代未聞の事件まで発生した。


そこでオルブライト伯爵は苦肉の策として、木製の犂や耕作用の地均し器などの農具、机、椅子など、手工業などを領民に行わせて、何とか領民から税を徴収していた。



しかし、現在はオルブライト辺境伯爵領は2年前とは違う。


オルブライト伯爵家当主はカルロスは城の窓から、帝国南部ハレングルド領産の葡萄酒を片手に街を見下ろして考える。


大して特産物のない北の辺境から銀鉱山が出現して、皇帝宰相直々に銀鉱山事業に参加を促されて莫大な利益を得た。


そして、領内もかつてない程の盛り上がっている。


鉱夫や派遣された騎士団、要塞の労働者、地質の専門家達、冒険者、様々な属性の人々が集まり、領内の産業に金を落とす。


荒くれ者も増えて治安も多少は悪化したが、衛兵の数を増やせば落ちつくだろう。



「平和な国境を警備して細々と終わると思っていたが、こうも変わるとはな…」


この鉱山がしばらく絶えることはない。


国境には堅固な要塞が築かれ、付近に新たな村々も増えた。孫の代まで安泰であろう。




コンコン

扉を叩く音がする。


「執事のラウロです」


「入れ」


「失礼いたします。アーロン・ノーラン宰相閣下の従者殿からご連絡を承ったのですが...。ご都合が悪かったでしょうか?」


入室してきた温和な顔の若い下僕は酒気帯びた主人の顔に気づき話す。


「話せ」


「は、はい。タライタ要塞から領内への街道を拡大したいとの申し出と街道警備の詳細な管轄区分の取り決めをしたいとの事です。従者の方にお待ちいだいておりますが、再度ご連絡するとお返事致しますか?」


「...。どちらの申し出も受けると伝えておけ。詳しい会談の日程は後日だな」


「はい。」


「それと私もタライタ要塞の視察に行きたいと考えている。その主旨の手紙を今渡すから、従者に持ち帰らせろ」

机から一枚の便箋を出し、渡す。


「はい。承りました。では、失礼致します」



執事のラウロが部屋を去ると、オルブライト伯爵は再び窓の外を見て考える。この領地、私の代でどこまで発展させれるか。



*****************



後日、オルブライト伯爵はアーロン宰相にタライタ要塞の視察を兼ねた会談の申し出を渡される。これを受諾して更にその後日、急増ながら整備された街道を通り、自前の白塗りの馬車でタライタ要塞へ向かう。

街道は多くの労働者で溢れ返り、混雑していた。



ーーーなるほど。これは道の拡大は必要だな。



タライタ山脈銀鉱山は山脈の左端の小山から産出する。山の麓付近には山肌が削られて、数多の坑道の入り口があり、それらを囲むよう厚みのある石材で作られたニ重の城壁がある。


さらにナタリア帝国は現在は国境線を拡大しており、タイライタ山脈の小山を占領して、山の周囲に長い城壁が築かれている。


城壁を2度潜り抜けると銀鉱山付近は既に小規模な街へと発展しており、飲食店、宿舎、軍団の訓練所、更には風俗街まで存在した。


目的のタライタ銀鉱山総督府に到着すると、慌てて従者らしき人物が出てきて、アーロン宰相がいる部屋まで案内される。


コンコン


「オルブライトでございます」


「入ってくれたまえ」


「失礼します」


「よく来てくれたな。オルブライト辺境伯爵。どうだ?タライタ要塞は」


「はっ。素晴らしい発展速度かと。この期間で要塞としては堅固であり、中は街として発展してきておられます。北の蛮族達は恐れを成しているでしょう」


「そうか。先の戦争で労働力だけは得れたからな、そのおかげで何とかなった」


「そのような事が」


「この辺で重労働をしているのはベルマレン人奴隷達だけだ」


「さて無駄話はやめて街道の話をしよう、今は伯爵領の入領税をとっていないが、来年の春からは税はしっかり搾り取る。その代わり街道の6割の警備を任せる。そしてこれは頼みなのだが、国境警備の人員を倍にしてくれ」


「国境警備の人員をですか?」


「ああ北部諸国の動きがおかしい。例年のような嫌がらせもない」


「考えすぎでは...?」


「ふむ。ならお前が責任をとれるのか」


「い、いえ!大変申し訳ございません。警備人員を増やさせていただきます」


「うむ。詳しい事は文書で送ろう」


「はい」


この後アーロン宰相と雑談をして、帰路につく。

馬車の中でオルブライト伯爵は思う。



ーーあの宰相。知略に優れた方と評判だが、臆病者ではないか。



道中でタライタ要塞からの早馬で伝令がくる。

かなり焦った様子の伝令兵は告げる。


「アーロン宰相様より緊急の伝令のため、無礼をお許しください。タライタ要塞におよそ7万の兵が進軍しています!現在は先頭の軍団がカルネド川近辺まで近づいている事が確認されています。

オルブライト伯爵殿も至急、タライタ要塞以北の国境線前の荒野にて兵の集結を要請致します!」


「なに!?6万!タルベニア国になぜそんな兵力がある!?」


「タルベニア国だけではございません!ワルガトア、カナニア、ダルベニア、北部三国が連合軍として侵攻しております!」



オルブライト伯爵は驚きのあまりに、言葉が出ない。

徐々に状況を理解してその顔は青ざめながら、城に脱兎の如く帰陣する。



戦いの火蓋は斬られた。領地繁栄から急転直下、窮地に立たされているオルブライト伯爵領は戦乱の中心となりつつあった。

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