地図の場所にたどり着いて、周りをきょろきょろと、挙動不審に見渡す。

レトロな感じの黒い黒板に、カレーの絵が書かれた小さいお店を見つけて、扉を開いた。

カラカラと、おそらく飲食店入店の特有の音を鳴らして店内に足を踏み入れる。

独特なスパイスの匂い、空腹を刺激する、カレーの匂い。純粋にテンションが終わった。

「いらっしゃいませ。お好きなカウンター席へどうぞ」

 お昼時を外していたこともあってか、店内は空いていた。適当なカウンター席に座って、店員さんからメニューをもらった。若い男性の店員さんだ。これは完全な偏見だけど、こういう小さいお店の男性スタッフさんは髭を生やして鍔付きの帽子を後ろにやっているイメージが強かった。

 なんてどうでもいいことを考えながら、メニューを覗く。

 私は辛いものが大好きだ。基本的にどれだけ辛くても食べれてしまう。こういう、ちょっとおしゃれなカレー屋さんは、辛さが好みで選べるところが1番いいと思った。

「タンドリーチキンとささみのスパイス揚げのカレー、辛さ5でお願いします。あと、マンゴーラッシーも」

 マンゴーラッシーは、以前兄からめちゃくちゃうまい、とだけ聞いていて飲んだことがなかったので、あったら絶対飲もうと決めていたものだ。

「かしこまりました」

 にこやかに笑って、店員さんは私からメニューを受け取った。

 それからは、しばらくスマホタイムだ。次はどこに行こうかと、地図アプリを活用して検索する。と、先ほど川の写真をポンと送っておいた友人から通知が来た。

『めっちゃ綺麗〜。いいところでよかったね!お昼ご飯何食べるのー?』

 と。

 私は今からオシャンなカレーを食べると返信をした。暇なのか、すぐに既読がつく。

『いいなー。それも写真送ってね』

 もちろんだとも。

 無言で頷いて、周辺のマップを検索し直す。どうやら近くに、リサイクルショップがあるみたいだ。もしかしたらいい家具や食器が売っているかもしれない。食べ終わったら見に行こう。

 そんなことを考えていると、店員さんが近づいてきた。

「お待たせいたしました。熱いのでお気をつけてお召し上がりください」

 ほかほかと湯気を立てて、私のカレーはやってきた。カレー独特のスパイスの匂いに、より一層空腹心がくすぐられた。マンゴーラッシーも美味しそうだ。

「いただきます」

 ご飯とカレー、同じくらいの量をスプーンですくって、食べる。

 舌に強い刺激が走り抜けた。それと同時に何十種類ものスパイスの香りが鼻を抜ける。私にとっては素晴らしい辛さだった。とても美味しい。いつかこんなカレーを家でも作れるようになりたいものだ。

 兄が太鼓判を押したマンゴーラッシーに手をかける。ストローを吸い上げると、濃厚なまったりとした冷たいマンゴーの味と、爽やかな酸味のヨーグルトの味わいが口内をさっぱりとしてくれた。これはうまい。

 ささみの唐揚げも、カリカリジューシーで最高だった。タンドリーチキンなど、もはやカレーのトッピングの王様なのでは?レベルでうまかった。

 やっぱり、ご飯を食べることはいちばんの幸せだ。これ以上なものはないだろう。人間の3代欲求の一つになっているのも頷ける。

 1人で勝手に幸せを感じていると、店員さんがにっこり笑いかけてくれた。

「美味しそうに食べてもらえて嬉しいです。ありがとうございます」

 そう言われて、そんなに美味しそうに食べていたのかとびっくりする。少し恥ずかしい。

「すごい美味しいです」

「ありがとうございます。お姉さん、ここら辺の人ですか?」

「そうです。つい先日引っ越してきて。今この辺を探索中なんです。行き当たりばったりで」

 少し緊張気味に、正直に話す。こういうのは縁だ。何かしらのうれしい情報が手に入れば最高である。

「そうだったんですね。じゃあ、大通りをずっとまっすぐ行くと、昔ながらの商店街とショッピングモールが合併しているところがあるので、楽しいかもしれません。よければ、行ってみては?」

 なんともうれしいご提案に、私は思わず口元をほころばせた。

「ぜひ行こうと思います。ありがとうございます!」

「とんでもない。このまちへようこそ。また、生活が落ち着いたら食べに来てくださいね」

 それに大きくうなずいて、私は残りのカレーを堪能したのだった。



 店員さんにお礼を言いながら店を出て、自転車の前ではたと立ち止まる。そういえば、友人に写真を送るのを忘れていた。ポンとカレーの写真を送り付けて、さっさとスマホをしまう。今度こそ自転車にまたがり、商店街へと向かった。

 大通りを走っていくと、ちょうど桜並木になっていて、花弁が風に乗って舞を踊っていた。見とれていたい気持ちはあったが、あいにく自転車とはいえ運転中である。しっかりと前を向かなければならない。

 ひたすらまっすぐ一本道を走っていると、それらしき建物が見えて生きた。いい感じの古臭さ。素晴らしい。

 適当な場所に自転車を止めて、中に入る。さて、何か面白いものはあるかな。 

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ニンゲン 満月凪 @ayanagi0527

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