対面
「ミッキーさんの動画を見て、本当に感動したので、おれ、今日をめちゃくちゃ楽しみにしてて!」
対戦会場は寿人の部屋だった。プレイヤーである修斗と幹彦、立会人の寿人。部屋には三人だけしかいない。
部屋に通された修斗は礼儀正しく手を差し出したが、幹彦は握り返さなかった。
退屈そうな表情で吐き捨てるように言う。
「本当に感動したのならその手に菓子折りがあるべきじゃないか? 礼儀も知らない馬鹿が」
修斗は一瞬だけ目を丸くして、すぐに元の表情に戻った。
「……へぇ、そんな感じなんですね。意外です。もっと気さくな人だと思ってました」
「馬鹿が。人を勝手に想像するな」
さすがの修斗も、この短期間に二度も馬鹿と呼ばれてカチンときた。
楽しみにしていたのも感動をしたのも事実だった。それをこいつは無視して、それどころか罵倒で返してきた。
――――言われっぱなしで終われない。
「菓子折りはあえて持ってこなかったんです」
「は?」
「食べるたびに思い出したくないでしょ、敗北の味」
「お前の方こそいいのか? これから一生、スタブラをプレイする度に思い出すことになるが。自分の惨めさを」
双方の目線が交差する。
寿人は気まずくなって「ま、まあまあ」と割って入った。
「仲がいいのはいいけど、あんまり強い言葉を使うのは良くないと思うなあ」
「今のが仲良しに見えたんだったら道徳の授業をまじめに受けたほうがいいよ」
「馬鹿が」
「……そこまで言わなくてもいいじゃん」
寿人は涙目になりながらゲーム機を起動した。
「ルールを確認するね。ステージは最もシンプルな『城壁』。運要素の強いステージギミックとアイテムは無し。1vs1。時間制限はなく、どちらかが先に3回死んだらゲームセット」
寿人は設定画面をひとつひとつ確認しながら進めていった。
運要素が完全に排除されたスタ狂御用達の設定に、双方が頷く。キャラクターの選択が終わり、あとはスタートボタンを押すだけとなった。
「お互い、ゲーム開始前に何か言うことは?」
寿人がそう聞くと、修斗が口を開いた。
「ミッキーさんもスタブラが大好きなんですか?」
「は? いや、別に」
「えっ」
「退屈だよ、こんなゲーム。これに熱狂してるやつらは馬鹿みたいだ」
「……その、そうやって人のことを馬鹿ってひとまとめにして見下すの、やめたほうがいいと思います」
「馬鹿は馬鹿だろ。俺と比べて勉強とかスポーツ、どれをとっても劣っているくせに、大好きなスタブラでも勝てない。これを馬鹿って呼ぶ以外にあるか?」
修斗は少しだけ声を荒げた。
「好き嫌いと強い弱いは関係ない! おれだって最初は弱かった。でも、弱いときからスタブラが大好きだ」
「――――ははははっ!」
突然笑い出した幹彦に二人は戦いた。
「何がおかしいの?」
「まるで今が強いみたいじゃないか」
「おれは強いよ」
「西小で一番? 所詮小学生レベルだろ、馬鹿が」
「……じゃあさ、もしこのスタブラ勝負でおれが勝ったら、馬鹿って言ったこと謝ってくれないかな」
「は?」
「負けないんでしょ。だったらもしおれが勝ったら、謝って。そしてもう二度とスタブラが好きな人に向かって馬鹿って言うな!」
拳を強く握りしめながら修斗は言った。
幹彦の一連の発言は、スタブラを丸ごと馬鹿にされているように感じたのだ。
「なるほどなあ」
その言葉に対して、幹彦はゆっくりと返答をする。
「じゃあお前、俺に負けたら二度とスタブラやんなよ。いいよな。人に賭け条件を提示したんだ。お前も飲めよ」
「…………」
修斗は無言で唇をかんだ。スタブラをやめる。それは嫌だ。
でも、ここで引き下がることはできない。
「わかった。やろう」
二人は何も言わずコントローラを握った。
画面を向く。
3秒後、勝負が始まる。始まってしまえば二度と引き返せない勝負が。
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STYLISH!!!!!!!
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