ミッキー
馬鹿ばっかりだ。
春風東小学校に通う六年生の
授業を聞いていれば満点以外取りようのないテストで八十点すら下回る馬鹿。
見え見えの先生の逆鱗に触れて授業時間まるまる説教される馬鹿。
島根県と鳥取県の位置すらわからない馬鹿。
そんな人間と日々を過ごす彼は、ひたすらに退屈だった。
でも彼には一つだけ気になることがあった。
馬鹿どもは、いつも楽しそうなのだ。
テストの点が壊滅的でも、先生に怒られても、都道府県の場所がわかっていなくても、彼らはいつも、楽しそうに笑っていた。
幹彦にはそれが我慢ならなかった。
どうして何も持っていないお前たちのほうが、楽しそうなんだ。
馬鹿どもはよく放課後に集まってゲームをしていた。
大乱戦! スタイリッシュブラスターズ。
スタブラが馬鹿どもの人生を楽しくさせているのか? それをやれば、自分の退屈も少しは紛れるだろうか。
幹彦は学習塾の成績を落とさないことを条件に、ゲーム機とスタブラを買ってもらった。
「大乱戦! スタイリッシュブラスターズ!」
ゲームを起動し、ソロプレイを選択する。
幹彦はすぐにコツをつかみ、CPUの難易度をどんどんあげていった。
プレイしてから30分ほどで、難易度MAXのCPU戦に苦戦しなくなり、翌日には難易度MAX・CPU8人対戦をノーダメージで勝ち抜けるようになっていた。
「……こんなもんか」
もちろん、スタブラはそんな簡単なゲームではない。
難易度MAXはやりこみ用であり、熟練者でも、1vs1ですら安定して勝利することは難しいと言われている。
ある日幹彦は、クラスメイトに向かって「スタブラ買ったんだけど、俺も混ぜてくれよ」とお願いをした。
「ミッキーもスタブラはじめたんだ。いいよ」
普段は遊ばないクラスの秀才がスタブラをやるということで、あっと言う間にメンバーが集まった。
「手加減はしないぞ!」
「勉強ばっかりしてるミッキーなんかに負けるもんか」
口々に目標を語るクラスメイトを幹彦は冷めた表情で見る。
お前ら馬鹿どもが俺に勝てるわけがないだろう。
その言葉通り、幹彦はクラスメイト7人を瞬殺した。
もちろんノーダメージで。
「……え?」
「嘘」
「ミッキー、やばくね?」
幹彦は、東小最強の称号を手に入れた。
「退屈だ。こんなゲームに馬鹿どもは熱中してんのか?」
納得がいかなかった。
ゲームが退屈なことも、大敗北したクラスメイトが、それでも楽しそうだったことも。
そして次第に、スタブラに腹が立つようになった。
こんな退屈なゲームに世界中が熱狂するのはおかしい。楽しんでいるのはおかしい。だから彼は、自分のプレイを見せつけるかのように、動画投稿をはじめた。他プレイヤーとコラボし、蹂躙をした。
見ろよ、馬鹿ども。お前らは大好きなスタブラでも、俺に勝てないんだぜ。
自分がスタブラの頂点に居続けることで、スタブラとそのファンのしょうもなさを感じることができた。投稿動画のコメント欄に沸く馬鹿どもを、今日も彼は見下していた。
「なあミッキー。うちのクラスメイトと遊んでやってくれない?」
ある日、幼馴染の寿人から連絡があった。
寿人と仲良くしていると親がいい顔をするので、関係を良好に保っていた。
「俺の実力を知った上で言ってんの? それ」
「うん。あの開幕キルの動画を見せたら、『戦いたい!』って言いだして」
「ふーん。スタブラ、強いの?」
「……わかんない。一回だけ遊んだことがあるんだけど、その時は別にって感じだった」
寿人レベルで『別に』ということは、雑魚いんだろう。
しかし――幹彦は考えた。
きっとその挑戦者はスタブラの大ファンだ。そんな大ファンを、全然スタブラ好きじゃない俺が叩き潰すのも、退屈しのぎにはなるかもしれない。
舞い上がった馬鹿を叩き潰すのもアリだ。
「――――いいよ。その身の程知らずを連れてきて」
「ごめんねえ、ありがとう」
馬鹿ばっかりだ。
幹彦は、退屈の中に生きている。
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