最終話「幻想的な夜に——」
思い出した、全部思い出した…!
なんでこんな大切なこと忘れてたんだ……
あの夏の日、君と約束したじゃないか!!
僕は今"ある場所"に向けて必死に走っている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
だんだんと重くなってきた足を叩きながら歩を進める。
「すみません、すみません」
人混みをかけ分けながら目的地を目指す。
後ろからは既に花火の上がる音が聞こえる。
人混みを駆け抜けるとそのまま木々生い茂る森へ入る。
あの時、あの日のように木々をかき分けて前に進む。
足がもつれながらも必死に前に、前に…
しばらく走ると目の前の景色が開けた。
あの日の景色と重なる。
そこで僕は走るのをやめて息を整えながらゆっくりと歩き出した。
「すー、はぁ」
そこで1度大きく深呼吸をした。
そして、5年越しに。
「待たせてごめん、"七海さん"」
すると彼女、天音は振り向いて、そして俯いた。
どうやら泣いているようだった。
そんな天音にそっと近づいて声をかける。
「ごめん、ごめんね。5年も待たせちゃって…」
すると天音は涙を拭いながら言う。
「ううん、いいの。これは悲しい涙じゃなくて、嬉しい涙だから」
そんな天音の言葉に僕の目頭も熱くなる。
「じゃあ、見よっか」
天音がそう言うと僕達は揃って前を向いた。
目の前では既に花火が上がっていた。
色鮮やかな火球が漆黒の空を色とりどりに埋めていく。
華々しい形は、やがて形を失い地に落ちていく。でも、次の瞬間にはまた新たな色で空を埋めている。
「綺麗だね」
するとふと天音がそう言った。
『君の方が綺麗だよ』
なんてキザでありきたりなセリフがすぐに出てきたらどんなに楽だっただろうか。
でも僕にはそんな言葉を言う勇気も度胸もない。
それでも、それでもっ!!
伝えたい想いが
「ねぇ天音」
「ん?」
僕が話しかけると天音は首を傾げる。
「小5の時…僕を救ってくれたあの時から、天音の優しさ、時にはかっこよさ、そして可愛さ、でも時々おちゃめなところもあって、そんな天音がずっとずっと大好きでした」
そこで一呼吸置いてから続ける。
「そんな大好きな天音とこれからたくさんの時間を一緒に過ごしたい」
だから、と言って言葉を紡ぐ。
「僕と…僕と付き合ってくれますか?」
かなりの時間、間が空いた。
いや、実際にはほんの少しの時間なのかもしれない。
でも僕にはそれがものすごく長い時間だと、錯覚してしまうほどには緊張していた。
そして、
「はい、こんな天音で良ければ!」
満面の笑みを浮かべて天音は言った。
そんな僕たちの後ろでは花火が空高く鳴り響く。
様々な色の火球が漆黒の空を埋めつくしていく。
そんな幻想的な夜に、僕と天音は結ばれたのだった。
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