第21話「あの夏の約束」
♦︎♦︎♦︎
「ひぐっ…うっ、ぐすっ…」
学校で唯一誰も来ることの無いだろう場所で身を小さくして僕は泣いていた。
「かあ…さん……、とう…さん……」
誰にも打ち明けることの出来ない思いを必死に自分の中に閉じ込めてただただ1人で泣き続ける。
「何で…なんでなの……!」
僕が小学5年生の時両親が離婚した。
最初はちょっとしたすれ違いだった。
だけどそれが段々と大事になっていきしまいには離婚までしてしまった。
僕は両親が大好きだった。
怒ったりすることも少しあるけど愛のある母、基本的にどんな事でも僕のやりたいことをやらせてくれる優しい父。
そんな2人の元で過ごしていた日々は幸せだった。
1歳下の可愛い妹もいて充実した毎日を過ごしていた。
そんな生活が、ある日突然崩れてしまったのだ。
そんな現状を受け入れられず、ただただ泣くことしか出来なかった。
家に帰っては家族がいるし、かと言って学校で泣く訳にもいかない。
だから僕はいつも学校の人家のないあの場所で泣いていた。
両親の離婚で泣いてしまっている弱い自分を隠すために。
「ねぇ、どうしたの?」
そんな泣いてばかりだった毎日にちょっとした変化が訪れた。
いつものようにあの場所で泣いていると後ろから声をかけられた。
顔を上げてその声の主を見た。
僕に声をかけてくれたのは、同じクラスの七海天音だった。
「ぐすっ……なんでもないよ」
泣いているところを見られたのが恥ずかしくてぶっきらぼうに答えた僕を見て彼女は優しく笑った。
「大丈夫だよ、大丈夫」
そう言って優しく僕を抱き締めてくれた。
「辛いことがあったら、泣いてもいいんだよ」
彼女のその言葉に僕は止めていた涙がまた溢れてしまった。
彼女が抱きしめてくれているというのも忘れてただみっともなく泣き喚いた。
その間彼女は優しく頭を撫で続けてくれた。
♢♢♢
それからも学校外でも彼女とはよく会っていた。
学校外だけで会う、秘密の関係に小5の僕はなんとも言えない高揚感を抱いていた。
「ねぇ七海さん、僕たちって今後どうなっていくのかな」
少し小高い丘から眼下に広がる片田舎の風景を眺めながらそんなことを問う。
「どうだろうね」
長い髪を靡かせながら彼女は続ける。
「未来のことなんて誰も分からない。だからこそ気にしてしまう。でも、こうやって綺麗な風景を眺めてるとそんなことなんてどうでも良くなるくらい心が浄化される、そんな気がするんだよね」
彼女はどこか遠くを見つめながら言う。
「そうだ!今度の夏祭り、一緒に花火見ようよ!」
先程までの朧げな雰囲気とは一転、彼女は明るい声でそう言った。
「実は花火がすごく綺麗に見える特等席を知ってるんだ!」
そうして小学5年生の夏、僕たちは特等席で花火を見る約束をした。
♢♢♢
「ほら!早くしないと花火見れなくなっちゃうよ!」
前を走る彼女を必死に追いかけていた。
どぉん、どぉん、と花火が爆ぜる音が遠くからする。
今僕は走って花火が見える特等席に向かっている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
駆け抜けた先には木々が開け、花火が真正面から見える場所に立っていた。
色鮮やかな火球が漆黒の空を色とりどりに埋めていく。
華々しい形は、やがて形を失い地に落ちていく。でも、次の瞬間にはまた新たな色で空を埋めている。
「あぁ、綺麗だ……」
片田舎の片隅で呟く声は漆黒の夜空に破裂音と共に溶けていく。
「ね?言ったでしょ?」
彼女は隣で得意げに笑みを浮かべていた。
「うん、綺麗だ」
僕がそう言うと彼女はふふ、と笑う。
「じゃあ、また一緒に来ようね」
眼前で爆ぜる花火を前に僕らは約束をする。
「うん、また一緒に」
「ここの特等席で」
そして僕らは目を合わせる。
「「花火を見よう!」」
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