第13話「胸の鼓動」
壮大な音楽と共に映画が始まった。
最初はどうやら映画製作会社の宣伝だった。
吊り橋効果なるものが成功してくれればいいんだけど欲を言えばびっくりして抱きついてきちゃったりしてくれれば大成功だ。
そして「大丈夫?」と小声で話しかけて僕の男らしいとこ見せるのだ!!
ふっふっふっ、計画は完ぺk…
ぐぅおおおおお!!
「ひゃっ!」
宣伝だと思っていたら急に画面が切り替わってバケモノがシアターに映し出されていた。
それに驚いた僕はとっさに抱きついてしまった。
………え?"とっさに抱きついてしまった"??誰に??
「ゆ… 裕涼??」
もちろんそんなの1人しかいるはずがなくて。
「や、あ…ご、ごめん」
僕は謝って天音の体から離れる。
「裕涼って実は怖がりさんなんだね」
シアターに向き直った僕の耳元でそっと呟く。
何だかそれがいけないことのような気がして、でも嬉しくて…その背徳感に心が高揚した。
そんな気持ちを体は正直に表していた。
「ここ、ドキドキしてるね」
するとそんな時に限って不意に天音が僕の胸に手を伸ばしてきた。
周りが静かに映画を見ている中体を触れ合わせる男女2人。
そんな状況が僕の心臓をさらに忙しなく動かさせた。
「あ…天音……は…恥ずかしいからさ?」
僕はかろうじて小声で天音にそう言うことができた。
「ふふ、"今は"この辺にしといてあげる」
今日はものすごく攻めてくる天音に僕の心臓は持ちそうになかった。
♢♢♢
「はあー!面白かったっ!!」
隣で大きく伸びをしながら言う天音。
「なら良かったよ」
ずっと座っていて……というか最初のアレ以降動かなくなって固まっていた体を伸ばすために僕も天音の真似をする。
「あれれ?なんか元気ないね?」
すると天音は僕の顔を覗き込むようにしてそう言った。
いや、あなたのせいなんですけどね?
「気のせいじゃない?」
僕は何となくはぐらかした。
「もしかして天音に触られて緊ちょ…」
「あーあーあー!聞こえなーい!」
僕はわざとらしく耳を塞いだり手を耳から離したりして抗議する。
「あっはは、やっぱり裕涼と一緒にいると楽しいなー」
何気なく言ったであろう天音の言葉が僕の心に刺さる。
何気なかったとしても僕にとっては大切な言葉。
もしかしたら今日だって天音にとっては何気ない日常の一つかもしれない。
でも、僕にとってはもうすでに大切でかげがえのない思い出の一ページだ。
「僕も、楽しいよ」
「ふふ、気が合うね」
僕の二歩前に駆け出して長い髪を靡かせながら振り返る天音はとても美しかった。
「やっぱり天音は可愛いな」
「え?なんてー?」
心で思っていたことがつい口から出てしまっていた。
幸い天音には聞こえていないようだったので僕は慌てて否定をする。
「や、なんでもないよ。独り言」
「ふーん?まあいいけど」
どこか納得していなさそうな天音だったが何とか乗り切れたみたいだ。
「ごほっ…ごほっ……っはぁはぁ」
すると突然天音は苦しそうに咳をした。
「え、大丈夫!?」
「………うん、……喘息、持ちなんだ」
「そう、なんだ」
何か引っかかるところがあったが天音が吸入薬を吸うと咳は治ったようなのでひとまず安心した。
でも、そんな天音を見て僕はどこか不穏な予感がしてならなかった———
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