第12話「天音だけだよ」

「席残ってるかな〜?」


 今回の天音との放課後イベントはどうやら映画を見ることだった。


 天音と2人で映画館に入って行き今は自動券売機をいじっていた。


「ホラーでいいんだよね?」

「うん」


 これは今やっている大人気ホラー映画を見ることを指しているが、僕の計画はただ映画を見るだけではない。


 「吊り橋効果」と言う言葉をご存知だろうか?


 これは怖い思いなどをして心臓がドキドキとしている時、このドキドキが隣にいる男の子のことが好きなのではないかと錯覚してしまうと言ういわゆる一種の催眠である。


 僕は今からこれを実行しようと思う。


 もうすでに気になってくれているのなら必要ないのではないかと思う人もいるかもしれない。


 だけど僕と深く関わることによっていつか僕への想いが恋とは違うものだと気づいてしまうかもしれない。そう、当初の僕の計画通りに。


 でも自分の本当の気持ちに気づいた僕はそんなチャンスを逃してしまうような下手なことはしない!!


 そう決意したんだ。


「あ!空いてたね2席!」

「お、ほんとだ。良かった」


 どこか浮ついた心を抱えながらチケットを発券し、ポップコーン売り場へと向かっていった。


「天音何味食べる?」


 レジカウンターの上に表示されてあるメニュー表を眺めながら隣にいる天音に話しかける。


「うーん、逆に裕涼は?」

「まぁ王道にキャラメルかなー」

「じゃあキャラメルにしよ」

「え、天音の好きなのでいいのに」

「いーのいーの、裕涼が食べたいって思ったのを食べたかったんだから」

「…そっか、それならいいんだけど」


 そういうもんなのかな?と疑問に思ったが天音が良した言っているならOKにしよう。


「じゃあいくか!」


 会計を済ませて2人用のキャラメルポップコーンと各々のドリンクを抱えていざ戦場へと向かう。


「え!天音じゃんー!」


 と、思っていた矢先天音がクラスメイトの一軍女子に捕まった。


「お!翠愛すいあ紫愛しあじゃん!」


 天音が翠愛と紫愛と呼んだ2人はツインテールに結っており、クラスでも上位に可愛い2人で、何かと目立っていた。


 でもそんな彼女達ですら遠く及ばぬほど天音は可愛かった。


 僕は2人と楽しげに話している天音の横顔をじっと見つめていた。


「あ、もしかして彼氏さん?」


 するとふと会話のベクトルが僕の方に向いた。


「え、あっと……」


 返答に困った天音は僕の方に助けを求める視線を出してきた。


 困ってる天音も可愛いくてずっと見てたいけど流石に助け舟は出さないとな、第一僕のことだし。


 そう思って言葉を発しようとしたが紫愛に言葉を被されてしまった。


「彼氏に決まってんじゃんー!」

「たしかにすごくイケメンだし天音とお似合いかもね」

「邪魔しちゃったねー!じゃあまた学校で!」


 紫愛の後に翠愛が言葉を続けてそのまま去っていった。


「なんていうか、天音の友達は勢いがすごい人が多いな」


 2人の背を見ながら苦笑いで告げる。


「あっはは、まあ楽しい人たちなんだよ」

「確かにああ言うタイプの人とは接点持ってみたいかも」

「………ダメです」

「え?」


 ただ自分の感想を口にすると唐突に天音に否定された。


「裕涼の女友達は天音だけなんです」


 唐突に敬語になってヤンデレ化もしてるけど別に可愛いからいっか。


「言われなくても僕には天音だけだよ」


 そんなキザな台詞セリフが出てしまうほどに「七海天音」と言う存在に僕は溶けていってしまっている。


 このままだと甘くてとろけるような世界に溶けて消えてしまいそうな、そんな予感がした———

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