第3話「笑顔」
「七海…さん?」
「え!?あ…天音のこと知ってるんですか…?」
下から伺うように首を傾げて尋ねてきた。
わざわざ隠すようなことでもないので僕は正直に答える。
「もちろん知ってますよ、逆にうちの学校で知らない人の方が少ないんじゃないですか?」
「そ…そうなんですか…」
そう言うと七海さんはなぜか妙に納得のいっていないような表情をした。
「それよりも拾ってくれてありがとうございます。これ、大事なものだったので」
少し古びた
ハンカチとして使っているわけじゃないが常に肌身離さず持ち歩いている。
「す…すみません…」
「なんで七海さんが謝るんですか…!?」
「拾おうとした時、そのハンカチ少し踏んでしまったのです…」
あぁ、そういうことか。
さっき渡してくれたハンカチの汚れもそれが原因か。
正直僕はこんなことで怒るような器の狭い人間ではない。
「全然大丈夫ですから、顔をあげてください…!」
頭を下げる七海さんに顔をあげるように言う。
すると七海さんは顔をあげて少し困った表情をして数秒沈黙が続いた後口を開いた。
「じゃ…じゃあせめて何か奢らせてください!」
「…え?」
「と、とにかくついてきてください!!」
そう言うと七海さんは僕の手を取って駆け出した。
移動中の電車の中は沈黙の時間が続き、どこか落ち着かない空気のまま目的地に着いた。
目的地は僕の地元、七海さんも東改札を使っていたところを見ると七海さんもこの町に住んでいるんだろう。
「どこに行くんですか?」
「えっと、新しく出来たカフェに行きたくて…」
七海さんが言うのはこの町で唯一のカフェのことだ。
最近できたばかりで僕もまだ行っていない。
「実はそこ僕も行きたいと思ってたんです!」
「そうなんですか!…よかった!」
七海さんは顔をぱあっ、と明るくして喜んだ。
その笑顔が眩しくて、なんだか照れくさくて顔を背けてしまった。
僕にお詫びがしたいんじゃなくてただカフェに一緒に行く相手が欲しいんじゃないかという思考も頭をよぎったが正直そんなことなどどうでも良くなるくらい透き通った笑顔だった。
「でも、奢らなくていいですからね?」
「それは…」
「気持ちだけ受け取っときます。さ、カフェ行きましょ?」
僕たちはどこか高揚した気持ちを抱えながらカフェを目指した。
「あの…来週夏祭りありますよね」
カフェを目指し歩きながら僕は七海さんの言葉に耳を傾ける。
「それで、もし良かったら………」
そこで七海さんの言葉は途切れてしまった。
「……?」
僕は七海さんの言葉を待つことにした。
でも、
「や、やっぱなんでもないですっ!」
すると七海さんはそう言って今度は儚く透き通った笑顔を僕に向けたのだった。
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