第31話 幸せな夢 2
「なに首捻ってんだよ?」
「ブッタンたちは船員と船長が話をしてたのを知らなかったんだよね?」
「そりゃあな」
「なんで知らないの?」
「そんな話があったとは知らねえからさ」
「友達いないの?」
「そういうことじゃねえ。大所帯になれば派閥ってのが生まれるんだよ」
「そうなの?」
「オマエは故郷の全員と仲良しだったのか?嫌いじゃなくても普段話さない奴は居ただろ」
そういうことか。船員は一丸となってるイメージがあったけど、ところどころでグループができていたらしい。昨日の話は、ティチュやブッタンも入っていないグループの中で決められていたみたいだ。
いや、本当にグループで決められたことなのか?大勢で船長を囲んで問い詰めることだってできたはずじゃないか。
船長を怖がってみんな着いてこなかったのか?そこで怖気づくくらいじゃ決行まで漕ぎ着けないだろうし、これは違うか。
話し合いのもと、一匹で向かった方が良いという話になったのかも。船長は大勢の前だと元気スイッチが入るというか、船長ぶるから。
ここまでちゃんとした作戦が行われていたのだとすれば、昨日のことは大仕事だ。辺りを見回して、今日の船員にそわそわした感じはあるかどうかを見てみよう。
…ダメだ。誰がどのグループか、以前に誰が変な様子かもわからない。全員眠そうな顔をしている。今まで毎日こんな調子だから、誰が特に眠そうかなんてわからないな…。
一匹一匹に聞いて回るにしても、数が多すぎる。全員に話を聞いて回ったとして、誰が犯人なのか気付けないのがオチだ。
わざわざ寝静まった時間帯に甲板で2匹きり、なんて計画を立てたなら慎重なモンスターだろうし。
船長と話をつけた一匹に運良く「昨日、船長と話をしてた?」と聞けたとして、上手いことはぐらかされそうだ。
本当にグループで行われたことだったのかすらわからないんだし、これは無しだ。
だとしたらあとの一匹が船長だという方を突き詰めた方が良さそうだ。
ブッタンたちはジブンの話を聞いて、その情報だけで推理できた。だとすればジブンは既にそう推理できるだけの材料を持ってるってことだ。
でも未だにわからないなら、見落としてることがあるのかもしれない。始めから見直してみよう。
場所は甲板の、壁際に木箱が積まれた船室の裏だ。隠れて話がしやすい場所だけど、甲板で話をするというところから疑った方が良いかもしれない。
船員同士なら寝室で雑魚寝中にできる話をわざわざ甲板でするのは、だいぶ「あの中の一匹が船長」という確証に近づく。
夢の中で話をしてたヤツはメチャクチャなことを言っていた。確かに船長は変なことはいつも言ってるけど、さすがにあんなことは言わないんじゃないか?
船長よりも声が低かったはず…っていうのは思い違いかもしれないけど。息を潜めたら普段と声の感じが変わるはずだし。
でもブッタンは船長の話を「もしかしたら」というためらいもなく出してきた。ティチュもその時焦ってたから、2匹は夢に船長が出て来たことを確信してるんだ。
どうしてだろう?ブッタンから聞くしかないな。
「ねえ、なんで船長が話をしてたってわかったの?」
「何回も話しかけてくんなよ…。考えりゃわかるだろ」
「わからないから聞いてるの」
「けっ、めんどくせえ。船員がオマエのことを引き合いに出したからだ。オマエをマジな話として捉えるのは船長しかいない」
「あ、確かに…」
一ヶ月くらい前と違って、今の船員はジブンに対してそんなに構って来ることはない。ジブンがはぐらかすのを慣れた上に、そういう奴はすぐにいなくなっていたから…。
この船には今や、ジブンを有効な材料として捉えるヤツなんて船長しかいないんだ。「あの中の一匹が船長」というのは、推理して特定するまでもなかったのか。
「じゃあ、船長と話をしてたのって誰だと思う?」
「さあな。声を聞いてみないとわからん」
「そんなに低くない声だったと思うよ。口もそこまで悪くなかったし」
「いくら言われてもわかんねえって。俺たちとニンゲンの感覚は違う」
実際に聞かないとわからないならどうしようもないか…。ティチュが更に焦りだしたのだって船長の話が出てからだったんだし、もう一匹が誰かはそんなに重要じゃないのかも。
今度は船長の隠し事が気になるな。
船員が話を聞きに行くまで、誰かにそんな話をしたことはあったんだろうか?これは船員とまともに関わっていそうなティチュに聞こう。
「船長が、夢でしてたような話をしてるの見たことある?」
「ん?いや…無いな。ミナライも無いのか?」
「うん」
「なら話さないようにしているんだろう。誰にだって隠し事の1つや2つはある」
ティチュから、この話を掘り下げるなと言われているような感じがする。本当にヤバい話な可能性が出てきた。はっきりさせずにしておく方が不安だぞ…。
隠したい事だったなら、なんで船長は話し合いに応じたんだ?ジブンが似た感じのことを聞いた時は話してくれなかったのに。
ジブンが話しかけたから、ティチュがまたそわそわし出した。ブッタンに聞くしかないか。
「なんで船長は船員の質問に答えたと思う?」
「あ?さっきも言っただろ。言い争ってたからだよ」
「じゃあスネて話さないものじゃない?」
「馬鹿言え。わざと怒らせて話させたんだよ。怒らせて弁明を誘って、情報を引き出したのさ」
「そんなやり方があるんだ?」
「初歩中の初歩だろ。短気な奴にしか通じねえしな」
わざと怒らせて話させるなんて、考えもしなかった。ミナライには言えなくて船員になら言える内容だったんじゃなく、船員の話の引き出し方が上手くてこぼしてしまったのか。
船長が短気…。あまり考えたことはなかったけど、前にピッシュを海に突き落としたことを思うと、そう捉えるべきなのかもしれない。
船長に、ジブンの故郷についてどう思ってるか、とか船長の昔の話を聞いた時のことを思い返す。その時のジブンも食い下がったけど、船長とケンカになるほど話し込んではいなかった。
そもそも、船員はなんでそこまでして船長に話を聞きたかったんだろう。船員がどんな疑問を持っているのかは知らないけど、気になることが沢山あったんだろうか。
なんなら、モンスターの感覚からしたらジブン以上に疑問を抱えているのかもしれない。
船員だって知らないことは聞きたいんだろう。
船員だけが知っている船長の顔だってムチ打ちの他にもあるかもしれないし、それなら全部抱え込んだまま過ごすのは難しいだろう。
船長の方はどういうつもりなのか全然わからないのが厄介だな…。
相手の作戦に引っかかって一回くらいは話してしまうことはあるだろうけど、船長と船員は長いこと話し合っていた。
一度話してしまったからにはと腹を括ったのか、もしくは前々から言おうと思っていたから話し合いに応じたのか…。
というより単純に、船員がしつこく食い下がったのかもしれない。夢の中で「しつこいな…何だって良いだろう。」なんて、うんざりした声を聞いたもの。
誤魔化しきれなくて、最後まで話し合いに応じるしかなかったんだろう。
でも船長、かなりうんざりしてたけど…前のピッシュの時みたいに、無理矢理話を中断しなかったのは何でだ?
「モンスターから見たら、船長って血の気が多い方なの?」
「は?なんだ急に」
「船員に手を上げなかったのが意外だと思って」
「オマエの話を出したからだろ。暴力を回避しつつ、自白も促せるし」
船長がジブンに入れ込んでるとわかる系の話は毎回ぞっとする。自白も促せるってことは、船員がジブンにチクるかと思ったらここで話してしまった方がマシだと考えたんだろうか。
相当なやり手じゃないか。そんな駆け引き、ジブンにはできない。
船長は色んな質問にうんざりしていた。あの様子だと、ジブンに隠したいことはムチ打ちの他にもあるんだろう…。
これだけ考えても、昨日の2匹が具体的にどんな話をしていたのかがよくわからない。自分に関することだとすれば、これほど怖いことはない…。いつ何が起こるかわからないなんて、怖すぎる。
「ミナライよぉ、オマエさては覚えてるんじゃ__いででっ!」
「朝から考え事をさせるのも酷だろう。飯を食うなら向こうにしよう。俺も付き合うから」
ティチュがピッシュに噛み付いて、どこか離れたところに引き摺っていく。
ティチュってあんなに口が大きいんだ…やっぱりちょっと、怖いかも。
「夢の中の声が誰かなんてわからないよな。ミナライ、あまり気にするなよ」
「う、うん」
聞こえたかどうか怪しいくらいに小さな声での返事になった。
「夢の中の声が誰かなんてわからないよな」か…。未だに「夢の中」って言ってるし、ティチュはジブンに夢の中の二匹の正体がバレるとマズイのか?船長の隠し事に関わってるとか?
ティチュは優しめのモンスターから、心配してくれてるだけかもしれない。ミナライが船長のヤバさにこれ以上気付いたら…って感じで。
ますます怪しくなってきた。
そもそも、ジブンはなんで「あれは夢だ」なんて誤解をしてたんだろう?
ブッタンが「ガキは眠りが深いんだな」なんて言ってたけど、実は昨日のジブンはあまり眠れてなかったんじゃないか?ずっとうたた寝をしていたから寝足りなくて…それで今朝、船長に呼び起こされたんじゃ?
さっき目を覚ましたのは木箱のそばだった。だから、あの場所で寝てたのは確かだ。少し居たら部屋に戻るつもりだったけど、いつの間にか寝落ちしていたんだろう。
寝る場所によって見る夢が変わるなんて話は聞いたことがないけど、場所がどこだろうと夢は見られるだろう。
でもベッドに比べたら寝づらかったから、苦しくて目が覚めた時に聞こえてきた話を夢だと勘違いした可能性はある。眠りが浅くて、長い間寝ぼけていたのかも。
村にいた頃、起き抜けに何か言われて二度寝したら「さっき言われたのって夢なんだっけ?そうじゃないんだっけ?」とわからなくなったことがある。昨日のもそんな感じだったのかもしれない。
話を聞いてる時に体が動かなかったのは、変な体勢で寝てたせいで体がバキバキになってたからとか?未だに体が痛いから、夜の時点でバキバキ化は始まってたのかも。
話し声が上手く聞きとれなかったのは、単に寝ぼけていたから?あの二匹自身も声を潜めていただろうし。
それで上手いこと判断ができなくて、夜の時点で「これは夢だ」って思い込んでたから今まで誤解してたのかも…。
そういえば、あの時話をしてた2匹がジブンに気付かなかったのはどうしてだろう。
ジブンが縮こまってたからかな。誰にも見つからないようにあそこに居たんだし、体育座りのまま寝ちゃったんだろう。
あの場所を選んだのは盗み聞きをするためじゃなかったけど、結果として良かったな。
「どうした、ミナライ。気分が悪いのか?あんな所で寝るからだぞ」
「あ、ごめん。気をつけるよ」
船長がずかずかと寄ってきては、勝手に話を進めて叱ってきた。ミナライ用の部屋で寝てなかったのが心配だったのか知らないけど、相変わらず自分だけのペースで動いてる。
いつもは気にしないでおくような小さなズレも、この時ばかりは気になった。
前に言われたことが思い出される。「ミナライは船長の本当のヤバさを知らない」って。今でも十分変な船長がもっとヤバいんなら、あんな話くらい平気でするのかな。
「あのさ。昨日の夜、木箱の近くで誰かと話してた?」
「うん?何の話だ?」
「えっとね、変な夢を見てさ」
覚えている限りの、昨日の2匹の会話を船長に伝える。「ミナライはあれを夢だと思っている」というていで話をすれば、本当のところがどちらであっても自分は危なくならない。船長だってこれだけ船員がいる中、大っぴらに怒れないだろう。
そんなことしたら、「あれは夢じゃなくて本当のことだった」って自分で証明することになっちゃうし。怒らなかったとしたら、隠し事をしているかどうかは見極めるしかないけど。
船長は嘘を吐くの下手そうだし、ジブンでもわかるんじゃないかな。
「__って感じだった。変な夢だよね?」
船長は少しの間考えこんで、喉から引きずり出すような声で言った。
「ああ。夢に違いないさ」
・・・
なんだか、船員が減った気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます