第29話 ああ、勘違い

 薄暗い部屋で、ルイと身体を重ねていた。ゆっくりとルイが動く度にボクの身体もそれに合わせて揺れる。


「あぁ、ルイ、ルイ・・・ボク、幸せだよ・・・」


 覆いかぶさるルイにそう囁く。


「ふぁ、あっ・・・」


 只でさえ、一定のリズムで侵入してくるが頭の中をチカチカさせてくるのに、耳を甘噛みされたものだから一瞬、意識がとんだ。

“あぁ、ルイがボクを・・・。ひとつになれて嬉しいよ・・・。もっと、もっと奥まで入って来てよ!!もっとルイを傍に感じたい!”

 カエルのように開かれた、ルイの背中にまわした足に力が入る。

 ・・・待って?!カエル??・・・ホントだ!!まるでひっくり返ったカエルみたいだ!・・・このボクが??


「リン・・・リン・・・」


 ルイが顔を近づけてボクの名前を呼んでる!嬉しいけれど、こんな無様な、みっともないカッコ、嫌だ!!恥ずかしい~~!!


「カエルは!カエルは嫌~~っっ!!」


 ガバッ!!


「おう!リン!!目を覚ましたか!!大丈夫か?だいぶ、うなされてたぜ?」


「フエッ?ん・・・?!ゆ・・め?!

エッ?なに?あっ、うん。体?大丈夫!体は何とも無いよ。うん、心配ない心配ない!

・・・ちょっ!顔、ちか!!離れろ!バカルイ!!」


「なんだよ。起き抜けにいきなり馬鹿呼ばわりかよ。まぁ、別に大丈夫だってんなら、それでいいんだけどよ!・・・なんだよ。馬鹿かよ。否定出来ねぇけどよ。・・・顔、赤ぇけど、とにかく大丈夫なんだな?うん、よし」


 “ああ!びっくりした!!あんな夢見ちゃうなんて!!・・・ん~、最近、ミンナいるから、出来ないからかなぁ・・・。ウ~ン、ルイとは交尾したいけど、あんなカッコはちょっと恥ずかしいや!!ルイの顔、いろいろ恥ずかしくってまともに見られそうに無いや”


「ねぇ・・・ここ、ドコ?」


 なるべくルイと目が合わないように聞いた。


「ん~?ああ、此処はあのドワーフのオッサンの家・・・いや、家、つーか、城?宮殿?オレも分からん」


 •••実際、オレも分からんのだ。


 言われるままついて行った先は何も無い、切り立った岩壁だった。そこへ爺さんが吸い込まれたかと思うと、頭だけヒョッコリ出して来て「付いてこい」と。恐らく視覚を惑わすなにかしらの魔法が入り口に掛かっているのだろうが、あン時は、岩に生首が貼り付けてあるみたいで気持ち悪かったぜ。

「オレが先に入る」リンを抱えられたままだし何より悪意を感じない。大丈夫だろう。

 岩壁を抜けると中はひんやりと真っ暗だった。

・・・そっと柄に手を伸ばし身構えると、まるで見計らったかのように爺さんの声が暗闇に響く。


「我の願いを聞き我の助けとなれ。我の欲するものとしてその姿を現せ・・・」


 呪文?!しまった!!罠だったのか?!


「リン!!」


 剣を抜き気配に集中する。クソっっ!!なんてこった!悪意を感じねぇから、居場所が不確かだぜ!!

 少し油断していた自分に苛立ちを覚えるが、今は気配探りに集中する。そんなオレの横を、一筋の光の線が横切る。

 光の線はやがて四方から飛び始め、呪文の聞こえた辺りに集中していった。線は光球を形作り、爺さんの左手の上で漂って辺りを照らす。これは・・・。

 オレの勘違いだった。剣を鞘へ収めるとほっとして、ちょっと上ずった声が出た。


「凄いですね!色々魔法が使えるのですね」


 お世辞のつもりではなかったのだが、爺さんは気にさわったのか少しムッとしているように見えた。

 中はまだ薄暗いが声の反響で大分広い事が窺える。壁を照らす光球が、見事なレリーフが浮かび上がらせているが、ヒト族にはみられない、薄ら気味の悪い様式で不安になる。今ここで化粧の濃い道化師に出くわしでもしたら、心臓の止まる自信がある。


「此処で少し待ってろ」


 オレ達を少し広めの客間のような部屋へ通すと、リンをベッドへ寝かせ、なぜか、ちらとセリセリの持ち物を一瞥すると、そう言い残し何処かへ去った。

 部屋を見渡すと、さすが戦の民、斧やら剣やら兜やらとが整然と並んでいる。その中の一番重そうな両手斧をセリがひょいと片手で持ち上げ、二度三度試し振りしながら、オレに聞く。


「さっき、ご飯の時、ちょっとあの爺さんと話したけどね。いい奴だったよ?けどな“魔法の使えるドワーフ”なんてさ、聞いたことないんだよ。うん。それはさ、いい奴、ってのとはまた別の話しなんだよね。だろ?なんかありそうだな。なぁ、お前はどうしてついて行っても平気だって思ったんだ?」


 なぜついて行ったのか?ごもっともな質問だ。リンを膝に乗せ背中を撫でてやりながら考える。それは、オレには漠然とだが、もしかすると、あのドワーフの爺さんこそがシグなのではないか?という思いがあったのだ。

 ドワーフ族は他種族を見下すような節がある。若い世代(酒場のダイアンのような•••)は大分友好的だが、年寄りは・・・。まあ、そこはヒト族も変わらんか。

 自分の一族こそが誇り高き戦士であり、魔力は持たず、己の鍛え上げた肉体で戦い、戦場で倒れる事こそが誉れなのだと。

 それなのにあの爺さん、魔法を使っていた!!なにかありそう、というより、なにかあるのだよ。あり得ないことをするには、それなりの代償を払うか、なにかを成し遂げた者、という事だ。

・・・その答えは、今戻って来たご本人に聞くとしよう。


「あの・・・すみませ・・・」

「ホレ、そこのツレに飲ませてやるといい。俺の一族自慢の強壮薬だ。すぐに元気を取り戻すだろうよ。俺の見たところ、お前のツレは変身疲れだな。

・・・なんだ?心配ならまず、お前が試してみろ。まてまて、舐める位にしておけよ?大変な事になっちまうぞ!!」


「たいへ・・・?じゃあまず、ひと舐めさせていただきますね。なんか色々有難うございます」


 銀製の薬瓶はやはり見慣れない彫金でおどろおどろしく、不安感を誘う。匂いは甘ったるい感じだが、確かに薬っぽい。指先に一滴のせチュッと吸うように飲んだ。


「くおっっっ!!こっ!これは?!」


 喉元を過ぎて身体にしみたな、と感じた途端、手も触れていないのに膝の上のリンが持ち上がった!!思わず


「ハンドパワーです」


とか言いたくなるが、こいつは、アレだ!!オレのがナニしてナニになっちまってるんだ!こっ、こいつぁスゲェ!オレは神の槍を手に入れた!いや!!亀の槍か?!

 根元からみなぎるパゥワァ~~!!はち切れんばかりの亀の頭は、無限に膨張していく感じだ!!コスモだ、コスモを感じるぜ!!

 あまりにもはしゃぎ過ぎてのリンが揺さぶられる。

 あぁ、いかん。リンに飲ませてやらなければ。ホレ。


「・・・・エル・・・」

「カエルは!カエルは嫌~~っっ!!」











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