第28話 美味い料理

 ほんの三百歩位歩き回ると、よさげな香草が四種類程、手に入った。それに加え、この地方には“竜の舌”と呼ばれている肉厚な植物が沢山生えている。この植物の汁がシロップになる程甘ぇ。それと香草を合わせてタレとして、肉と焼いたら・・・・(只今、味の妄想中・・・)

!おぉ?いけるんじゃね?料理はインスピレーションからよ!

 ちなみに、“竜の舌”の汁を蒸留したものがこの辺りの特産の酒になるのだ。

・・・酒か。手土産の酒は手に入らなかったが、ドワーフのシグを捜さなけりゃ、だな。

 もしかすると、あの爺さんが何か知ってるかもしんねぇ。飯の時にでも聞いてみるか・・・。

 香草を手に戻ってみると、セリがこの街に起きた出来事を語っていた。・・・オレの事も話したんだろうな・・・。まあ、隠して、ってのは難しいわな。オレに気付いた爺さんの怪訝な顔からそれと判るし。

 ・・・気がつかないフリして調理を進めよう。頭を刎ね逆さまにし、血抜きしておいたトカゲの皮を剥き、切れ目を入れて骨ごとぶつ切りにする。塩、香草、“竜の舌”の汁を擦り合わせペースト状にしたものを肉の切れ目に塗り込んでいく。

 スペアリブは、グローブカットして骨の裏の甘皮に筋を入れてやる。こうしてやると食べやすいのだ。それを熱した岩に並べて焼いていく。

 その間に見つけた香草の一つ、レッドペパーと塩とを混ぜたものを磨りつぶしてっと、お好みで振りかけて召し上がれ!


「どうも。お待たせしました」


 ミディアムレアーに仕上げた、成熟したメストカゲのボリュームのある肉を切り分けると、豊かな肉汁が柔らかでさっぱりとした脂を含みながら裂け目から滴り落ちてくる。雄の、ややパサつきのある肉とは訳が違うのだよ。

 暖めておいた石のプレートへ移すとそれが「じゅっ」と心地よい旨味の香りを立ち上らせる。

 おい。みんな口が半開きでみっともねぇゾ?


「ほう、ほう、ほう!中々に良い匂いだ!!ヒトにしてはやるではないか!美味い料理は種族を超えて、心を繋ぐ。そういうものだ。

 では、いただこう(もぐもぐ・・・)

こっ!!(パクッ)ムウゥ(ガツガツ)ムムッ?!」


 ・・・なんだよ!美味ぇのかよ?まじぃのかよ?

わっかりずれぇな!!まぁ、さっきまでの顔つきとはうって変わってやがるから美味ぇんだろう。多分。


「うん。ワタシも頂くよ、泣いたら落ち着いたし。ただ、オマエについてはやっぱり訳分かんねぇし、気持ち悪い。だから、うん、ワタシも料理で決めようと思う!ホントに悪いヤツに美味いものは作れない、相手を思う気持ちが美味い料理になるからな!!」


「オイラは、どうでも・・・いい・・・んナァ!喋りづらいナァ!戻る!!オイラはどうでもいいナァ。美味いもん食わせてくれりゃあ、それでいいんだナァ」


 オレの是非は料理の出来に委ねられたようだ。味付けに関しては自信がある。が、やはり不安だ。

 セリもオイデもほぼ同時に肉にかぶりつくが、何も喋らない。代わりにセリがスペアリブの骨を咥えたまま、親指を立てて、満面の笑みを見せた。


「お気に召して頂けて何よりでございます。ん~~!!我ながら上出来!いい匂いだ!

・・・んじゃ、オレも頂きますか!!」


「んナッ!オマエは飯抜きなんだナァ。セッちゃんを泣かしたバツなんだナァ!」


「マジかっっ!!オマエ、その肉!!ギルドだったらAランククエストレベルもんなんだぜ?!ひとくち!ひとくちでも良いからオレも食べた・・・睨むなよ、いや、わかったよ。

・・・リン、オマエだけでも食べといで。絶対美味いからさ!」

「やだ!ルイが食べられないなら、ボクもいらない」


「食べといでって。オマエはなにも悪く無いんだから(ちらっ)」「ヤダ!!」「ほ~らって(ちらっ)」「いらない!」

 ちらっ。


「チッ!・・・オイデ、食べさせたげなよ。リンちゃんがかわいそうだし。ワタシはもう平気だから許してやろ?うん、まぁ、とりあえずルイが元に戻って、姑息なおっさんで、いつも通りだって事、今のでわかったしな」


「んナァ。セッちゃんがゆーなら。確かになにも変わらず、ズッコイおっさんなんだナァ!もちっと浄化されっちまえば良かったのにナァ!」


「・・・なんだかよ、すっっげぇトゲトゲしい毒なのね。でもよ、むしろお前らが今まで通りで救われるぜ!有難うな!!

ほら、リン!!食べようぜ!」


「・・・いい・・・。ボクの分、ルイが・・・たべ・・・」


「どうした?お嬢ちゃん。コヤツの料理美味いぞ?

・・・ムムッ?!顔色がすぐれないようじゃが・・・

大丈夫か?」


「・・・大丈夫。ちょっと、疲れた、だ・・・け」


 急に顔色が真っ青になり、つかんで離さなかった腕の力がスッと抜け、その場に倒れ込んで竜の姿に戻ってしまった。


「リン!!」「リンちゃんっ!!」


「オイオイ!!どうしたい?ムムッ!こいつぁ、たまげたな!このお嬢ちゃんは竜だったのかい!!

・・・フヌ。仕方ない。休ませてやるから俺の住み家へ連れて来い」


「有難うございます!助かります!」


「なぁに、美味い料理の礼だ。それにしても竜族がへばるところを初めて見たわ」


 そう言うとリンを抱きかかえ、オレ達を彼の家へと案内してくれた。

 リンが触らせるのなら、悪者ではないのだろう。



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