第27話 反省しろ

皆、無言だった。


 それぞれが空を見上げたり、石コロを蹴飛ばしたりしている。

 オレはそのへんの瓦礫に腰掛けて、今は形見となってしまった鈴をぼぅと眺めていた。悲しい気持ちはあるのだが、何故だか涙が一滴も出やしない。もしかすると、自分が“悲しいフリ”をしているだけかもしれない、とさえ思える。

 そんなオレの腕にリンがしがみつき、小刻みに震えていた。落ち着かせようと頭を撫でてやる。

 ・・・アザに支配されていた間の記憶はある。モモを殺したのはオレのようなものだ。直接、ではないにしろ。

 あの時、心が“殺せ!殺してしまえ!”とザワついていた。煤を“針”にイメージしたのはオレだ。雨の様に降らせたら、面白ぇんじゃぁねぇかと。あの黒い雨はモモでなければ即死に違いなかった。結果、死ななかった、ってだけの話しだ。

 ・・・ただただ、ひたすらに全てが憎くかった。悲しかった。寂しかった。それが愉しかった。色んな感情が抑えられなくて、怖かった。


「ちりん」


 沈黙から逃げる様にひとつ鈴を弾いて鳴らすと、セリセリがオレを睨みつけた。凄い勢いで胸ぐらをつかみ何か言いかけたが、腕から剥がれたリンの泣き出しそうな顔をちらと見るなり、フイと目をそらして突きとばし、離れた所にドカッと座った。


「これ、かせ」


 唐突に少年の姿のオイデが、オレの手から鈴を奪いタタンと小高い岩に上ると、モモそっくりの舞を踊ってみせた。時折シャランと鈴を鳴らして・・・。

 セリが堪らず「うわああぁん」と子供の様に泣き出してしまった・・・。それにつられる様にリンもしくしくと泣き出す。

 ・・・本当にコイツ、泣き虫になったな。・・・そういぁ、リッチェが殺されちまった辺りからか?

 ついこの間までアイツは“喜、怒、楽”で出来ていて、いつも偉そうに


 「ホント、ヒトって脆いよね~。ルイも簡単に死なないでよ?なんでか知らないけど、主あるじなんだからさ~。死なれて迷惑なのは僕なんだからね!」


 みたいな感じだったぜ?

せいぜい悲しむのは、美味いものを食べそこねた時くらいなもんだったのによ。

 ・・・正直、オレの自殺を止めた時、アイツがあんなに泣くとは思ってもみなかった。まぁ、なんだかんだあっても、死ぬ程怖ぇ目には遭ったことはねぇからな。よっぽどビックリさせちまったんだろう。それに引き換えオレはどうだ?


「ズビビッ」


 セリの思いっ切りの鼻すすりで物思いに耽るのをやめた。


 「・・・ん。ありがとう、オイデ。泣いたら、落ち着いたよ。・・変だなぁ・・・。今まで例え仲間が死んでも、泣いた事、無いんだけどなぁ・・・」


 「何だよ。セリもかよ!いったいオレの周りの奴らはどうしちまったんだ?!それとも、やっぱりオレが変なのか?」


「セッちゃん、よかった。元気出たナァ?ルイは、ばか」


「・・・うん?!オイデ、変身してても喋られる様になったの?」


「練習、してた。あんまし長なげくは、ムリだナァ。んナァ!ルイ、反省しろ。飯作れ!」


「・・・なんか、ガキのカッコで言われっと、すっっげぇ、腹立つな!!

 ・・・だがぁ?オレも大人だしぃ?怒りゃあしないよぉ?大人だし。

 ただな?反省しろ、つっても、嫌な気持ちとか恐怖なんかが勝手にオレに流れ込んで来やがるんだ。オレにだってどうしようもねぇんだよ!!」

「リンの“青い焔も、ローレイ先生の所ん時みてぇにあんまし効かなかったしよ。どうしろ、つぅんだ!」


 などと言いながら、飯を作ろうとする自分がいる。

 マァ、オイデのおかげで何とか場を取り繕えたしな!

作らせて頂きますよ。


「・・・おろ?リン、オレの狩人セット、知らね?」


「・・・燃えた」


「燃え・・・。!!呪符は?!」


「・・・ボクが持ってる。」


「おお!ナイス!・・・で、ちょっと離れてくんねぇかな?」


「ヤダ」


「離れろって。メシがつくれ・・・」

「ヤダ!!」


「ほ~ら、はなれる」


 何の気なしに、親が聞き分けのない子にそうしてやるように、オデコにキスしてやった。


「・・・も一回・・・」

「離れんだろうな」

「・・・うん」


 そっと、もう一度同じようにしてやるとゆっくりと離れてくれた。泣き虫に加え甘えん坊かよ。


「さてと。メシって言ったって、この辺にゃ岩トカゲ位しかいねぇしな・・・。火かぁ・・・。燃えた街の火を使うのは・・・ちょっとなあ。

 くそッ!魔法でも使えたらよかったのによぅ!」


 トカゲを探して、大きめな岩を転がそうと格闘していると


「火か。ほれ」


 指先からちろちろと燃える火を灯した、小柄だが筋肉質でヒゲの立派な、一目でドワーフとわかる爺さんが、声をかけてきた。


「あぁ、スミマセン。助かります」


 男は手近な枯れた低木に、火を灯してくれた。

・・・ドワーフ族で魔法が使える・・・?たまげたな!


 「若造、探しているのは飯用の岩トカゲだな?腕前に自信はあるか?」


「んナァ。コイツは料理だ・け・はたいしたもんナァ。」


「そいつは間違いじゃねぇんだろうな?!

・・・ほれ、ワシも食ってやるから料理せい。抱卵前の成熟したメスだぜ!美味いぞ?」


「有難うございます!・・・いやぁ!コイツは立派ですね!!チッ!カバンもえちまったんだっけか・・。

 すぐに戻ります。ちょっと一廻りして香草を集めてきますので。

 リン!このじい・・・この方の話し相手にでもなっててくれ」


 いやぁ、親切な爺さんもいたもんだ。大抵、ドワーフは偏屈頑固オヤジばっかりなんだがな。ダイアンみてぇによ。

 ・・・オヤジ、どうしてっかな・・・ふさぎ込んでなけりゃいいが・・・。

 いかん、いかん!また、ひっぱられちまう。

 香ソウ、探そう♪なんつって!・・・反省・・・。






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