第24話 せなかが、いてぇ
真っ暗だ・・・。何も判らない・・・。自分が、今なお落ち続けているのかさえも、解らない。不思議と落ちて行くような感覚がなかった。実はもう既に、底に叩きつけられて死んでしまっているのかもしれない。
もがくオレの右手に何かが触れた。崖のコブだろうか・・・。
”何でもいい!とにかく摑まらなければ!!”
オレはそのコブを必死に掴み、崖に身体を寄せた。とにかく、身体の感覚は有るのだ、こんな所でまた死んでたまるか!!
左手で崖の表面を弄るとゴツゴツとした感じだが、まるでゴムの様な手触りだ。そういう地質なのだろうか?右手の近くにもう一つ、コブがあった。オレはそいつをしっかり掴み身体を安定させた。取り敢えずこれ以上、落下することはこれで無いだろう。しかし、このコブ、妙に柔らかい・・・。崩れて落ちやしないだろうか?
・・・暗闇の中では、どうにも悪い方にしか頭が働かねぇな・・・。
「おい、ルイ。ルイ」
小さく、セリの声が聞こえた気がした。
「ははっ。まさかな!あいつは・・・セリは・・・さっきので殺られちまったハズだ・・・。くそっ!!セリ・・・いい奴だったのに!!」
セリの死を悲しむ最中、突如オレの両足首に痛みが走る。「つっ!!」なんだ?何かに噛みつかれているような??
「ふはあ!へっっひゃんほふへはは、へほははへ!!(んナァ!セッちゃんの胸から手を放せ!!)」
「ははふい!!はひはっへふほは!!(馬鹿ルイ!!なにやってるのさ!!)」
ん??オイデとリンの様な声?これは・・・。やっと暗闇に目が慣れてきたようでうっすらと辺りが見えてきた。
どうやら、オレが今しがみついているのはセリのオッパイで、足首にそれぞれオイデとリンが噛みついている様だ・・・。
「おんやぁ?どゆこと??なにこれ?なんで?」
「おっきな声出すなよ!見つかっちゃうだろ?うん、とりあえず、私の胸から手を放そうな?」
「・・・・ごめんなさい」
取り敢えず謝って話を聞いたが、アイツが攻撃を仕掛けて来た瞬間オイデが地面に穴を掘り、ソコに逃げ込んで難を逃れたらしい。そしてそのまま掘り進みオレの真下まで来た、と。
実際・・・オレは、ちっとも落ちて無かったらしい・・・。はずかしい。実に、はずかしい!一人でもがいていたなんて!!
「もう!ホント馬鹿!もし落っこちたってボクが捕まえるから、平気じゃん!!・・・それに触るんならボクの・・・ごにょごにょ・・」
「んナァ!!次やったら喉に噛みつくかっな!!」
いや、もう、ホントにゴメンナサイ・・。っと!それどころじゃねぇってのよ!地響きがすげぇな!!
そっと穴から顔を出しヤツを確認すると、獲物を失ってイラついている様でそれぞれの口元に焔と冷気がため込まれている。今出るとアレの餌食にされることは間違いなさそうだ。
「さて、どうしたもんかねぇ。ほかの奴らはほぼ全滅しちまったろうし、あんなにデケェんじゃオレの攻撃系護符は役立たずだぜ!」
「アイツ大きすぎ!ボクの焔はあんまり効かないかも・・・。翼じゃ刻んでる間にみんなやられちゃうし」
「オイラの方は、ナァ~ンもだナァ・・・」
「う~ん・・・弓は良くても、矢が弱っちくて、アイツにはちょっとなぁ。
・・・うん?そうだ!オイデとリンちゃんで前足を攻撃してくれ!!頭が下がれば私が一発、ガン!って喰らわしてやるよ!!脳震盪させられれば何とかなるかもな!!」
「おお!?わんちゃんいけるかも!だぜ!!それで時間を稼いでくれてる間にオレは地面を軟化させる。少しの間おとなしくさせられりゃ、このご禁制結晶化の護符で固めてやるぜ!!
わんちゃん、ワンちゃんのオブジェの出来上がり、みたいな!」
「・・・」「・・・」
「なんだよ、空気重てぇな!大丈夫、いけるって!オレ達なら!!」
「うん・・・リンちゃん・・・キミも大変だね・・・」
「ああゆう病気なの。慣れれば平気だよ?」
「・・・うん・・・そうか・・・なら、いいや。
とりあえず!一発ガツン!と喰らわせてやっか!!いち、にの、さん!!でいくよ!・・・いち、に~の、さん!!」
皆が一斉に飛び出す。オイデは左脚を、リンは右脚、セリは顎狙いとそれぞれ向かうが、放電が行く手を阻み中々近づくことが出来ない。すんでの所で回避はしているがいつまでもつか・・・。
オレはその間に護符を設置してく。広範囲に地面を軟化させるには四点に張り付ける必要がある。今は二枚、ここで三枚目だが、残りの一枚はどうしてもヤツの目の前を通らなければならない。
リンがそれに気が付き、囮に為るべくヤツの眼前をヒラつくが、リンに攻撃が通じないと解ると、狙いをセリとオイデに絞ってきた。
「まずいな・・・!このままじゃ、いずれやられちまう。急がねぇと!!」
焦りが、油断を生んだ。
地面の亀裂を走り、背後に迫る放電攻撃に直前まで気が付かなかった。ギリギリ直撃は免れたが、左腕を焼かれてオレは吹っ飛ばされてしまった。皮膚が爆ぜ、肉の焼ける匂いがする。
「ルイ!!」
「大丈夫だ!!わけねぇぜ!ってか、吹っ飛ばされたお陰で四枚目、貼れたぜ!!今だ!ぶちかましてやれ!!」
オレの声を合図に、回避から攻撃へと再び移った。直線的に、放電すら凌ぐスピードで突っ込んでいき、オイデは左脚を破壊し、リンは右足を切断した!!
「グオォォーーン!!」
流石のケルベロスも前脚を同時に失い、雄叫びと共に顎を上げた。間髪、セリが一撃を入れるべくヤツの身体を駆け上がっていく!!
「いっっけぇぇーー!!」
右腕に目一杯力を籠め、渾身の一撃でヤツの頭を打ち抜く!!・・・筈だった!
あろうことか、ケルベロスの周りを取り巻いていたワイバーンどもが、セリの身体に纏わりついて攻撃を止めたのだ!
ヤツがその隙を見逃すはずも無く、ワイバーンごと尻尾で叩き落とした。攻撃をまともに受けたセリは石造りの家を二軒ぶちぬき、三軒目の壁に叩きつけられてようやく止まった。
オイデが叫び声をあげセリの下へ向かうが、ぴくりともしない・・・。
「もう・・・駄目だ!やっぱり、オレ達だけで、なんて無理だったんだ!くそぅっ!!済まない、セリセリ!!もはや打つべき手が思い浮かばねぇ・・・」
あぁ・・・背中が・・・いてぇ・・・
全身から力が抜け、ただヤツを見上げることしか出来くなったオレの背後に、生き残った街の人々が集まっていた。
「私達、助からないの?」「・・・嫌だ!死にたくねぇ!!」「ウワァァン!ママァ~~。怖いよぅ」「何だよ!竜飼いっつたって、役立たずじゃねぇかよ!!」
「女神様!私の子だけでも助けてください!!」
誰からともなく、オレに向かって石を投げ始めた。そのうちの一つが頭に当たり、額を血が一筋流れる。
せなかが・・・いてぇんだ・・・
人々の不安や怒り、恐怖がオレに向かって流れ込んでくるのが、分かる。
いつの間にか“少女”のリンがオレの胸に顔をうずめ泣いていた・・・。
「ルイ・・・。ボク、最後まで一緒に居るよ。・・・ヒト型の今なら、いくら竜のボクでも、たぶん死んじゃうと思うんだ・・・」
リン・・・駄目だぜ・・・そんな事・・・くそ・・・せなかが・・・。
「二人でさ、リッチェに会いにいこ?ね?・・・ルイ、ボクね、ルイの事が好・・・」
リッチェ!リッチェ!!ああっ!リッチェ!!!
「ゔゔゔゔゔ・・あ”あ”!!」
背中が、いや、全身が焼けただれ、崩れ落ちていくかのような感覚!!いてぇ!!だれか、たすけてくれ!!
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