第20話 ご飯は皆で食べるもの

「お前らは、此処からどっち向かうんだ?ここまでの街の地図しか持ち合わせて無かったろ?それに何か、此処で婿探ししなくてもいいのか?そのための旅だろ?」


「う~~ん。どうもこの街の奴らがさぁ、あんまし好きになれないんだよね。あの子たちを見捨てた奴らだろ?私、そういうの無理!・・・そりゃぁ、私達も使えないのは切り捨てるけど、少なくても子供たちは自分と引き換えにでも守るよ?

 あ~、でも、頭のいい学者みたいなのは居ないから、それもいいのかな・・・。私の一族、怪我や病気は未だにまじないで治すんだぜ?長オサがあったま硬くてさ、そのせいで死んじゃう子供たちも結構いるんだ・・・。

 旅に出て色々判った。部族の掟は絶対必要。うん。でも、薬や呪符なんかも、絶対必要。そう思うようになったんだけどさ、この街には、ザっと見たけどいないかなぁ~。私の求める”強い”のは。優男ばっかにしか見えなくてさ!お前と会って、強ぇってのが力だけじゃないってのも知った!

 私、納得はしたけど、諦めては無いぜ?うん!やっぱり、お前の子が欲しいかな!だからついてく!!生き返った、ってのは気持ちワリィ~けど!!・・・邪魔か?オイデは、どうしたい?」


「ん?んナァ・・。オイラは、オイラも思うところがあってよぉ、セッちゃんについて行くって決めてんだナァ~。セッちゃんが”危ない目”に遭いそうになった時、オイラが守らねぇとナァ。・・・んナァ、それ以外は、アイツの作る飯はうめかったから、まぁいいかナァ?ってとこなんだナァ」


「うん!じゃ、決まりだな♪」


「ボクは!ちょっと、かな!子が欲しいとか、まだ言ってるし・・・。そりゃあさ、フタリとも強いのは見たから知ってる。居てくれたら心強いかもだけど、ルイとボクだけで平気だもん!ね♪ルイ」


リンは”ボクのルイが取られちゃうかも”という少しばかりの焦りがあった。

 女神の話を聞いた時から、ルイの目に光が差してきているのがはっきり判った。希望が、心に灯をともしたようだった。

 元気一杯のルイはすごい食べるしスゴイ飲む。で、飲んだ後は決まってぐっすり寝ちゃうんだ。セリセリは間違ったことはしなさそうだけど、もしも、もしも・・・。

”いや!ルイに限ってそんなことは絶対にない。リッチェ一筋だもの!””でも、もし二人とも酔っぱらってて間違っちゃったら?”有り得なくは無い。

「ずるい」そう思うと、胸の奥がチリチリと燻る。それに、あの夜覚えたばかりの、自分を慰める行為。見つかるかもと思うと気持ちが昂るが、それはあくまで”ルイに”であって、皆に、では無い。

折角このカッコのままでいられるなら、今日の夜はルイの寝顔を見ながら

えへへ(〃´∪`〃)ゞ

・・・と思ったのに!ハッキリ言って、邪魔!!


「んで、オマエは、いつまでそのカッコのままなんだ?」

ドッキ~~!!ルイ!何か生き返った時にセンサー追加した??


「まぁ、そのままの方が都合がいいか。・・・セッちゃんさ、オレ達は基本、パーティーで行動しねぇんだ」


「うん?ダメでも勝手についてくぞ?もう決めたんだ」


「全部聞けって。セッちゃんさ、実はオレ、死んだの2回目なんだわ」

「ルイはもう死なないもん!!」

「だーかーら!!揃いも揃って!話聞けっての!!はい、そこ、みんな座る!・・・よし!

 正直、オレは死んでたみてェだからワッカンネェけど、セッちゃんはさ、葉っぱの棺桶とかでよ?送ってくれようとしてたんだろ?背中のアザのせいで暴れたときだってよ、押さえつけてくれたのはセッちゃんだ。また死なねぇとも限らねぇ、そうだろ?アザに関しちゃ、そうなるっぽいしな。自分自身じゃどうにも出来ねぇ。

 リン、オマエには出来るか?で、オレ達には、助けが必要なんだって今回思ったわけよ。だからよ、むしろ、コッチからお願いしようと思ってたのよ。勿論、お互いの目的の邪魔にならねぇ程度にな?」


「ボクだって・・・」うつむいたまま立ち上がり、両の手をぎゅっと握っているリンをそっと抱きしめて、頭を撫でてやった。


「分かってる。お前の気持ちも分かってるつもりだ。オレの相棒はずっと、オマエだけだ。いつから一緒に居たのか思い出せねぇが、ずっと昔からオマエと二人だった気がする。

 どこにもいかねぇし、お前の傍から離れねぇ。だから、な?」


”本当の気持ちは知らないクセに、バカ!”そう思ったが、ルイに抱きしめられて頭を撫でてもらえることがとても心地よく、今はそれでいいと身を預けた。


「・・・嘘つき・・・。戻って来たけど、2回も死んじゃってるんだよ?・・・もう、死んじゃヤダよ?ね?」


「あぁ、頑張るよ」


「頑張る?・・・ほんと、バカ・・・。それと・・・雑巾とオエくさいよ・・・」


あぁ、そういえばそうだった。自分の臭いって慣れちまうと気にならなくなるんだよな!

それにしてもオレって、締まらねぇなぁ・・・。


「もう、喋っていいか?二回しんでる?聞いてないぞ、私達。どういう事なんだ、おい!隠してたのか?ルイ、説明してもらえるかな?」


「別に、隠してたわけじゃ、あー、結果的には・・隠してたか・・・。だって、また死ぬとは思ってないじゃん?みたいな。許してちょんま・・・・げ」


睨んでる・・・。


「ん~~・・・リッチェの事、話したろ?実はあの時、オレも死んでるんだ。何故だか生き返って、傷跡も今ではあんまし目立たなくなってる。つい、この前の事なのによ。

 オレだって訳わかんねぇのよ。若しかして、オレって死なねぇんじゃ!みたいな?何なんだろうな、オレって」


「うん?私に聞くなよ・・あ!私のコレで打ってみる、ってのはどうだろう?生き返ったら、ルイは死なねぇ!ってことでさ!」


 セリが右手の手甲に装備された矢を、真っすぐオレに向けている。顔は笑っているが、眼がマジだ。下手なはぐらかしは命取りに・・・答えられないオレの前に、リンが両手を広げ間に入った。


「セッちゃんはさ!オイデ君が死なないかも、ってなった時にもやっぱりそうやって、矢を向けられるの?できないでしょ?」


「さあ?どうかな・・・オイデとルイは違うからな」


「ボクは竜だから打たれても多分死なないよ!!先ずボクを打ってみたら?!

 いつもなら矢なんかに当たんないけど・・今は避けない!!ルイに当たっちゃうもん!!もし当たって死ななかったとしても、ボクには「仲間に打たれた」っていう心の傷は出来るよ!すっごい、すっごい痛い傷がさ!!打てばいいじゃん!それで満足してくれるならさ!」


「ぷっ・・・あハッハッハっ!ちょっと、カラかってみただけだよ、冗談だってば!打たないよ?うん。仲間だもんね!」


・・・セリの奴、眼だけはやっぱり笑ってねぇ・・・。一族とか部族とかやけにこだわってんな~、とは思ってたが、そうか、エルドランド・・・エルドラの民か。叩き上げ根っからの戦士ってわけだ。セリの奴、どーっかズレてっからな!アイツの説明じゃ今一ピンと来なくて思い出せなかったが、こいつぁ、信頼関係を築くの厳しいかもな・・・。


 だがその時は意外に直ぐにやって来た。

今朝から、というか、昨日の昼から色々あってまだ飯を食っていないのだ。いい加減腹も減りすぎて気が立ってきたが、飯でも作ってやらにゃあね・・・。さ~て、この森で捕れんのは・・・鳥か、トカゲか・・・う~んカエルも悪くねぇな・・。

何すっか聞きてぇとこだが、さっきの話のせいで皆、ちょっと気まずい空気になっちまってるし・・・。


「うん?オイデ?あっれ~?オイデー!!おっかしいなぁ?珍しく自分で歩いてるなと思ったら・・・オイデ~~。どこだ~?」


「あそこに落ちてる毛だまりがそうなんじゃないの?普段自分で歩かないからねー。疲れて寝てんじゃなぁ~い?」


”つい昨日まで浮かんでたヤツの言うセリフかよ!それにトゲっぽいよ!”のどまで出かかったが寸でのところで呑み込めた。オジサンになってくると、この余計な一言がつい出ちまうんだよな。そこに悪意はないのだ、つい、うっかり、ぽろっと、さらっと、何気なく出てしまう。「あー、ハイハイ」くらいの気持ちで聞き流して欲しい。と、世の中のオジサンをフォローしてみたり。


「ああっ!オイデ!!ちょっと!オイデ?!」


セリの悲痛な声に驚き、傍へ駆け寄って見ると、オイデが口から泡を吹いてグッタリとしている。これは?!・・・腹部の動きが不規則だ。呼吸が一定ではないな・・・手足の痙攣・・・ん~、もしかすっと、これは・・・


「ねえ・・コレ!蛾瓶鳥がびんちょうの羽じゃない?片っぽの足も落ちてるし・・ね、ルイ。これってさ!」


「あぁ、間違いない。食中毒だ」


指を組み顎に下に添えて、ちょっと低めの声で言ってみる。メガネは無いが。


「あぁ!オイデ!しっかり!!どうしよう!!オイデ!死んじゃダメ!!オイデ!」


ったく、情っけ無ぇ声で狼狽えやがって。さっきオレを殺そうとしてた奴と同じとはとても思えんよ。戦士っつたって、中身はまるで子供なんだよな。訳わからん!


「おう!セッちゃんヨ!ちょ~っとどいてくれねぇかな?」


「何するんだよ!何する気だ?オイデに何かあったらぶっ殺してやっからな!!!」


「うるせえな!手元、狂っちゃうよ?!」そう言いながら腰のカバンから注射器を取り出してオイデに打ってやる。


「多分、オイデ君、これで大丈夫だと思うよ?きっと、お腹減りすぎてアレ、食べちゃったんだと思う。アレね、蛾ばっかり食べてる鳥で、喉の所の瓶みたいなところに蛾毒が溜まりやすいんだって。それ食べちゃうと当たる事もあるって。生物濃縮?っていったけ?よくわかんないけど。

 ルイもよく貝とか魚でやられるからさ!解毒薬、持ち歩いてるんだよね。セッちゃんも一回打ったでしょ?もうさ、ホント、ツイテないんだよね~、あのヒト!!

 ちょっと前も、浜焼きの二枚貝でやられてさぁ!二十万人くらい居たのに一人だけ!うけるよねぇ~~!その後五分おきくらいに茂みに駈け込んでってさ、ピィーーって!!」


「・・・そこ!余計な事、言わないの!!・・・ほらよ!もう大丈夫だぜ!手遅れだったら死んじまってたけど、直ぐだったからな。4~5分で意識戻んじゃねぇか?動けねぇとは思うけどよ!

 ・・・ったく!ヒトが飯何すっか考えてるときに、一人だけ先に食うからそういう目に合うんだよ!ご飯は皆で食べるものなの!まぁ、これで懲りたろ。蛾瓶鳥(がびんちょう)で、ガビ~ンになるとこだったな!」


「・・・ありがとう!ルイ!さっきは、御免なさい!!謝るよ。私じゃどうにも出来なかった!もし、さっき殺してたらオイデも助かんなかったもんな!うん。とにかくありがとう!!

 オマエ、やっぱりいい奴だ!うん。リンちゃんが惚れちゃうのもわかる気がするよ♪」

「わ~~~っ!!わ~~~っ!!わ~~~っ!!」


「うっせぇな!リン!最後何て言ったか聞こえんかったろーが。しかも皆揃って渾身の一発を流しやがって!ってかよ、セッちゃん。やっぱりマジで殺るつもりだったのね?

 まいいや!先ずは、飯だ!う~ん、そうだなぁ・・よし!焼き鳥にすっか!!」


セリが弓を構える!!


「冗談だ」「私もね」

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