第17話 良いたびを!
「みんなにゆーなよ。知らねーんだからさ」
「分かってるよ。お前のベソもな。うひひ」
街へ戻ると早速子供たちが群れで襲ってきた。「これなぁに?」「いきてんの?」「どうしたの?」「わたしこわい」・・・んー、ごめんねぇだけど、めんどくせぇな!!
「ん~?これはねぇ、いの君だよ~?アゼルお兄ちゃんが捕ったんだよ~」
何ちょっとドヤ顔してんだ?わかりやすい奴め。くそ!まとわりつくな!!あいつらは何してんだ?ぶっちゃけ、押し付けてやったつもりなのに・・・。
ちらと目をやると、セリセリは手に一人ずつ乗せて”グライダー”とか言ってまだ遊んでいたが、オイデは毛がもみくちゃで口は半開き、恨めしそうな顔つきでこちらを見ている。
「おっかえり~♪ルゥ~イ!うわ、美味しそうなブー君だね♪何にすんの?」
・・・リン、オマエ、やけに涼しい顔してんじゃねえか・・・さては、誰にも触らせなかったな?それでオイデがあんなに・・・とりあえず、合掌。
「お帰り、アゼル・・・どうしたの?そのホッペ!真っ赤よ??」
「それは、オレが‥」「何でもねぇよ!ソイツ捕まえんときにちょっとな」
お?急に大人になったじゃねぇかよ。アゼルはもう、心配ねぇな・・・!さ・て・と、飯の準備に取り掛かりますか!
「セッちゃん!ここに来る途中に、街の名前が彫ってあるデケェ石板があったろ?持って来てくれよ。オイデは・・ゴメン、ちょっと休んでてくれ。
リン!!お前はオレと一緒にコイツを解体だ。皮を剝げ!口の中が毛だらけになるが、お安いもんだろ?・・・アゼル。井戸借りるぜぇ~」」
「ボク?皮剥ぎ担当?ガビ~ン!!」
どっかの国の言葉で”因ポ応報”だったかな?違ったかな?何でもいいや、そんな感じだ。
猪豚を仰向けに寝かせ、肛門付近を避けて切り込みを入れていく。普段なら、”熱符”で熱湯を作り出して掛けながら剥ぐが、ここでは使わない。調理用に取って置かなければ。
リンが噛みつきながら、セッセと皮を剥いでいく。途中肛門付近で「くちゃい!!」とか言ってたが可愛く言っても、だめだ。早く剝げ。皮が剝げたら、臓物は・・・ヨミが「ナイゾーが・・・」とか言ってたもんな、止めておこう。ポイだ。
もも、うで、と切り分け、背中側から骨に沿って他を剥ぐ。ヒレを剥ぎ、ロースとバラを切り分けたら、冒険者流、部位別お肉の出来上がりだ。
これらの作業を子供たちがじっと見ていた。う~ん。なにか、やらせてやるか・・・。ちょうど、セリセリも戻って来たところだし。
「今からねぇー。おじちゃんが、この赤いお肉を小さく切っていくよ~。あのおネェちゃんの所に運びたい人、手ぇ挙げてぇ~~」
「はい」「はい」「は~い」
「お~い、セッちゃん。その石板のツルツルの方綺麗にしてくれ。今からこの子達がお肉持って行くからぶっ叩いて、ミンチ肉によろしくな!・・・石板、割るなよ~~!」
一人、出遅れて指しゃぶしてる子がいた。
「あそこに在るおじちゃんのカバンの中に、細かい葉っぱがいーっぱい、入ってる瓶があるからそれ探して、おねぇちゃんに「使って」って渡して。出来るかナァ?」
指しゃぶしたまま小さく頷き、猛ダッシュでオレのカバンに向かって行った。
「ペッペッ!意っ外ぃ~~。ペッ。ルイ、子供すきだっけ~?ペッ」
「あ”?嫌いだね!こっち向いてペッぺすんなよ」
んー、ある意味、好き、っちゃあ、好きかな。・・・好きなだけだぜ?一応言っとく。
切り株の上に胡坐をかいているアゼルの頬をヨミが濡れタオルで冷やしているのが見える。いいねぇ。青春だねぇ。・・・何とか・・・してやりてえなぁ・・・。
残りの肉を小分けにしている間に、セリセリのミンチ肉が仕上がったようなので、さっき拾い集めた小枝に巻き付ける。これは子供たちも楽しいようで、ペタペタキャッキャ言いながらオレの真似をして巻き付けていく。それを、焚火の周りに差し込んでと、うし!焼ければアラミンチソーセージの出来上がりだぜ。
オレはさ、食事ってのは、人生ですげぇ重要だと思ってる訳よ。こうやってみんなで作って、みんなで食べて・・・。きっと、ずっと覚えててくれると思うんだよな。明日も、明後日も、ずっとこうやって、皆でうまい飯、作るんだぜ?
多分、アゼルにゃ伝わってるな。なんだかんだ、オレのやってること見てたしよ。男同士の目の会話ってやつ?。そんで、後でヨミちゃんに残ったお肉で何ができるか、書いて渡してやろう。男心は腹の中、ってな.
食後にセリセリが歌い始めた。とても澄んだ心地の良い歌声だ。
「遥か東 太陽目指して歩くもの
私はひとり 誰もいない
遥か西 月を目指して歩くもの
私はひとり 誰もいない
長い長い一本道を 誰かを思い歩いてる
いつかは出会う きっと出会う
その出会いが 素敵なもので ありますように」
セリセリの歌が繰り返される中、じわりと、多数の気配に取り囲まれた。静かに剣の柄に手を伸ばす。セリに、そのまま続けろと目で合図を送る。リン、オイデ、オレ達で片づけるぞ。この幸せなひと時、絶対に邪魔はさせない。
イヤな気配ではないが、ここには来させない!一番近くは・・・そこの角か!
角を曲がり出会い頭に切り伏せ・・・?!
「ひぃい」短く呻き、へたり込んだソイツは、さっきオレが尋ねても返事すらしなかったご老人ではないか!!訳が分からず戸惑っていると、そこかしこから老人たちが集まって来た。
「息子が死んで、生きる希望もその時一緒に死んだかと思っとった・・。じゃが、この歌声・・・息子の歩く姿が浮かんでのぅ。息子の背中を追ってたらの、気が付いたらここに来とった」
周りの老人たちも頷いているところから、似たような感じなのだろう。セリセリの歌声がこの老人たちの正気を取り戻したってのか!!やるな、セリセリ!!
彼らと小屋の辺りまで戻ると、幾人かの老人たちが子供たちと抱き合い嗚咽をあげていた。きっと、孫なんだろう。なんだかな、歳の所為か涙腺が緩くなってやがるな・・・。
感動の再開?も果たしたことだし、オレ達がこの街に、とどまる理由もねぇ。サッサと本来の街を目指しますかね。ジジババ共が”竜飼い様が~”””竜飼い様が~”って拝んでやがる。メンドクセェ事になりそうだ。”竜飼い様~”・・・って、拝むのやめれ!オレはまだ死んでねぇっつの!
あ、一度死んだか。
腕を組みいっぱしのリーダー感を出してこの光景を眺めているアゼルを呼びつけ腰のダガーを渡す。
「オレたちはもう出るよ。餞別だ!これで、みんなを守れ。簡単にゃ折れねぇぞ?今のお前の心と一緒だな!」
「・・・ありがとよ!もらっといてやるぜ!!お陰様で守る奴らが増えちまったからな。やるこた、やってやる!!・・・そういやぁ、森の中で「生き返らせる」とか言ってたよな?ハレルに居た頃、仲の良かったエルフが居たんだ。名前はローレイ。
医者なんだけど、あの病気が流行りたての時”女神の力の宿る石がある”とか言ってたっけな。その後直ぐに出されちまったから判らねぇけど、もしかすっと、それで何とかならないかな?聞いてみるといいかもな!・・・じゃあ・・・
ありがとうな、ルイ!!良いたびを!!」
「おおう!そいつはいい情報だ、尋ねてみるよ!サンキューな!!いつか、また会おう!!バイ、アゼル!」
ハレルへ向かう石橋の中ほどで、セリセリがオンオン泣き出し、オイデが懸命になだめる。これか?ちょっとあってって・・・。重ね重ねご苦労さんだな。
さあ!この石橋を渡りきれば残りの森は一本道だ。一本道を~♪誰かを思い~♪ってか!いい歌声だったなぁ。セリにあんな特技があったとはねぇ。って皆さん、歩くの速くありません?
あり?道が・・・ななめ・・に・・
「ルイ!か・・だが・・む・・きいろ!だい・・うぶ!!
なに?リン、言ってること・・・が・・・
森へ差し掛かったころ急に気分が悪くなり、地面に突っ伏した。狭くなる視界にオレの吐いたどす黒い何かの塊と、真紫になった手が映った。
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