第15話 キノコが取り持つ仲もある
「お嬢さんよ、オレぁ、女、子供に手を上げたくねぇ~んだわ。だからよ、返そうぜ?」
「うん?手を上げる?上等!勝負すっか?女だけど、ふふっ、多分お前より強いぞ?怪我すんのはお前じゃないかな?」
そう言うと、女は羽織っていたマントを纏わりついていた岩キツネに脱いで渡した。マントの下はピチピチのボディースーツか・・・。恐らくゴム質で生半可な斬撃などは通らねぇ。
筋肉の付き方、低重心な所から格闘系なのは直ぐに分かったが、いやはや、これは・・・。一丁前の口きくだけのことはあるな。それに、以外に良いお尻だ。
じゃなくて!このお嬢ちゃんの物言いが少しカチンとくるんだよな。腕の方も痺れが消えたし、ちょーっと、痛い目見さしてやっかな?オジサン、その辺のハンターよりかは手練れだぜ?
女なんてのはチョチョっと相手してやりゃぁ、直ぐに”ヒ~ン。ゴメンナサイ”って言ってくるもんだ。
「お嬢ちゃん、負けたらちゃんと、素直に謝るんだぞ?女ってえのは、直ぐに言い訳すっからな。・・・こっちはいつでもいいぜぇ?かかってきなさい」
「ははっ♪別に何でもいいよ?負けるわけないからさ。ん!そんじゃ、お言葉に甘えて!!」
女は高く飛び上がり右手の武器に全体重を乗せて、パンチ力に変え殴りかかってくるようだな。
だが!飛び掛かって来たのが運のツキだぜ!オマエと喋ってる間に、軟化の護符を地面に仕込ませてもらった!オマエはそのまま、泥の中にドボンして、哀れにもがいて、オレの勝ちだ!!
オレは勝ちを確信しその場をすました顔で、ひょいとどいた。
「そりゃ~~~!!」
ドッッパーーーン!!!
凄まじい音と共に尋常じゃない量の泥が、まるで間欠泉の様に立ち昇る。
「うん?ありゃりゃ?・・お前、何かしたな?あああ!!オイデが!!泥だらけだ!お前!よくもやったな?!」
あのね、多分オレが一番泥だらけなんじゃないかな?五センチ位は積もってるんですけど・・・そんでもって、リンの奴が後ろの方で「ルイ、背中だけきれい~~!!」とか言って笑い転げてるし・・。うわぁ、オレ、カッコ悪!
それにしても、おっかね~~嬢ちゃんだな!埋まるどころか全部弾き飛ばしちまいやがったよ・・・。当たってたら、オレはスイカみたいになっていたとこだ。こりゃ、マジにならねぇと、死ぬな。
「お?・・・あれ?あれれ?何か、身体がピリピリすっぞ?くっそ!他にもなんかしたな?ずっるい奴だなぁ!」
フフフ、ダブルトラップなのだよ!お嬢ちゃんと喋ってる間に、痺れ蛾の鱗粉を撒いていたのだよ!!風下に立ってのがウヌがツキよのぅ・・・。岩キツネの野郎は流石に動物の勘か、上手く躱しやがったな。
・・・しっかし、ピリピリ程度かよ。結構撒いたんだぜ?泥の沼にハマって痺れて終わりの予定だったんだが・・・面倒だな。
「くおっ?!」
泥の塊がドリルのように飛んできた。咄嗟に身を翻したが少しかすり左胸に血が滲む。泥が再び襲ってきたが、これは剣を盾にして防いだ。間髪入れず三度目が飛んでくる!剣と泥がぶつかり合うたび”ジャリリン!!”と火花が散る!!
三度目の攻撃を防がれた泥は飛び退いて女の傍に降りた。すぐさまリンが焔の球を吐き出し攻撃するが、焔の玉をステップして避け、ブルブルっと身震いして泥を払い、正体を現した。岩キツネか!岩をくり抜くっていうあの爪で攻撃して来てたのかよ!
まてまて!こいつ等、飯の取り合いごときでオレを殺す気か??怪我させたくねぇとか思ってる場合じゃないかもな・・・。
いや、どうしたもんかな。向こうもなかなかいい連携しかけて来やがるもんだから、小細工の時間もとれやしねぇ。ならばここはひとつ
「おい!!やるなぁ!お嬢ちゃん呼ばわりで済まなかった!名を聞いておこう!オレは、ルイだ!ルイ=なんていうのかは知らねぇ!昔の記憶がねぇんだ。こっちの銀色のが連れのリン!オレたちは竜飼いだ!!」
「うん?!名乗りか!いいね!!私はセリセリ!セリセリ=エルドランド=ガランドだ!この子は岩キツネのオイデ!!お前こそいい動きすんなぁ!ってか、竜飼いだったんだ?!
・・・竜飼いに悪い奴はいない、って聞いたけど?」
「えっと、セリセリ、、さん?オレ、悪い奴扱いかい?ちょいと、ひどかないかい?」
そう他愛のないごく普通の名乗り合いの合間に、痺れ蛾よりも上位の麻痺系の粉を撒き続けていた。・・・エルドランド?・・・どこかで・・・。
「お前は、オイデを泥だらけにした!だから、悪い奴だ!!」
セリセリと名乗った女は先程と同じように飛び掛かりからのワンパンチを繰り出してきた。まだ動けるのかよ!!並の魔獣なら泡吹いて痙攣してるっつーの!!
今度は地面を軟化させてないから、こちらも飛び上がって躱すことにしたが、悪手であった。えぐれた地面から巻き上がる噴煙の中からキラ、キラっと二本の矢が飛んできた!空中で躱せるはずもなくそのうちの一本が腰のベルトに命中した。
運の悪いことに、その個所はベルトに括り付けてある護符入れの中の”風”だった。破壊された護符は見事に発動!!
まるで、よくある悪者の”おぼえてろ~~~”とか”やなかんじ~”みたいにオレは螺旋を描きながら湖へと吹き飛んでいった・・・。
実にみっともない話だが、変な態勢で吹き飛ばされたために腰が痛く、湖面でもがいているところをリンが咥えて救出してくれた。
岸へ戻されると、セリセリと名乗った女が右腕を突き出し矢の発射姿勢のまま痺れて固まり、傍らでは主人を心配して岩キツネがグルグルと回っていた。
「・・・なぁ、セリセリ。動けねぇだろ?もう戦いたくねぇんだが、痛み分け、ってことにしねぇか?」
「セッちゃんはまだ負けて無いんだナァ!オイラが相手ナァ!!」
うおぅ!岩キツネってマジで喋るんだ!てか、揃いも揃って、なんて好戦的な奴らなんだ。オジサン、もう見栄で立ってるだけで精一杯なのよ、勘弁して。
「オイデ。下がってて。・・・さぁ!好きにすればいい!悔しいけど身体が動かない。でも!負けたなんて思ってないからな!お前がずるいだけだ!!こんなの勝負じゃない!」
しかも、負けず嫌いと来たもんだ。・・・フゥン、好きに、ねぇ・・まぁ、よく見りゃ全てがデカいがイイ女なのは間違いねぇ。そんじゃ、ま、好きにさせてもらいますかね。
オレは壊れかけた腰ベルトの背中側から注射器を取りだし、突き出されたままの右腕に差し込んだ。
「、、、っ!」
女が短く呻く。傍で岩キツネが歯をむき出しうなり声をあげて威嚇していやがる。さて、これで薬が効いてくれば・・・
「暫らくすりゃあ、動けるようになるぜ。その量がセリセリに・・・長ぇな、セッちゃんでいいか?セッちゃんにどの程度で効いてくるかは解らねえが、まぁ、いずれ動けるようになるぜ」
「・・・ホントなんだナァ?オマエ。変な薬じゃないだろうナァ!そうなら、オイラが許さないナァ!オマエずっこい奴だから信用できないんだナァ!」
「ちょっと!キツネ!!ルイの悪口、ヤメてくれる?ルイはその女に怪我させたくないから、こういう戦い方したの!二人とも脳筋なの?それにルイは剣で戦ったって強いんだからね!!」
リン・・・ありがとう・・・でも、多分無理。
「まあ、そういうわけだ。リン、焚火を頼むわ。オレは魚、捌いてくる。昼飯にしようぜ!お二人さんも一緒にどうだい?あいつは昼飯用だったんだろ?オジサン、腕ぇ振るっちゃうよん?味にゃそこそこ自信あんだ」
「それとよ、オイデっつたか。セッちゃんの顔、拭いてやんな。せっかくの美人さんが泥で台無しだ」
実際は悔し泣きしていたが、そこは触れちゃ野暮ってもんよ。”フッ”とか言ってみたりして。やだ、もしかしてオレ、今カッコイイ?
さ、て、と。この魚を丸焼きってのも芸がねぇし、腰が痛くて持ち上げれねぇから切り分けて香草焼きにしようかね。丁度昨日の香草が付け合わせにもなるしな。
チャチャっと三枚に卸して柵どり、それから切り身にしてやってと。カバンから乾燥ハーブを取り出して、塩と共に下味にする。ん~、長旅じゃねぇから穀物の粉がねぇんだなぁ。
打ち粉は、無しでいきますか。フライパンを火にかけて油をひいて煙が立つ寸前まで熱する。その間に、薬缶に魚のアラをぶち込んで香草で臭みを消して塩で味付け、煮立たない様にリンに見ててもらう。
「リン、皿」二枚しかねぇから、アイツら用だな。ん?動けるようになったみてぇだが、襲っちゃ来ねぇだろ。アブねぇ!フライパンがギリギリだ。手早く切り身を滑らせるように入れ、皮の方をパリっと仕上げたら裏返して火から下ろす。鉄の余熱で焼き上げて出来上がりだ。
皿に盛り付け、香草を添えてスープと共に差し出す。
「ほれ、大丈夫か?昼飯出来たぜ。一緒に食おうや♪」
膝を抱えチョットしょげているセッちゃんに皿を差し出す。チラっとオレを見てしずしずと受け取ろうとした、その瞬間
「ブチッ、ズルッッ」
壊れかけたベルトが限界を迎え、下着と共にズボンが落ちる。・・・終わった!半泣き女の眼前に毛無しのキノコをご提供。オレは変態サンか!
「違うんだ!これは!これを喰えじゃなくて、そのつもりでも無くて、昼飯はこっちで・・・とにかく皿を!!ズボンが上げらんねぇ!!」
いやぁああ~~!!何でそんなにガン見なんだぁぁ!オジサンだって恥ずかしいって思うこともあるんだぜ?
「お前、それ!お前もエルドラの神に仕えてるのか?!・・・うん??でも村で見たこと無いし、竜飼いが居るって聞いたこともないし・・・何なんだ?お前。
・・・・ま、いっか!!私と一緒だな!!うん、決めた!お前、私に子を授けろ!私と”同じ”くらい強いからな。そんで、私の村に連れて行く!!伝承の通りだ♪」
一同「はぁあああ??」だ。”やっぱりなんだナァ!絵本の・・・お約束通りの流れってヤツなんだナァ!”
「ねぇ!この女ちょっとおかしいよ?!ナニ急に子供とか言ってんの??村とか意味わかんない!ルイは心に大事な人がいるの!!その為に旅すんの。だから無理!!!ね!キツネ?!」
「そ、そうなんだナァ!セッちゃん、よ~く考えるんだナァ!このオッサン、下品なんだナァ!オイラに「このキノコは食いもんじゃねえ」とか言って森ん中でブラブラ見してくる様な奴なんだナァ!」
「・・・え?ルイ?どういう事?」
あ”あ”あ”、余計なことまで・・・こじれてる、こじれて来てるっつーの!リンちゃん、白い目、ヤメテ・・・泣きそうだ。
昼飯を食いながら、オレは相当しどろもどろに何とか毛無しキノコの誤解を解いた。ただ、その説明だけではセッちゃんは引き下がらず、村に連れて行くの一点張りだ。
気は進まないが、食後に果実をかじりながら、オレ達の旅の目的を・・リッチェの事も含めて・・すべて話した。だから、無理だと。
皆、黙って聞いてくれた。時折セッちゃんが鼻をすする。・・・ありがとう、いい娘なんだな。
「わかったよ。うん。わかった!連れて行くのは諦めるよ・・・。女神の涙か・・ゴメン、私も結構色んなトコいったけど、聞いたとき、ないな。あ、お昼、ご馳走様でした。お前、じゃない、ルイは飯作るの上手だな!とっても美味かったよ。
・・・取り敢えず、隣の街、だろ?私たちもそっちなんだ。そこまで一緒に行こう。うん!決めた。それがいい!!」
こうして俺たちは半ば強引にパーティーとなり、取り敢えず、隣りの街まで向かうことになった。・・・まぁ、なんだ、リンにも友達?が出来たみてぇだし、誤解は解けても痒いことだし、とっととガム太郎ってなもんで、出発しますか!
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