第11話 いきますか
あまりにもグッタリ来たので、外へ出て階段に腰を下ろす。日がだいぶ上り暑くなって来やがった。そういや、あの夏祭りの時もここに座ってたっけな。目つむったら後ろからリッチェが・・・フッ、来ねぇよな。
分かっちゃいるが、とりあえず後ろを振り向いてみる。・・・ギルドの建物しかありゃしねぇや。まぁ、何のかんの言ってもここには世話になった。この街のギルドが腐っているだけで、全部が全部じゃあ無いしな。支援がなけりゃ、街の出入りから、身分の証明、仕事の確保なんかもままならねぇし、個人じゃ相当頑張らんとイカン地図までこうして手に入る。
次のあては全くねぇが、取り敢えず、あの湖に戻って、リッチェに決意表明でも捧げてくるかな。その後のことは、ま、一番近い街だか村だかで噂集め、だな。
「いよっこいしょうたろう、っと」
掛け声をかけ起き上がる。無意識なんだよな、こんな時でも出てきちまう。ホント、オレって奴は・・・
「ねぇ!ルイ、あれ見て、前、前!」
腰をトントンやりながら目をやると、なにやら6~7人の若い女を侍らせた黒髪ロングが階段を上って来る。傍らに、真っ黒な・・竜?!・・ほえ~オレ以外の竜飼いを初めて見たぜ。
そんで、何で全身真っ黒なんだ?葬式帰りか?このクソ暑いのに。テッカテカの黒いロングブーツ、ピッチり目のスーツに無駄にヒラつく黒いマント。何で洗ってんですか?ってくらいサラサラキューティクルの黒髪の超美形男子。いや、オレだって若かった頃は・・・記憶がねぇんだった。
取り巻き共が引いた眼でオレを見ている。ったく、若い女ってのはオッサンを見つけると大抵あんな目で見やがるんだよな。確かにボロボロで汚ねぇけど、襲いやしねえよ、クソビッチどもが!!
「あの人も竜飼いだね。ボク以外に飼われてる竜って初めて見たよ。うわぁ、アイツ真っっ黒だ!ダサァ・・」
「ああ。オレも初めて会うぜ・・・なんか、こっち見てんぞ?こっちに来んな、こっちに来んな!うわぁ、来やがった・・・」
「やぁ、これはどうも初めまして。貴方も竜飼いですね。私はハインツと申します。連れの竜はソースです。以後お見知りおきを」
そう言って”左手”で握手を求めてきた。しかもコイツ、わざわざ一度通り過ぎて、階段の二段上から見下し気味で話しかけて来やがってる。おぉい、竜飼いってのは人格者がなれるんでなかった?いけすかねぇ野郎だ。
「ああ、これはどうも。此方こそ初めまして。オレはルイ、コイツはリンだ。よ・ろ・し・く・な!」
左手の仕返しにチョット強く握り返してやった。
「あ、あ、いたた!」
んな~にが「いたた」だよ。
「ああ!大丈夫ですか?ハインツ様!」「ハインツ様!お手を!」
「それはワタクシが」「あら、ワタクシめが」
「ハインツ様!回復の護符で御座います」
「その前に、ハインツ様のお手を消毒なさなれば!!」
「ハインツ様に対して失礼ですわ」「やっかみですわね」
「なんなんですの?あれは」
「あれは、オッサンという生き物ですわね」
なんだ!こいつ等!くそ、余計な事しなけりゃ良かったぜ。それに、生まれた時からオッサンだったわけじゃねぇっての!”そういう生き物”で括るな!
「はは、みんな、私は大丈夫だよ?ちょっと彼を試してみたのさ。うん。なかなかやるね!・・・おや?君の竜は変わった色の竜だね、リン君と言ったかな?」
「そうだけど?なにか?」
「とても素敵な体色だと思ってね。業師の磨いた鏡面でも君の輝きには遠く及ばないだろう。その鱗から放たれる高貴な光はまるで・・」
「・・・どのような光であっても、我の漆黒の前には無力に御座います。全て吞み込みましょうぞ」
今まで黙って主の後ろに浮いていた、黒い竜が割って入ってきた。やっと口を開いたと思ったら、高圧的な喋りだな。主人に似やがったな?
「あはは!そうだね!暗ければ暗いほどボクが綺麗に見えるからね。よろしくね!ケチャップくん!」
「むか、・・・・ソースだ。覚えておきたまえ」
おお?いいぞ。うちのも負けてないな。流石リンだ。口喧嘩スキルはオレと毎日磨いてるからな。
「ああ、そうだっけ、ゴメンね?デミグラスくん!」
「デミ!だから我は・・・・デミグラスか・・悪くないな・・」
”ちょろいね”って顔つきでリンが勝ち誇っている。止めなさい、もっとスマートに行こうぜ?
「フフフフ。キミも変わっているがお連れの竜も変わっているようだね。御主人似のいい竜だ。・・おいでソース。」
お前に言われたくはない。
「ところで、これからギルドへ寄ってこの辺りの魔獣でも駆除しようかと思うのだが、どうだい?組まないかい?ここに着いたばかりで土地に疎いのだよ。道案内などして頂けると助かるのだが・・」
「あぁ、それは、残念だな。オレは今からこの街を離れる所だ。・・・この辺りの事ならギルドの弓使いでブリックって奴が詳しいから尋ねてみるといいと思うぜ」
「有難う。弓使いのブリックだね?声をかけさせてもらうよ。キミとは残念だ。また、何処かで会うこともありましょう。では。いくよ、君たち」
「はぁ~い、ハインツ様♪」×七
「おう!もう会わねぇと思うが、じゃあな!ブルドックさん!」
「・・・ハインツだよ」
サラサラの髪をファサッとやってマントをなびかせ、取り巻き共と共にギルドの方へと上って行った。
くくくっ、してやったりだぜ。たとえ竜飼い相手でもブリックは容赦ねえからな。オレを案内係扱いしたバツだ。ちょろいな。情緒不安定なこの時にオレと出会ったテメェが悪い。出来れば、もう二度と本当に出会いたくねぇな。くっそ、座り込んでねぇで、とっとと行くべきだった。あと一か所寄り道して行かなければならんのに、余計な時間を使った。
寄り道っつても、何時もの悪戯用護符と呪符のセットを買うだけなんだが。あのセットは狩りにも使えて便利なんだ。
今までの街で涙の噂は聞いたことがねぇから、次は行ったことの無い所を目指さなけりゃならねぇしな。何が起きるかわからんから、ちょっと強めに補充しておくか。
護符の補充を済ませ、宿に荷物を取りに戻った。支払いはギルドで既に済ませてあるので、できればサッと去りたい。誰にも会わずに、というかジョアに会わずに・・・無理だな。
もう話がギルド経由で回っているようだ。玄関先でウロウロしていて見つからずに、は不可能だ。サラッとクールにしれっといこう。
「あぁ、ジョアさん。どうも。いやぁ、お世話になりました。清算はギルドで済ませてありますので、荷物を引き取って、それで失礼させていただきます。暫らくジョアさんの作るご飯が食べられないかと思うと、残念でならないのですけどね。またこの街に寄った時には是非利用させていただきたいと思います。それでは、これで」
「・・・ええ。お待ちしておりますぅ。ただ、その前に、お昼、まだでは御座いませんか?最後に是非、お召し上がりになってください。勿論、お代はいいですの。私の心ばかりのおもてなしですわ」
特に断る理由も思いつかなかったし、腹はまぁ、外に出たら次にいつありつけるか、だしな。リンも頷いている事だしここは頂くことにしよう。
・・・見慣れた部屋だ。このボロッちい隙間風の酷い鎧戸も見納めだ。何とかした方がいい、冬は寒いんだ。
さて、荷物と言っても罠やら何やら狩猟生活必需品のつまったカバンが一つとテントだけだ。
「ルイ、これもいい?これ寝心地がいいんだ」
リンがいつも寝床にしていたクッションか・・・持って行ってやるか。クッションをカバンに詰め終えると、ジョアが昼食を持って部屋まで来ていた。
「ん?ジョアさん、食堂まで行きましたのに。なんか、わざわざ済みません」
暑いとはいえ、普段よりもやや薄着なのが気になる。オレはジョアの方を見ないようにテーブルの上に置かれた昼食を頂こうとした。
「ああ!!うっかり!リンちゃん、お客様なのに御免なさいなのですけど、食堂に冷えたエールを置きっぱなしにしてきちゃってぇ・・持って来て頂けると助かるのだけれど・・・」
「いいよ!いつもお世話になってるしね。じゃ、とってきまーす」
リンがエールを取りに行くのを見計らい、ジョアが部屋の戸を閉めた。彼女は無言で肩の部分の紐を解き、着ていたものをスルッと足元に落とした。肌着の類は身に着けてはいない。
全裸になったジョアは肌を恥じらいでピンク色に染め上げ、より一層色っぽく艶やかになっている。
「ジョアさ・・・」
言葉を口づけで遮られた。オレは椅子から立てずそのままで居るしか無かった。彼女は唇を放さぬまま、オレの右手を自分の秘所へと導いた。そこはとても熱く、床に糸を引き零れ落ちる程濡れそぼっていた。
「お願い。ルイさん。もう無理なの。きっとあなたは帰って来ない。貴方が欲しいの。貴方と一つになりたい。貴方のでお腹を一杯にして欲しいの。貴方をずっとそばに感じていたいの。はしたないとか、もうそんなのどうでもいい。お願い、ルイさん・・」
そう言うと、オレのズボンに手を掛けベルトを外しにかかった。くそ!図られた!やっぱりだ。ジョアも思い切ったな。もう、リンに見られても構わない、ってかい!
「ちょっと、まってくれ、ジョア・・・ここは客室だぜ?落ち着かねぇし、なにより壁も薄い。オレ、意外と声出ちゃうタイプなのよ。・・ジョアの部屋で、ってのはどうかな?
ほら、リンももう帰ってきちまうし。先にシャワーでも浴びて待っててくれ。さ!ほら、服着て!あ、し終わった後、冷えたエールが飲みてぇから、よろしく!」
「・・・ホントよ?待ってるからね?・・・・ずっと・・・まってるから・・・」
「ああ、飯食って、リンをだまして、直ぐにいくよ」
そう言ってササっと彼女に服を着させ、部屋から出て行かせることに成功した直後、リンが入れ違いで入って来る。
「ねぇ、ジョアさん、なんか泣いてたよ?ルイ、なんか言ったの?」
「リン!!すぐ出るぞ!そこの窓から出るんだ、今すぐ!」
「え、でも、ジョアさんの折角のお料理が・・・」
「いいから、いくぞ!」
こうしてオレ達は、逃げる様に窓から脱出?して湖へ向かうため裏門を目指した。裏門の傍にはダイアンの店があるが、表門に回ると湖へのルートがない。来るなと言われたが仕方がない。別に寄る訳でも無いし、通るくらいは勘弁してもらおう。
今はまだ静かな酒場を横目で見ながら通り過ぎようとすると、ベラが籠を持って急いで出て来た。これを、と真っ白なスカーフを渡されたのだが、それはリッチェのベールを仕立て直したものであった。
「アンタ、この街から出て行っちまうんだろ?それで、あの子はきっと一緒に居たいだろうと思ってねぇ、急いで直したんだ、お守り代わりだよ!
それと、これも持ってお行きなさいな。あの子の部屋に飾ってあった、アンタと一緒に写ってる念写。この前の祭りの時のだね?あの子がユカタで写ってるよ・・・
裏に何か書いてあるけどね、エルフ語で読めないんだよ。でもきっと、アンタにとって良いことが書いてあるだろうから、もっておゆき。
・・・うちの人、ああ言ってたけど、べつにアンタが嫌いなわけじゃないのよ。ヒトじゃ無けりゃ息子にしたいって言ってたんだよ。
あの人はね、ヒトは寿命が短いから、好きになった奴らが皆先に逝っちまうって、それがヤなのよ。だから、もし、ここに帰って来ることがあったら、うちに必ず寄っとくれよ!じゃあね!よい旅を!」
なんだよ、チクショウ。そんなの知ってたさ。だからこそ、殴られてやったんだよ、クソオヤジが。・・・リッチェを、もし生き返させられることが出来たら真っ先に連れてきてやるよ。ただし、娘さんを下さい報告だけどな!じゃあな、オヤジ。
絶対帰ってきてやる、気持ちが引き締まったぜ。
決意を新たに、いよいよ門へと近づくと、見慣れた大男が道を塞いでいた。
「・・・よっ!」
「よぉ」
「この街から出て行くんだって?」
「あぁ・・・もう、戻らねぇかも、しれねぇな」
「だと思ったよ。・・・リッチェの事、ギルドで知ったよ。なんていうか、残念だ。それと今更だが、スマン。オレが間違った考えを持っていた。そいつにとって大事なモンに種族なんて関係ねぇよな。それを失ったお前に、俺は・・・本当にスマン!」
「・・オレはいいよ、気にすんな。ただ、それに気付かせてくれたリッチェに感謝はしてやってくれよな・・・。あと、あんないい子に育ててくれたダイアン夫妻にも」
「わかった。酒場の方は、お前がもしも帰って来た時に、真っ先に向かえる様に俺が守っておくよ」
「ははっ、毎日飲みてぇだけだろ?」
「はは・・・」
「・・・」
「おい、これもっていけ」
ブリックはオレに担いでいた弓を投げてよこした。それは、普段目にしている弓とは違い二回りほど握りが太く、全体を朱色で塗られた強弓だった。
「ギルドの支給品じゃねぇぞ?このブリック様自慢の弓よ。ずっと一緒に戦ってきた戦友、だな。まぁ、お前が使いこなせるとは思えんが?持っていけ。いい旅をな!
・・・あばよ!ダチ公!!」
そう言い残し、街中の方へ去って行った。
「あぁ!あばよ!駄ち〇こう!!」
アイツは何かを拾い上げ投げつけてきた。それはヤッパリ一寸かすって後ろへ飛んでった。
「ハッハッハッハァ、当たらんかったろ?」
・・・チクショウ、いつも当たってんだよ・・・ばっかやろう・・じゃあ、な。
「さてと、行きますかリンちゃんよ!」
「そだね!ルイ!」
こうしてオレ達は門をくぐりこの街を後にした。
「ねぇ、今更なんだけど、ってゆうか、やっと聞けるんだけど、どうやって生き返ったの?呪符か何か使ってた?いや、蘇生の呪符なんて聞いた事無いし・・・」
「おお?ああ、多分あれだな。夢の中でよ?リッチェがオレにキスしてくれたんだよ。王子様は、お姫様のキスで蘇りましたとさ。ってな」
「王子様?お叔父様の間違いでしょ?」
リンは顔が火照っているのを悟られないようにそっぽを向いて言った。
「リン・・・オマエ・・・」
ビクッ!とするリン。
「リン、オマエの背中、金色の鱗が生えてるぜ?そこら辺って、たしか・・・」
「え?なに?ああ、えと、自分じゃ見られないから分かんないけど、多分、リッチェがいつも搔いてくれてたとこだと思う。・・・びっくりしたぁ」
「ん?なにがだ?」
「何でもないよ!それより、ぼくにもリッチェのお守りができた!ホントに優しいよね、リッチェは!絶対、探し出そうね!女神の涙!」
「ああ!もちのろんよ」
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