第4.5話 オッサンはかっこつけたい
活気づいた街中を尻目にオレは今、尻を突き出す格好で岩の隙間に腕を突っ込んでる。その岩の上でリンが寝てやがる。寝てばっかだな。手伝えよ!ばーかばーか!
しっかし、今は、できれば知り合いには会いたくはないな。また”竜飼いなのにそんなこと”って言われちまうゼ。・・・とは言っても、ここに流れ着いて2年半、酒場かギルドか酒場にしか行かないからな。知り合いっつっても、まぁ、見られたところで、ってとこだし。ん?酒場ばっかりだな、まるで飲んだくれじゃないか?オレ。
・・・くそ、深いな!!もっと奥か。
傍から見れば不審者の様だがこれは、森から入り込んだ”ネズミマジロの駆除”というギルドのクエストなのだ。
コイツは子供の頭位の大きさで、手ごろな隙間があれば何処でも巣を作りふえてゆく。
巣を張られると縦横無尽にトンネルを掘りやがるのでかなり厄介だ。道が陥没して馬などが足を取られて骨折、荷車の脱輪、最悪、建物すらも傾いてしまう。
日中は巣からなかなか出てこねぇから、こうやって、好物の生ゴミの匂いの染み付いた頑丈な手袋をはめて穴に手を突っ込み、嚙んだところを一気に引っこ抜く!ほい、二匹目。今日中にあと三匹、子供なら七匹位あつめなければ。
昨日は街に4か所ある噴水の掃除、一昨日はガンタン教会の窓枠取り換え。その前は・・・。とにかくギルドにゃ連日クエの張り紙だらけ、しかも結構な大盤振る舞い!!何故ならこれは、明日”ガンタン大夏祭り”が催されるためだ!今年こそ酒場のリッチェちゃんを誘うのだ!去年は親代わりの酒場のオヤジに追い払われたが、諦めん!!オジサン、年甲斐もなく恋しちゃったのよ~。
「ありゃー天使だ、天使様にちげぇね」
パンパンと二度手を打ち、拝む。
「?!くっさ!ばかじゃないの?」
しまった!手袋には生ゴミ臭が、、おぇ。
「ねぇ、ホント、お酒止めたら?脳の老化が進んでるんじゃない?それ以上馬、、ば、バイバーイ」
ちっ、リンの奴、逃げたか。この手袋で、顔をナデこちゃんしてやろうと思ったのに・・・気配を読まれたか。
「へん!いねえほうが墓にカネでハカドルってもんだぜ」
オレの脳は老化などしていない、むしろ冴えわたってるぜ。
なんてことを言いながら昼過ぎ頃には計11匹を捕まえ、クエスト報酬を頂きにギルドへ向かう。
たしか8匹めだったか、ちょうどリンが「お腹すいた」と戻って来たタイミングで、酒場で出会ったブリックって奴がオレのケツに「ヒギ!センネンゴロシー」とか叫んでカ〇チョウして行きやがった。
お前、生まれはどこだ!!
「痛そ。ねぇ痛い?大丈夫?あのね、ついてナイときはね、美味しいものたくさん食べてわすれよ?お昼まだだよ?」
「大丈夫だ、心配してくれてありがとよ!感激で涙がちょちょぎれてるぜ」
アイツ、覚えてろよ?!
・・・今日は辛い食い物は止めておこう。ひねり出したら滲みそうだ。
オレはアナが気になり軽めの昼食で済ませたが、リンはお構いなしにバンバン口に放り込む。途中
「ぶふぅっつ」
と思い出し笑いをしやがって、オレの顔面に口の中の物を盛大に吹き付けた。結果、顔面に一皿出来上ることとなる。両隣の客がむせ込むほど笑い「申し訳ない」「だが今年一番、笑った」と、お詫びにと飯代を置いて行ったが・・・もう、ついてなさ過ぎて怒る気も断る気力もない。早く此処をでて酒飲もう。
ギルドへ行き、痛む尻をなでながら受付で清算を済ませると、一枚の依頼クエが目に留まった。
”クラス S 祭り用 大至急納品求む 魔獣 鱗イノシシ三頭”
とある。オレはクラスBなので普段なら気にも留めない。どうぞ、お強い方よろしくお願いします、だ。只、最後の一行
”依頼主 酒場 大樽のダイアン”
と。大樽のって、リッチェちゃんとこの店じゃねえか!!何たるめぐり合わせ!あぁ、女神様!!ありがとうございます!!祈るの初めてなんだけどね・・・。今日のツイてなさはこれでチャラにしてやる。オレはすぐさま依頼書を引っぺがしカウンターへ差し出す。
これクリアしたらあれだよ?堅物ダイアンを説き伏せられるかも知れないし、リッチェちゃんも「ホントはすごいんですね!惚れちゃう!きやっ///」とかなって、お祭りでイチャイチャして、教会の裏でチューなんかしたりして、そんで花火の見える宿で「リッチェ、こっちへおいで」とかなっちまったりするんじゃねえか?おい!
「あのー、ルイ様?こちらクラスが・・・それと、脚にお連れの竜様が噛みついて御出でですが、、平気なので?」
「あ、平気です。お構いなく」
イカン、妄想が先走った。
「ルイ様は竜飼い様で御座いますがクラスのほうが、その、B、となっておりましてクラスSはちょっと・・・。お連れの竜様のほうも、どのタイプにも属していらっしゃらないようでギルドに情報がないのでございます。つきましては、あ、決して竜飼い様を疑うわけでは御座いません!しかし当ギルドといたしまして責任の所在が、、うんたらかんたら、、」
何とも歯切れ悪く、暗にだめだ、とか抜かしているので「死んだら自己責任、ほっといてもらって構わない。竜のこいつは死なないからこいつを保証人にして、報酬の半分程度の金を手付金で置いていく」と無理やりもぎ取ってきた。
クエ対象の鱗イノシシ自体は、罠に嵌めれば割に楽だ。旅の途中で何度か狩っている。問題はどうやって運ぶか?であった。
こいつの肉はとにかく美味いのだ。当然ほかの魔獣も狙ってくる。加えて一頭700キロ程度もありやがる。流石に一人では荷車があっても運べねぇ。
オレァ、ピンときたね!運び手にアテがあった。センネンナンタラは忘れてやるから手伝わせよう。先ず手頃な鱗ウリ坊を捉える。そいつをリンに括り付け、親がつられて出て来たら落とし穴のほうへレッツゴーだ。
「祭りの当日、オレの貯金のギルドカード渡してやるから好きなだけ食って来い」
と、リンに持ち掛けた。
「やるーー!ルイ、僕がんばるね!」
頬をこすりつけてきたのだが、甘いなリン。ふふ、厄介払いも兼ねているのだよ。
あまりの喜びっぷりにちょっと罪悪感があるが、オレの幸せのためにがんばってくれ。
取り敢えず今夜の飲みで決定して明日決行だな。
当日、手はず通りブリックに運び手を快く?引き受けてもらい、何事もなくあっという間にクエスト達成!
・・・とまでは言えないか。途中、バカでかい森ミミズにリンが丸ごと喰われちまって焦ったが、ケツから煙で出て来たときには、本当に笑ったねぇ。記録魔法の呪符を忘れたのが悔やまれるゼ。それと二足歩行の小さなヒト型魔獣の群れに追い掛け回されたときはブリックと必死に走ったけかな。
・・・たまには、こうして誰かと組むのも悪くはない。何はともあれ、報告報告。クラスSだろうが何だろうが、オレの欲ぼ・・もとい、知恵と勇気の前には敵わねえってことよ。
とりあえず、カウンターで外にある荷の確認をしてもらい、報酬の受け取りを済ませる。
「さすがは竜飼い様!!お見事です!」
だってよ。えらく手の平返しだがギルド勤めなんてそんなもんか。しかし、ふふふふ、これで大手を振って夕方のお祭りにリッチェちゃんを誘えるぜぇ。
「ルイ!ルイ!忘れてないよね?食べ放題だよね?もう行っていい?」
リンには妄想感知能力でも付いているのか?現実に戻ってきちまったではないか。
「夕方の本番までにはまだ早いが、見たとこ屋台がチラホラ開いてんな。ぐるっと回ってみるか」
「何がぐるっと、だよ。どうせそのままダイアンさんのとこ行くんでしょ?」
「なぁーによ。オレもお祭り好きなのよ?ほら~あれだよ、あの氷の上に載ってて、水あめで、果物が棒に刺さってるやつ!・・・名前でてこねぇや。くじ引きできるとこ探さねば!!三本はいただくぜ」
「・・・ルイ・・・糖尿になっちゃうよ?お酒も飲むし、歳だし」
「ほっとけ!まだそんな歳でもねぇし!!」
なんて会話をしながらプラプラしていると、見てはならない、あってはならない、だが確実にそこにある現実が目の前に現れた。
「あ、リンちゃん、ルイさんいらっしゃい。ごめんなさい、もうちょっと待っててね。今ダイアンさんが串に打ったお肉もってくるから」
「わぁ!!リッチェ、売り子さん姿だぁ。リッチェは何着ても素敵だけど、髪を上げてるのって初めて見たぁ!いいなぁ!かわいいね!」
何ということであろうか、リッチェちゃんが売り子、だと?・・・オレのお祭りプランは、オレの幸せタイムは・・・膝から力が抜けて思わずその場に尻もちをついた。
「わ!!ルイさん。大丈夫ですか?!」
「ああ、ごめん、大丈夫だ。・・・その・・今日は売り子さんなんだね。なんていうか、キミのあまりのキュートさにチョットあてられちゃって」
実際、とても素敵だ。ユカタという民族衣装に、綺麗に結った髪を束ね纏め上げている。「そこのお姉ちゃんよぉ、きれーだねぇ。ちょっと遊びいこ?」なんて声をかけて廻ってる若造達も、逆におこがましくって身の程をわきまえちまう程、キラッキラしたオーラを放っている。オレは
「はは、焼けたころ、また来るね。がんばってね」
そう言って背筋を丸め、その場を後にすることしか出来なかった。
・・・あぁ、この街ってこんなに滲んで見えづらかったけ。
これから、酒場に行って「オレが仕留めたんですよ。大至急ってありましたから、がんばりましたよ」って恩を売って、リッチェちゃん誘って・・・。
・・・オレ、がんばったんだけどなぁ。やっぱり、女神様なんて居やしやがらねーな。
「・・・リン、もういいよ。好きなもん、食っといで。いってらっしゃ~い」
「いやったーー!!いってきまーす!」
せめて、お前だけでも、楽しんできてくれ。今日はもう飲みに行く気分でもないな。オレはヤケ酒はしない主義なんだ。酒は楽しく飲むもんだからな。
特に行く当てもないので飴を買うことにしたのだが、こんなときに、くじで五本も当たってしまった。そうだな・・・ヤケ飴?することにしよう。まとめて三本口に入れダンカン城へと続く階段を中ほどまで登り、腰を下ろす。眼下には屋台の明かりや蠢く人々が見える。
気が付けばもう空は星々が輝いていた。
余った二本の飴を手にうなだれてリンの帰りを待っていると、不意に
「飴、いただけませんか?」
と声をかけられビクッとなった。気配を完全に絶って後ろに回られていたようだ。
「ふふふ、びっくりしました?エルフ奥義!びっくりドッキリ!です。どうです?うまいもんでしょ?エヘン!」
とても聞き覚えのある優しい声がオレの涙腺を弛ませる。
「どうしたんですか?ルイさん。具合がわるいのですか?」
「ん、ぢがうんだ。ばんでもないよ」
鼻水でうまく喋れないし、涙も出ている。リンの言った通り、歳かな、こりゃあ。今、顔を上げることが出来ない。どうしよう・・
「ドーン」
「ッドドーン」
「あ!花火!」夜空を彩る巨大な花火が打ちあがる。ここぞとばかりに一気に鼻水をすすり、涙を拭く。
「リッチェちゃん、どうしてここに?屋台は?」
飴を一本渡しながら尋ねた。
「ベラさんが、せっかくのお祭りなんだから行っといで、って。でも私、エルフのお友達いないし・・・ルイさんならエルフだ、とかヒトだからとか言わないでくれるから、一緒に行けたら楽しいだろうなって思ってたら、ルイさんを見かけて、それで・・・あっ、ごめんなさい!一人でしゃべってて、もしかして待ち合わせとかしてました?その・・宿のかたとか・・・」
「待ってない!待ち合わせなんてしてないよ。ちょっと・・・リン、そうリンの奴がね、いろんなもの食べたいっていうから、ほんじゃ行っといで~って。はは」
「あぁ、だからおひとりなんですね。じゃあ、私と、よかったらおまつ・・」
「お祭り、一緒にいきませんか?」
オレがかぶせて言った為に同時に喋ったみたいになり、二人でくすくす笑い合った。
頭上では色とりどりの花火が大輪の花を咲かせ夜空を彩る。その度にリッチェの美しい顔がはっきりと映し出され、オレの心に焼き付く。
あっち、こっち、とうれしそうにはしゃぐリッチェがとても愛おしかった。”この時が永遠なら”とよく聞くが、きっと、このことなんだな。
「みて!ルイさん、これすっごく綺麗!!」
どうやら異国の、絹で織られた羽織物の様で”ベール”と書いてある。とても軽やかで上品な造りは、リッチェの細く、しなやかな腕を生地越しに透けて魅させ、思わず息をするのを忘れさせた。
「羽織ってごらん?」
そう勧め、リッチェが纏っている間に素早く支払いを済ませる。
屋台や花火の光を、まるで独り占めにして吸い込んでいるかのように見えるベールを、肩から腕にかけて纏いクルクル回ったり時折ぴょんと跳ねたりする。百幾つって言っても、やっぱり、少女なんだな。鱗イノシシの報酬が全て飛んだが一向に構わない。オレは今猛烈に幸せを感じているのだ。
「どうぞ。お姫様。私めからの献上品でございます」
手を胸に、片膝をつきちょっとカッコつけて言ってみた。
「えっ?だめ、ダメダメダメ!絶対高いもの!それにこんな、綺麗なの私には勿体ないもの・・・」
身に着けたベールをパッと脱ぎ、きれいに畳もうとするその手からベールを取り、再び羽織らせてあげた。
「オレが見ていたいのさ。とても素敵だ。オレとお祭りに行ってくれたお礼、ってことで・・ね?」
「・・・うん・・有難うござい・・」
「ございます、は要らないよ。リッチェちゃん。もっとこう、友達同士?みたいにかしこまらない感じでいこうぜ?
ん~・・・オッサンと友達ってのも無いか」
ちょっと赤らめた顔をベールに半分うずめて「うん・・ありがとう・・」と恥ずかしそうに答えながらオレを見つめている。
これは!これは!!オレはやったよ!女神様!あんたやっぱりいらしたのね?!
オレは顔がにやけないように必死に努めながらリッチェの肩にそっと手をかけた。
「リッ・・・」
「ルッーイー!!たっだいまーー!!ん~、いっっぱいたべた~。あっ、リッチェ、それすっごく素敵だね!!ん?顔赤いよ大丈夫?
・・・あー、お酒飲んだなぁ?
そうだ!リッチェのお店にも行ってきたよ。
えへへー。鱗イノシシ串、オマケしてもらっちゃった。それでベラさんがね、イノシシありがとうって言ってたよ。それと、多分リッチェはルイの所だろうから見張ってろだってさ!!
ルイー、信用無いねー。ま~、普段がああだもんねぇ、ぷぷっ」
だから、リン!!!なんだよ!なんか魔法の類か?いや、呪いの何かだな?チックショーめ!
「それと」
握りしめていた紙の束を渡される。
「お金、ちょっと足りなかったからツケてもらってきた。ごちそうさまでした」ぺこり。
・・・女神さん、やっぱりあんた、いねーよ!
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