第4話 中途半端は嫌いという奴ほど中途半端だったりする

 机に突っ伏す。まさか、蒼羽と付き合っているとは。そりゃ格好良いけどさ。でも、何で? いつから? どこに接点があったんだよ。


 折角感情が浮き上がってきたのにまた沈められた。


 深い絶望の中でLINKの通知が鳴る。


『まだ調子悪そう?』


 如月からだった。何なんだよお前。人の気持ちも知らないで。


 無視するとその仕草に気付いたのか今度は直接聞きにきた。


「何で無視するの」


「別に……」


「ああ、そう」


 それだけ言って戻っていった。


 多分嫌な奴だと思われた。けど、今の状態じゃ自棄にもなりたくなる。


「おい健太大丈夫かよ。やっぱり保健室行った方がいいんじゃねえか」


「颯人か……そうするかな……」


 このままだとクラスの雰囲気が重くなるし保健室に行った方が良いかな。


「よし、じゃあ立って。ほら行くぞ」


 颯人に連れられるがまま保健室に向かった。


「早いからまだ先生いねえなあ。とりあえずベッドに横になってろ。……どっかに解熱剤ねえのかな」


「熱はないから大丈夫。具合悪いだけだから寝るだけで良いよ。ありがとな」


「あら、そう。んじゃ、大事にな。俺は戻るから」


 颯人はなんだかんだで面倒見が良いよな。


 とりあえず昼まで寝るか。




「せんせぇー! 休ませてー! っていないし。ん? 誰か使ってるのか」


 何か夢咲のような声がする。またあいつサボりに来たのか。


 少しカーテンを開けてちらりと覗くとやはり夢咲がいる。


「お、高橋じゃん。そっかそっか、保健室行ったんだった。忘れてた」


 げ、目が合ってしまった。


「まだ具合悪いの?」


「ああ、まあ……な」


「ふーん……」


 額に手をつけてくる。距離が近い。


「熱ないじゃん」


「熱はもうないけど調子悪くて」


「ふーん……本当に体の具合なのかな」


 何か、妙に勘が鋭いなこいつ。まあ半分は病み上がりだからってのもあるけどもう半分は違うしな。


「か、体の調子だよ。余計な詮索はすんなって」


「そういうこと言うと却って怪しいぞ。どれ、お姉さんに言ってみ」


「どの立場だよ……」


「イケてるギャル」


 自分で言うか。めっちゃドヤ顔で髪ファサァッと靡かされても困るのだが。


「もしかして恋の悩み⁉︎」


 やめろ。その話題を出すな。


「さっきみぃんちゃに話しかけられて余計落ち込んでたもんね」


 見られてたァーッ!


「う、うっせ……。夢咲もあの話聞いてたんだろ」


「話? ああ、噂ね。あたしも聞いた。でも珍しい組み合わせというか今までまるで接点がなかったのに意外だねぇっと思った」


「あくまでも噂なのか。直接は」


「聞いてない。そういうのって自分から言うべきだと思うし。変な匂わせだけするのって良くないと思う。はっきりしてもらわないと困るからね。言わせるのは違うし」


 そういやこいつそういう奴だった。


「で、取られたから落ち込んでるんだ」


 めっちゃ笑われている。笑い事じゃないよ。


「取られたって……別に如月は俺のものじゃねえよ。それに別に如月の事なんて……」


「ふぅーん。ま、あたしには関係ないけど」


「そりゃ関係ないだろうけどさ」


「で、あんたはどうしたいの」


「え? 俺?」


「あんた以外に誰がいるのよ」


「俺は……」


 なんて言えばいいんだ。言葉が続かない。何をしたいんだ。俺はどうすればいい。


 思い悩んでいると急にがたんと大きな音を立てて扉が開いた。


「せんせー! 遊びに来たよ! ってあれ? 誰もいない? ん、一個だけは使ってるのか」


「おかしいなぁ、明里いつもならそこの椅子にいるんだけど」


 入ってきたのはギャルズだった。


 というか何だこの状況。なんで夢咲がベッドに入り込んできてんだよ⁉︎


「ちょ、なんで……」


「良いから黙ってて」


「いや、普通にしてれば良いじゃん」


「あ、あたしとあんたが一緒にいると二人にどう思われるか分かってんの? あんたの為にやってんのよ。良いから黙ってて。あと息しないで」


 そりゃ確かにあの二人に見つかると何言われるか分からない。夢咲にはダメージないだろうけど俺へまた何か言ってきそうだしな。


「んな無茶な……」


 でも、こいつなりに色々考えてくれているんだよな。


 それにしても匂いが良い。何の香水? それとも柔軟剤? あとはシャンプー? 女子の匂い付きのやつって何なのか分からん。それとも生まれつきなのか⁉︎


「ちょ、ちょっと……動くなって……」


 胸が当たっている。やばい。


 足音が近づいて来る。なんで来るんだよ。プライベートなしかよ。


「実はここにいるオチとか⁉︎」


「げ、ダメ男じゃん」


 勢いよくカーテンを開けられる。幸い、夢咲は布団に隠れているので見つかってはいない。


「ど、どうも……」


「なんだ……っていうか変に盛り上がってない?」


「ちょ、ちょっと体育座りをね……」


「ふーん……。あ、そうだ。この前なんだけど」


「パイセンに色々言われちゃってさ、ごめんね」


「え……」


「うん、ごめん。あかりんも言ってたし。あの時は調子乗ってた」


 二人が謝ってきた。何で、どういう風の吹き回しだよ。


「べ、別に良いよ……」


「んじゃ、そういうことだから! 行くよともりん!」


「失礼しやした!」


 二人は出ていってしまった。嵐のような二人だ。


「ぷはぁ! 死ぬかと思った……」


「す、すまん……」


「何で謝るのさ。あたしがやり始めた事だし」


「いや、彼氏いる奴がこんな事してたらなんか悪いっていうか」


「あーうん、そうだね。で、何か言いたいことある?」


「えっ……ああ……ありがとうな。何か、根回ししてくれて」


「別に。ちょっとムカついたから。陰キャ君ばかり美味しいところばっか持っていくのはフェアじゃないし」


 ウィンクされる。それってどういう時に使うの。


「東雲は……別に良いじゃねえか」


「本当に良いの? 折角イメチェンしたのに全部持ってかれたじゃん。元々あたしが提案したのをふいにされた感じじゃん? それってムカつかない? それも含めてだよ」


「そっち……もう何かすっかり忘れてた」


「お陰様で全然髪セットしなくなったしね! ほらセットしてあげるから姿勢正して!」


「あ、ああ……」


「ったく……でも、ようやく一矢報いたかなって感じ」


 なんか、こうして貰えていると。


「姉さんみたい」


「は?」


「やっべ、声に出てた……いででで、髪! 髪が!」


「姉さんってどういうこと⁉︎」


「いやさっき夢咲自身が言ったじゃん!」


「あれは言葉の綾だから!」


「いでぇー‼︎」


「……はい、これで良し」


「……ありがとな」


「ふぅ……ま、時間潰しには丁度良かった。じゃ、落ち着くまでゆっくりしてなさいよ」


 夢咲は保健室から出ていった。


 というか、いつになったら先生は来るの?


 昼休み、そろそろ戻ろうかとしたところで誰かがが入ってきた。


 流石に先生がいるので要件を聞かれている。


「高橋健太ってここにいますか?」


「ああ、今は寝てるんじゃない? そろそろ起きると思うから起こしてあげて」


「はい、分かりました」


 カーテンを開けられる。するとそこには如月がいた。


「き、如月……」


「何? 何か来て欲しくないって顔をしてるけど」


「別に……」


「また、それ。何で避けるの? 私なんか変なこと言った? 悪かったら謝る。だから言ってほしい」


 違うんだ。別に何も悪くない。結局、俺からすれば如月は高嶺の花だったんだ。何で好きになってしまったんだろうか。


「別に……悪くないから。如月には関係ない」


「ふーん。夢咲から聞いたんだけど、普通に話できてたみたいだし、八木にだって無視してたわけじゃない。私だけ。何で? 関係なかったら何でそんな態度するの」


 聞けるかよ。蒼羽と付き合っているかなんて。聞いて肯定されたらいよいよ俺はもうダメになる。


「答えてよ」


「……辛いんだよ。言うのが」


「そっか」


 けど、言わなきゃ前には進めないんだろうな。自分を傷付ける覚悟がなきゃこの先一生如月と向き合えないまま終わって行く。


 それも嫌だ。


 なら、どうする。


 その時夢咲が「あんたはどうしたいの」と言っていたのを思い出す。


 俺は、やっぱり知りたい。有耶無耶にはしたくない。


「……っ、き、如月は……蒼羽と昨日……」


「ああ、うん、付き合ってほしいって言って付き合ってもらった」


 ああ、やっぱりそうなんだ。終わった。


「噂は本当だったんだな」


「噂? 何の話?」


「蒼羽と付き合っているって」


「ん? 付き合っている?」


「え……」


「あ、時間ないや。ごめん、呼ばれてるから放課後に」


「あ、ちょ……」


 その後すぐLINKに“放課後クラスに残るように”と釘を刺された。


 何なんだよあいつ……。


 というか呼び出しって蒼羽か?


ーー放課後。


 逃げたところで先延ばしになるだけなのでクラスから人が捌けるのを待った。


二人きりになると如月が近寄ってきた。


「はいこれ」


 柔らかい素材で出来た物体を渡される。


「これは?」


「脛当て。スポーツ大会で勝手にサッカーに入れられてたからこういうのあった方がいいと思って。怪我防止になるし」


「それで蒼羽と?」


「そう。詳しいと思ったから。これなら大体の男子でも使えるって」


 付き合ってって買い物に付き合えって事かよ。めっちゃ焦ったんだけど。なんか途中から噛み合ってない感じしたけどそういう事だったのか。


 何か、安心しすぎて脱力してきた。


「でもなんで買おうと」


「そういう気分だったから」


 気分で人に物をあげるタイプなのか。


「そっか……大切に使わせてもらうよ」


「そうして。あ、私バスケだから」


 え、何で今それを言うの。言われても困るんだけど。えっと、もしかしてバスケに関する何かをあげろって事?


「バスケやってたから選ばれてしまった」


 経験者かよ。なら要らねえか。でもわざわざ言うものか。いや、会話の流れ的に普通に出てくるよな。


 最近如月の事を考えると訳が分からなくなる。


「どうした? 考え事?」


「い、いや何でもない」


 それでも、貰ったし返すのが普通だよな。


「如月はバスケか」


「うん、そうだよ」


「応援してる」


「ありがと。こっちも応援してるから」


 なんか、こういうの良いな。俺はこれまで女子と会話することがあったとしてもこんな感じで物を貰ったり応援をされたり、その逆のこともなかったから。


「じゃ、帰るね」


「また明日」


 早速何かお返しを買いに行くか。


 とスポーツ用品店に来たは良いもののどういったものを渡せば良いのか分からない。バスケって何が必要なんだろう。ボールや服はともかくとしてバッシュは本人いないとダメだしあれ思ったより必要なのないのか。バスケって汗凄いし無難にタオルか?


 いやいや、それはないだろう。もうちょっと気の利いたものをだな。


 そういや普段あいつ体育の時、髪どうしているんだっけ。


 普段、髪留めとか何も付けてない天然美少女だし想像が付かない。


 今日はひとまずやめておいてもう少し探った方が良いかな。


 LINKで送るのも何か探られていそうと思われるのは嫌なので直接話している時に自然に持っていきたいな。


いや、待てよ。一つ良い案が思い浮かんだ。


「ただいま」


 家に帰宅すると丁度自室に戻ろうとする妹がいた。


「あ、兄さん。もう大丈夫なんだ」


「結局今日は保健室で終わった。まあ明日からは普通に過ごせるよ」


「そ」


 それだけ言って階段を登っていく。


 え、それだけかよ。向こうから話しかけてきたのに。思春期分かんねえ。


「もうちょっと意思疎通が出来たらいいんだけどな」


「なんか言った⁉︎」


 やべ、聞こえていた。


「何でもねえよ。飯、出来たら呼ぶからな」


「あーうん分かった」


 そこは素直なのな。人間、食事を嫌がる奴なんてそうはいないか。


 今日は両親共に残業で遅くなるので俺が作る。


 とはいっても簡単なものしか作れないので冷蔵庫と相談しながら調べるか。


 冷蔵庫を見る前にパントリーを見る。パスタがあるな。パスタはとりあえず茹でてあとはレトルトのソースをかければ食べられる。が、それだけだと物足りない。


 次に冷蔵庫を見ると昨日の残りものやらが残っている。これと後サラダを作れば良いかな。折角だし、あとコーンスープかポタージュないかな。


 両方ともあった。気分によって選ぶ家族なので食べる直前にどちらにするか聞こう。


 まず、水を沸騰させている間にサラダの用意をする。レタスはちぎり、トマトを八分割する。うん、これだけで形になる。あとはきゅうりでも添えておこう。


 沸騰したのでパスタを入れる。今の時代レンジで簡単に出来るがやっぱり茹でたほうが良いよなと思ってしまう。それにしてもパスタって怖い。分量を間違えて多く作ると爆弾に変わるのだから。


 ひとまず二人分が出来たので郁を呼ぶ。


「ふーん、パスタか」


「久しく食べてなかっただろ。俺でもこれくらいならできるし。あ、コーンスープとポタージュどっちにする?」


「コーンスープ」


「ちょっと待ってな」


「良いよ、自分でやるから」


 反抗期怖い。


「兄さんは?」


「へ? ああ、俺もコーンスープだけど」


「分かった」


 何か普通に俺のも作ってくれているんだけど。妹の考えていることが最近本当に分からない。


「ほら。あとは自分でかき回して」


「すまんな」


 無視されて妹は食べ始めた。


「い、いただきます」


 気まずいなあ。味とか全然変わらないくらい集中できてない。ちゃんと茹で時間は問題ないはずだ。硬すぎたり柔らかすぎるわけでもない。至って問題ないはずだ。問題ないはずなのだがそれ以上に妹に文句を言われるのが怖い。


「サラダのドレッシングは?」


「忘れてた。すまんすまん。ごまドレで良い?」


そっちだったか。いかんな、集中が切れている。


「良いよ」


 なんとかご機嫌取りしないと。


「勉強、順調か?」


「まあそこそこ。余裕で兄さんの高校には行ける」


 そりゃ俺は偏差値が少し低い近いところを選んだからな。


「公立は多分行けるはず」


 私立に行くと流石に親に負担が掛かりすぎるし何とか公立に行ってもらいたい。俺が行けば良かったんだけど公立にいけるほどでもなかったからな。


「そうか、頑張れよ」


「うん。それにしても兄さんの高校、蒼紅学園そうこうがくえんって安直すぎない?」


「俺に言われても困るんだけど。初代学長が二人いてその二人の名前から来てるらしいから」


「あっそ」


 反応がいい加減だな。ならなんで話題に出したんだよ。


「ごちそうさま。洗い物よろしく」


「ああ、うん。任せておけ」


 妹は再び自室に戻っていった。


 洗い物を済ませ、リビングで微睡む。面白い番組もないけど親が帰ってくるまで部屋に戻るのも面倒だ。


 ぼーっとしていると水を汲みにきた妹がやってくる。


「何してんの」


「帰りを待ってる」


「ふーん……」


 突然脇腹をくすぐられる。


「うわぁっ⁉︎ 何⁉︎」


「何今の顔おもしろ」


 いや突然くすぐられたら驚くに決まってるだろ。こいつの脳内まじでどうなってんだ。


「なんでまた急に」


「なんかすっげー情けない格好してたから気合い入れてやろうかと思って」


「お前な……」


 何か言ってやろうかと思ったがチャイムが鳴る。


「ほら帰ってきたよ。私が迎えるから兄さんは準備して」


「そ、そうだな……全く……」


 妹との距離感が本当に分からない。


 その後は淡々と家事をして今日を終える。


ーー次の日。


「夢咲、如月って体育の時どんな感じだ」


「はあ? いきなり何言ってんの?」


 昨日の良い案とは夢咲に聞くことだ。直接本人に聞くのは少し気恥ずかしいので仲の良い夢咲に聞く。


「すまん。ちょっと本人には聞きづらくて」


「あーね。どんな感じって言われても。優秀としか」


 ま、確かにバスケをやっていたくらいだし運動神経も良さそうだ。でも聞きたいのはそこではない。質問を変えよう。


「あーえっと、髪型とか変えているのかなーって」


「髪? なんであんたがみぃんちゃの髪の話してんの」


「いや、ちょっと、ほら……」


 何でこういう時に限って察し力が低下しているんだ!


「よくわかんないけどいつものまま。前に運動ん時邪魔じゃない? って言ったら、別に。付ける方が面倒だからいらないって言われちゃった」


 だとすると髪留めはしてないんだな。じゃあそれを買うか。でも面倒とか言われるのは嫌だな。うーん。


「そっか。ありがとな」


「何が? 今ので良いの?」


「そう」


「あんたもよくわかんないね〜」


「まあ、傍から見たらそうかも。ところでさ、放課後買い物に付き合ってくれねえか」


「えーなんで」


「頼む! こういうの頼れるのお前しかいない!」


 ファッションのことなら俺が勝手に決めるより夢咲に任せた方がいい。


「え、何? 怖いんだけど。つーか彼氏持ちに良くもまあそういうの頼めるよね」


「そこをなんとか」


「っ……まあ良いわ。今日は三人で遊ぶ予定だったけどキャンセルしとく。なんか切羽詰まってる感じするし」


「す、すまねぇ」


「いいのいいの。いつもそんな感じだし」


 というかいつもって言うと彼氏といつ遊びに行っているんだこいつは。まあそれを言い出したらギャルズも大概そうだよな。やっぱり休日とかなのかな。


 約束を取り付けたし放課後まで待った。


「じゃ、行こっか。……どこへ?」


「女性向けのファッション」


「……は?」


 めっちゃドン引きされているんだが何でだ。あ、もしかして。


「や、違う! 俺用じゃなくて」


「何だ、急に女装に目覚めたのかと」


「ちがーう!」


やっぱりそういう誤解だったか。


「でもそっか。妹ちゃんへのプレゼント?」


「ま、まあそんなとこ」


い、言えない。如月にあげる為とか言えない。質問の嵐が飛んでくるに違いない。


「ふーん。でも、あたしを選んだのは当たりだね。あんた一人だと流行りどれか分からんないだろうし」


「そういうこと! だからよろしく頼む!」


良かった、何とか無事にアドバイスしてもらいながら選べそうだ。


 とりあえず専門的なところは外して色んなものが扱っているショッピングモールに来た。


「ま、ここなら妥協案も出せるだろうし初めてあげるには丁度良いんじゃないかな。きわきわを攻めると失敗しちゃったら元も子もないもんね」


「なるほど」


 確かに、最悪見つからなくても代替で何か買えそうだ。


「ファッションとか言うけど服じゃないよね」


「ああ、まあな。流石に服はないだろ」


「だよね。じゃあ小物とかそういうの」


「そそ。髪留めとかそんなの」


「髪留め? あれ、何かどっかで聞いたような。まあいっか。良いよ。じゃあ、あそこの店行こっか」


 歩いていると周囲が騒つく。


 めっちゃ可愛いギャルがいる。その隣は彼氏? 地味すぎない? と散々な言われ放題。


「ああいうの気にしなくて良いから。つーか、あたしが一番嫌いな人種。他人のこと言う前にまず鏡見ろっての」


「あはは、確かに……」


「で、どんな感じをご所望なの?」


「えーっと、できれば防水? 汗に強いやつ」


「あんたファッションに機能性求めてどうすんの」


「え、ええ……いやでも汗かいて染みになったら嫌だよね」


「そうならないようにこまめに綺麗にしておくんよ。でも、確かにあげるものだし簡単に汗染みになるようなものはまずいか。これから夏だし」


 分かってくれたようでよかった。


「このシュシュとかはどうなんだ? 説明見る限り洗いやすそうだが」


「だめ。昔流行ってもう一周して流行ったけど今は古い。それに今手に持ってるのは凄く安っぽく見える」


「そ、そうか……」


「今また流行り出したのは大きめのリボン。けど、ちょっと中高生が付けるのは微妙かな。これくらいの大きさが良いかしら」


 渡されたのはシルバーのリボンだった。


「妹ちゃん黒髪でしょ? これくらいの色が良いよ」


「そ、そうか。サンキューな。後ヘアバンドとかは」


 あっぶねー! 郁も黒髪で助かった。夢咲の事だから多分配色とか絶対気にしてそうだもんな。


「なんかやたらヘアアクセに拘るわね。じゃあこれとか。大体ダサくなっちゃうけどまだこれならおしゃれになる。でも気をつけて。デコだしって顔コンプ抱えてる人には地雷だから」


「確かにそうか……」


輪郭を隠せばそこそこマシに見えるってのは良く聞く話だ。だから輪郭が丸見えになるヘアバンドは危険だ。


「まあでも拘るなら両方買ってあげなよ」


「分かった。えっと値段は……うわ、かなりする……」


「素材が良いの選んでるから」


「ですよね」


 高校生には少し厳しい金額のものを二つ買った。


「これで終わり?」


「必要なものは終わった。ありがとな」


「そ。じゃあ今度はあたしに付き合って」


「お、おう?」


 連れて行かれたのはモールの外の喫茶店だった。


「ここのパフェが食べたくて。でも二人からじゃないと食べられないから。今いつメン二人はダイエット中だし誘えなくて」


「え、俺じゃなくても彼氏と来れば良いじゃん」


「タイミングの問題よタイミングの問題」


 何か二回も言われてしまった。


「じゃあ行くよ」


 断る気もないのでそのまま付いていく。


「この二人以上限定のパフェで」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


「なんか写真見る限りだと一人でいけそうだけど」


「あんた知らないからそんなこと言えるのよ。この店は逆詐欺で有名なの!」


 逆詐欺。写真では小さく見せて現物はめちゃくちゃ大きいあれか。


 五分くらいすると到着した。


「おまたせしました」


 でかい。何だこりゃ。これが二人以上だと。明らかに四人いないと食べられないだろ。初めて見たぞこんなパフェ。パフェの概念が壊れる。バケツ並みじゃないか。


「うんまそーっ」


 そう言って彼女はパシャパシャ写真を撮りまくってる。俺も一応一枚撮っておくか。


「……いや、撮りすぎだろ」


もう何枚、いや何十枚撮っているのだろうか。


「分かってないねぇ。今この時はこの画角が良いと思ってるかもしれないけど盛る時にやっぱこっちのが良かったとかあるじゃん! 映えってのはもう20年も前から大事にされてる考えなの!」


「映え、ねぇ……」


 俺には一生理解できない世界だと思う。俺が撮るのは記録程度の事でしかない。


「ふぅ、満足した。さ、食べましょ」


 やっと終わった。


 取り皿に少しずつ取り出す。底が見えない。恐ろしや恐ろしや。


「うんまー! 何これ! 大体こうやって映えを優先したりデカさを追求すると大味になるけどこれは良い!」


 確かに美味しい。よく見ると一個一個小さい塊で作られているので味が損なわずに済んでいるのか。


 そりゃ有名にもなるわけだ。


 どんどん彼女はぱくぱく食べていく。速すぎだろ。デザート食いの化身かよ。


「あれ、全然食べてないじゃん」


「空腹に甘いものって重くないか」


「そう? 全然気にしてないけど。別腹だし」


 それ順番おかしくねえか。


 結局、七割は彼女が食べていた。もしかして大食い選手権に出られるのでは? それしてもこれだけ食べてお腹出てないし太る気配もないから凄いな。体質もあるかもしれないけど。


「4,500円になります」


「……」


 いや高っ⁉︎ そりゃあれだけの量あればそうかもしれないけど。普通のパフェが千円台ならその四倍くらいの大きさだし妥当か。いや、なんというかただただ恐ろしい。


「誘ったのあたしだし払うから」


「いやいや、さすがにそれはないって。俺が出すから」


 くっそ、さっき買ったせいで全額出せねえ。


「……無理しないで。割り勘で良いから」


「あ、うん……」


 店を出ると改めて胃が重く感じる。


「ありがと」


「へ? いや別に良いけど」


「そうじゃなくて。あんたにもそういう気概があるんだなって」


 もしかして褒められているのかな。


「じゃあまた明日ねー。プレゼントちゃんと忘れずにあげなさいよー」


「あ、ちょ……またな」


 さっくりとその放課後は終わってしまった。


 帰り道に如月にLINKを送る。


『明日放課後時間ある?』


『ある。私も聞きたい事あるから図書館前に』


 即既読付いて返信来たんだけど。早くないか。というか聞きたい事ってなんだ。


『じゃあ明日放課後に図書館前』


『忘れないで』


 いやだから早くないか⁉︎ 送ってから返ってくるまで一分も掛かってないぞ。


 そのまま次の日の放課後。


「遅い」


 図書館前に着くと既に如月がいた。いくらなんでも速すぎる。確かにプレゼントの準備とかしてたから遅くなったけど。


「ごめんごめん」


「昨日の朝、夢咲と盛り上がってたよね。どこか行ってた? 放課後付き合ってくれとか言ってたし」


「あ、聞こえてたんだ」


「そりゃあれだけ大声を出していたら。東雲と一緒に見てた」


 あいつも見てたのかよ。


「で、どんな感じだった?」


 なんか尋問されている感じに思えるのは俺だけなのだろうか。


「え? まあ買い物行ってパフェ食べてきた」


「それってもう放課後デートだね」


「うぇ?」


 まさか如月からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。


「良いのかな。彼氏いる人にそんな事して」


「いや、ちょっと待ってくれよ。買い物はともかく後の事はあいつにもちゃんと言ったよ⁉︎」


「へぇ」


「えっと……怒ってる?」


「どういう意味?」


「いや、何か恐いんだけど」


「いつも通りだけど」


 確かにいつも通り抑揚のない平坦な声だがそれが一層怒っているように感じる。


「……もしかして嫉妬してる?」


「……?」


 流石にそれはないよな。ない。思い上がりすぎだ。


「単に、彼氏がいる人に話しかけるの多いなって思っただけ。あんまり良くないと思ったから」


 と言われてもそんな事言い出したら俺が仲良くしてる人殆どが彼氏彼女持ちなんですけど⁉︎ 女子には話しかけらないじゃないですか!


「え、えっとじゃあ彼氏いない如月には話しかけていいんだ」


「そうは言ってない。曲解しないで」


 わっかんねえ。まじで。


 というかプレゼント渡すタイミングないんだけど。どうしよう。早く渡さないとスポーツ大会までもう時間がないぞ。


「とにかく、気をつけてってこと。後ろから刺されるかもしれないから」


「お、おう。気をつける」


 それは確かにありえるかもしれない。


「それじゃ」


 如月は帰ろうとする。


「いや、ちょっと待てって。俺も言いたいことがあるんだけど」


「え?」


「え? じゃねえよ。元々俺が呼び出したんだからな」


「そうだった」


 完全に忘れていやがる。けど、渡すものは渡さないと。


「……これ」


 ずっと握っていた袋を渡す。


「何これ」


「この前のお返し」


「前? ……あれか。別に良いのに」


「良くねえよ。……ほら」


「開けて良いの?」


「良いよ」


「……? ヘアアクセサリー?」


「そうだよ。この為に色々夢咲に聞いてたんだ」


「……ぷっ、ふ……あはっ」


 彼女は少し考えた後、笑い出した。如月ってこんなに笑うことがあるのか。そう思わせるくらいの笑い声だった。


 そしてその後赤面している。何を考えているのだろうか。


「ごめん、何か」


「へ?」


「……気にしないで。ありがとう」


「付けるの面倒くさいって言ってたみたいだけど流石に動く時に付けないと鬱陶しいだろ。バスケの時に使ってほしい」


「それはあるけど。買うつもりはなかったから。……そっか。ところでこっちは?」


「ヘアバンド」


「あーおでこを出すのはちょっと……」


「やっぱりそうか……でも多分大丈夫。如月なら」


「何を根拠にそう言ってるの」


「か、か、可愛いから!」


「……。はあ……」


 彼女はなんとヘアバンドを付けた。


「……どう」


 それは正しく美少女というのに相応しい輪郭と額。黄金のような輝き。素材が良すぎる。


「めっちゃ……良い」


「じゃあやめる」


「え、ええ……」


「やっぱり人に見せるのは嫌。こっち使う」


 リボンの方を見せてきた。


「……こんな感じ?」


 ごく自然な流れでポニーテールを見せてくれる。可愛いが過ぎる。普段見えないうなじがよく見える。


「そういう感じ!」


 ここで可愛いとか言うとやめそうな気がするので曖昧な返事にする。


「ん、じゃあこれでスポーツ大会出る。ありがとう」


「おう」


「じゃあ今日はこれで」


 結局リボンは外され、元の如月に戻ってしまった。


「ああ、じゃあな」


 でも目的は果たせた。彼女が何を考えているか全然分からないけどこれで良いはずだ。


 そして時は流れ、スポーツ大会当日が訪れる。

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