第5話 いざ東京!

 人生で二度目となる東京に着いた。初めての東京は中学校の修学旅行で、俺が住む地方では割と東京観光がメジャーだったりする。


 東京の観光スポットの中で特にホットで有名なのはスカイツリーだ。当然予定に組み込まれていたのだが、副担任が東京と言えば東京タワーです! 生徒達に是非見せるべきです! と主張し始め東京タワーの素晴らしさを熱く語り出し、その熱意が他の先生にも伝播しちゃってスカイツリーから東京タワーへと変更になった。


 ふざけんな副担! って思ったけど、東京タワーさん、すごく素敵な体験ありがとうございました。


 てなわけで新幹線を降りた俺は目的の駅まで行かねばならないのだが、扇木さんから貰ったメモを片手に今構内看板とにらめっこしている。


 JR? メトロ? 私鉄? 何なん? 訳がわかりません。目的地の駅に辿り着くにはもうしばらく後になるだろうと確信した。



 そして……


 やっと目的に着いた。東京に限らず初めての場所は地理や地名がわからない人にとって目的地へ辿り着くには非常に難しいと改めて感じた。日本人じゃない観光できた外国の人達はもっと大変だろう。


 だがしかぁし! 俺は辿り着いた! メモを頼りに進み、迷子になりながらも目的のマンションに辿り着いたのだ。達成感が焦っていた心を溶かし安堵の心が生まれる。


 ゴールであるマンションを見上げ俺には過ぎた建物だなぁって改めて思う。周りの建物より頭ひとつ飛び出したマンションの最上階がこれから向かう先となる。


 マンションに入るための鍵はすでに貰っている。ここでビビってても仕方がない。さぁ新しい住処へ行こうか!


 俺は些か気負ってマンションに踏み込んだ。



「おっ、やっと着たか少年、じゃなくて颯紀くん」


 エレベーターに乗って最上階についた俺は玄関ドアを開けて入ったタイミングで声をかけられた。


「お上りさんの俺にとっては早いほうだと思いますけどね。まぁ俺より遅く出発した扇木さんが先にいるのは面白くないけど」


 声の主は扇木さんだ。目を向けるといつも見慣れた白衣姿ではなくビジネススーツを着こなしたキャリアウーマンっぽい姿で出迎えてくれた。


 胸もとから押し出された双丘が大胆に主張し、膝上のタイトスカートから覗く美脚が男心を刺激する。


 キャリアウーマンじゃないなこれは。夜のお姉さんだな。


「私もさっき着いたばかりなのよ。ほら見てこの格好、対外用バージョンなのがその証拠よ」


 扇木さんが身体を揺すってアピールする度にボヨンボヨン揺れるそれに顔が赤くなる。


「扇木さんわかりましたから、とりあえず着替えしましょうか。俺、目のやり場に困ってます」


 そぉなの? じゃぁとりあえず着替えてくるわ。とか言って奥の部屋に引っ込んでいった。


 去り際にニヤリとした顔を向けたのがムカつく! 男なんだからしょうがないじゃんか!


 俺はリビングルームのソファに座り、扇木さんを待っているといつもの白衣姿で姿をあらわし、俺と対面するようにソファに座った。


「はぁー、やっぱり白衣は落ち着くー。シャワーも浴びたいところだけど時間かかっちゃうし、颯紀くんも着たことだから先に打ち合わせしちゃおっか」


「はい、そのほうが俺もいいです。今日寝るところすらわかってませんし」


 あはは、そうだよねぇ。あなたの部屋はあそこよ。と言って指をさす扇木さん。


 そうなのだ。今日このマンションの最上階に来いとしか言われてない俺はこの先のことは全くといっていいほど知らない。おそらく情報を意図的に封鎖している。


 まぁ理由はしらんけど。


「まぁまぁ、そんなに怖い顔しないの。これから一緒に共同生活をするんだから楽しくいきましょ!」


「こっちに来る前に一緒に住むことは聞きましたが、あれ冗談じゃなかったんですね」


 この間このマンションに行くためにのメモを渡しに来た扇木さんが私も一緒に住むからよろしく。ってさらっと言っていたのだ。


「冗談って失礼だなー、君のバックアップ兼保護者だから当然でしょ。それにあなたの叔父さんの了承も得ているのよ」


 えっ? それ初耳なんだけど。


「後見人の叔父さんにも君のことは頼まれているから安心して素敵なお仕事、じゃなくて高校生活がんばろうね!」


 なんと言って良いかわからず口をパクパクして金魚になる俺。叔父さんが後見人ってことを一度も話していないのになぜ知ってるんだ? この人は。


「ムフフ~、君のことは何でも知ってるのよ~」


 ニヒルに笑う扇木さん。


 怖い! 怖すぎる! 扇木さんの所属している会社は小さいのだか、母体である親会社は誰もが知るメガカンパニー。


 俺ごときの個人情報なんて保護されていようが関係なく収集できるってことか。そもそもこんなふざけたバイトに高額なお金を出せる時点で常識が通用する会社、もとい業界ではないと改めて感じ畏怖する。


「それじゃぁ今後についてまずは大まかに説明するわ。君が入学する日は夏休み明け初日ね。入学までの任務、じゃなくて仕事内容は研修期間時に教えたことの復習がメインとなるけど追加でしなければならないことがあるわ。このミッション、じゃなくて仕事をする上で必須である女の子化を本格的にしなければならないのはわかっているわね?」


「俺は変態になる覚悟を決めたんです。とことんやってやりますよ」


 本当は研修期間中に何度も逃げ出そうと考え、実行しようとした。


 しかし、その度に何故か扇木さんに気づかれ、時に弟妹を差し向け、時に金にものをいわせ、そして単純に脅されたりして都度阻止されていた。


 今はもう抜け出すことが出来ないくらいこの仕事に深く関わっちゃったし、何より金の心配がなくなったメリットが大きい。気づいたときにはすでに遅し。


 何をするにもどうせ最後は扇木さんの手のひらの上で踊ることになるんだから、やるべきことをしっかりやって追加報酬をもらうと決めたのだ。


 それが変態を極めるとしても、だ!


「おおー、勇ましいねぇ。商品を提供している私たちも嬉しいよ。そんなやる気の颯紀モルモットくんにはこのサプリを提供しよう」


 白衣のポケットから無造作に小瓶を取り出しテーブルに置く。俺は小瓶を手に取り目の高さまで持ち上げ胡乱な目つきで中身を見る。


「扇木さん、今度はどんな症状がでるんですか? 今飲んでるサプリは女性のような丸みを帯びた身体にするんでしたよね? これも毎日飲むんですか?」


 アルバイトを始めてすぐに飲むように言われたサプリはなんちゃって女体にするものだった。飲み続けた俺の身体は飲み始める前と比べると丸みを帯びた女性風になっているらしい。らしいと表現するのは少しづつ変化していく機微的なことに全くといっていいほど気づかないのが俺だからだ。


「その通り! 今服用していることで君の身体は胸以外はかなり女の子に近づいてきてるわ。今回のクスリ、じゃなくてサプリは声帯を男の子から女の子へと変えるものなのよ。一緒に飲んでも問題ないわ」


「この身体もそうですけど声帯もちゃんと元に戻るんでしょうね?」


「そ、それはもちろん戻るわよ」


 おい、どこ向いて言ってんの? ちゃんとこっち向け、こらっ!


「ま、まぁ大丈夫だから、多分。それより話を進めるわよ」


 ちっ、露骨に話題を変えやがった。戻んなかったらタダでは済まさないからな!


 睨みつけてみたけどまったく気にした様子もなく話を続ける扇木さん。


「次は身体の話が上がったからその話をしましょうか。この最上階のフロアには私たちの他に複数のスタッ―――」


 そうして俺と扇木さんは結構な時間を使って今後について語りあうのだった。




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読んでいただき感謝いたします。

最上階貸し切りって、どんな会社だよ!

次話も読んでもらえたら嬉しいです^ ^

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