第6話 ウェルカム淑女!

 次の日から俺は女になりきるための最終仕上げが始まった。


 まずはじめに指摘されたのが一人称の俺呼び。女の子が俺なんて言わないのだからこの指摘は、まぁしょうがない。


 慣れ親しんだ一人称を俺は私とすることにした。


 歩き方や姿勢の確認も厳しくなって、どんどん男らしさを奪われていく日々。


 さようなら男魂、ようそこそ淑女。


 起きてる間は扇木さんを総監督として洗脳じみた鬼教育が担当者によって実施されたことで、本当の私は女の子なんじゃないかと真剣に考え、股間を見ては落ち着き、鏡を見て不安になり、扇木さんを見て無感情になる日々を繰り返し怒涛の勢いで残り日数を消費していった。



 そして入学三日前となった日、私は全身が映るほどの大きな鏡の前にいる。


「うん、予想以上の出来上がりだわ! 中身が男だなんて言っても絶対に信じてくれないクオリティだわ」


 扇木さんが俺の肩をぽんぽんと叩いて褒めてくれる。


「しかもそこらへんの女子よりレベル高いわよ。綺麗な黒髪とバランスが取れたバスト、スカートから覗く生足が魅惑的だわ!」


 俺は扇木さんに笑顔を向けて感謝の気持を伝える。


「ありがとうございます。扇木さん達のおかげです」


「うんうん、そうだろうそうだろう。私たちのチームは妥協しない変人共の集まりだからね。その集大成とも言える君を見てると……今までの努力が報われるよ、ぐずん」


 しくしくと泣き真似をする扇木さん。俺はもう一度ありがとうございます。って言って抱きつく。


 この光景を第三者が見たら仲の良い女子が抱き合っている姿はさぞ美しく見えるだろう。しかし実際片方は女装しているだけの変態だ。


 しかも口では感謝を述べ抱き合うという喜びの表現をしている裏で、脳内では罵詈雑言の嵐。よく見ると目の奥が死んでいるのがわかる。


 言わずもがな彼女はまだ彼である。


「さてと、おふざけはこの辺にして胸の具合はどう?」


 抱き合っていた扇木さんが離れすぐに問うてきた。私は胸の側面に触れたり身体を捻ったりして確認する。


「……特に問題ないと思います。扇木さんから見て不自然じゃありませんか?」


「んー、今の制服姿では特に違和感はないわね。……ちょっと制服脱いで確認してみようか」


 はい。って言って俺は着ている制服を脱ぎだす。……わかってると思うけど変態的思考で脱いでいるわけではない。


 下着姿になった私を扇木さんが真剣な目つきで見る。


 ちなみに女性用の下着を着用している変態さんです、はい。


「肌との継ぎ目も問題ないわね。下腹部は……若干盛り上がっているけど許容範囲内ね。あとは……どうしても隠せないウィークポイントは傷跡としてのカモフラージュも……出来てるわね。うん、大丈夫でしょ」


 俺の周りをくるくる回って確認してた扇木さんからお墨付きを貰った。


 男の俺ではどうしても真似ができない胸とお股をクリアするため扇木さんの会社が総力を上げて女性スーツとでも言うべきものを開発した。いや、開発してあったものを俺専用に改造した。だな。


 サーファーが着るウェットスーツを連想してもらうとわかりやすいかもしれない。上半身と下半身を分けた肌色のウェットスーツは肌との境目がわからない仕様になっているだけではなく、胸周りも理想型を象っており、触れると本当の肌のような反発が返ってくる。


 下半身は尿意など生理現象を処理できる作りとなっている優れもの。男の大事なものをやさしく、そして限りなく圧縮してその存在を隠す。


 どちらも装着した感想は"動いても痛くならず問題ない"だ。この感じだと長時間身につけても問題なさそうだ。


「一応身体の方はどうです? あと声も。自分じゃわかりずらいので」


「……可もなく不可もなくね。身体はもう女の子って感じだし声も女の子の領域よ」


「それじゃあ、最終チェックは……」


「もちろん合格よ!」


 やった……やったよ。日を追うごとに変なサプリが新たに追加され、わけもわからず飲み続け、男言葉も封印され、そして女性の仕草をしなければ容赦ない言葉が飛んだ苦難の日々が今……報われた。


「ねぇ、非常に喜んでいるのはわかるけど、本番はこれからだからね」


 あぁ、それくらいわかっているさ扇木さん。でもさ、今だけはこの感情を許してくれよ。性別を偽ることがどれだけ難しく、困難続きだったか一番近くで見てたあんたならわかるよな。


 失われていく男魂に不安になり、代わりに植え付けられて増加した淑女の心に変なスイッチが入りかけて焦ったり、挙句にそんな心情を気遣うどころか嘲笑う扇木さんに涙したりしながら、なんとか及第点を勝ち取ったのだ。


 現状変態さんに変わりはないのだけど、そこは今は大事じゃない。


 しかし、扇木さんの次の言葉を聞いて感情が吹き飛んだ。


「じゃあ、明日はその姿でお出かけね」


 な、なんですとぉぉおおぉぉぉ。  


 こうして俺は女としての生活を始めるのだった。



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読んでいただきありがとうございます。

郷に入っては郷に従えといえ怖いですねぇ。

次話からやっと高校生デビューです!

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