第2話 こうも不幸は続くのか
俺はこの先どうすればいいのか。
母親ひとりで俺たちを養い始めたのは昨年親父が死んでからだ。飲酒運転した挙句に事故死しやがった親父のおかげで生命保険の金額がかなり減額された。貰える物も貰えず、大黒柱がいなくなった我が家は貧乏生活を余儀なくされた。
当時中学三年だった俺は新聞配達や牛乳配達をして小銭を稼いで家計を助けた。生活は苦しいがなんとか生きていく事ができた。
でも、しばらくして母親が倒れた。原因は単純に過労。そのまま入院を余儀なくされ生活資金がままならなくなった。
俺は学校に行くのをやめ、年を偽り夜の仕事を始めた。もちろん年を誤魔化して仕事をするのに罪悪感はあった。けど生きるためには金が必要だ。母親が退院するまでの辛抱と心に誓って仕事を頑張った。
しかし、不幸はこうも重なるのか。過労で入院していた母親に悪性の癌が見つかり、余命三ヶ月と医者に余命宣告された。延命することも出来るが大金がかかる。と言われた。延命できるのならと迷わず延命手術をお願いした。
お金を工面するため母方の親族に結果がわかりきっているけどお願いに言った。予想通りの拒否返答。父方の親族にもお願いしたけど同じ返答だった。
当然の結果だ。
うちの母親と父親は若い頃に家出して駆け落ち結婚していたらしく、実の両親を含む親族と長い間疎遠関係だった。俺が生まれたのをきっかけでお互いの実家に顔を出したらしいけど、そこでも一悶着あったらしく、未だにギクシャクした関係が続いている。
唯一俺たちに優しくしてくれた母方の叔父も今回ばかりはどうしようもないと逆に謝られたくらいだ。
それでも諦めず必死になって金を工面している姿に同情したのか担当医がお金を貸してくれた。こんな医者もいるのかと内心呆れたが俺はその同情を受け取った。
……そして母親の葬儀が昨日終わった。
小さい弟妹は薄っぺらい布団でスヤスヤと寝ている。ぽろりと一雫の涙が頬を伝う。
弟妹の前では泣く事は出来ない。俺が泣いたら弟妹が不安になる。
一雫とはいえ流れた涙に動揺する。こんな気持ちじゃ明日を乗り切れない。
腕でゴシゴシと強く頬を拭うが、我慢の限界だったのだろう。流れた涙は拭っても拭ってもとめどなく溢れる。俺は静かに咽び泣いた。
どれくらい泣いたかわからないが、ひとしきり泣いて感情を表に出したのが良かったのか、心なしか活力が戻ってきた。
「睦月、文月。兄ちゃん頑張るからな」
俺がお前たちをちゃんと大人にしてやるから安心しろ。
寝ている弟妹にそっと声をかけ、起こさないように夜の仕事に行く準備を始めた。
※※※
母親が死んでひと月が経過した。がむしゃらに働いた成果を見て絶望する。年を誤魔化しても10代の俺に高額で雇う雇用主がいるはずもなく途方に暮れる。
このままでは母親が必死に残してくれた雀の涙ほどの貯金を切り崩しても良くて三ヶ月くらいしか生活できない。もっと仕事を増やしたいが日中はまだ幼い弟妹の世話でフルに働けない。
夜の仕事を変えるか? ……いや、そう簡単に次の仕事が見つかると思えない。もっと闇に潜って犯罪紛いの仕事するか? いやいや、一度足を踏み込んだらもう抜け出せないし、弟妹達に誇れる自分でありたい。
じゃあどうする? 俺たちみんなで死ぬ? それこそ馬鹿たれ思考だ。あの時誓ったじゃないか、俺の手で弟妹を大人にするって。
でも現実問題、数ヶ月後には生活が破綻する。やっぱり仕事を変えるしか……でも……。
ぐるぐると答えがでない袋小路の思考に入ってしまった俺は、ふとテーブルの上にあったチラシが目についた。眼の前に置いてあるものすら気づかないくらい憔悴感に駆られている自分に情けなくて、はははと乾いた笑いが口から小さく漏れる。
チラシを手に取ってしげしげと眺める。上手く描けてるこれは睦月作か。俺と睦月と文月、母親とそれに……親父もいるな。笑顔がとっても素敵な絵だと起きたら褒めてあげないと。黒一色の絵を見て微笑む。
金がない俺たちの家ではポスティングされるチラシの裏はお絵描き帳だ。睦月は絵が得意なのかもしれないと身内贔屓な考えをめぐらせながらチラシをくるりと反転させ、何気なく表面を見る。町内会独自の求人広告のチラシだった。
仕事を変えることも考えていただけに内容を見始めた俺はひとつの広告に目が留まった。
『長期アルバイト募集! ちょっとそこの十代のあなた! 可能性が無限大な仕事にチャレンジしてみませんか? 能力によってはか・な・り稼げます。まずは電話ください。 ◯◯◯✕△△△△✕□□□□ 担当:扇木』
……なにこの怪しさMAXの求人。担当者アホなの? こんな内容じゃ怖くて誰も相手にしないでしょ!
でも…………かなり稼げるってどれくらいだろ? さすがに未成年に無茶な仕事はさせるか? させない、よね?
…………
……電話だけしてみようかな。
俺はこの時かなり精神的に追い詰められていたのだろう。普段の思考なら絶対に下さない判断をしてしまった。この判断が俺の、いや、俺たちの運命を大きく変ることになったターニングポイントであると知るのはもう少し後のことだった。
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二話目も読んでいただき感謝いたします。
悲しい回です。
次話も読んでもらえたら嬉しいです^ ^
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