狐と狸の夏休み

海湖水

狐と狸の帰省話

 「山と川、どっちに行くんだ?」


 狸は狐にそう尋ねた。狐はその言葉を聞いた後、ゆっくりと閉じていた目を開く。


 「山かなぁ。まあ、実家の方に川もあるから、どっちも行くかもしれんが」

 「俺もだよ。お母さんへのお土産も考えないとな……」

 「確かにな……。お前の家のお母さんは何が欲しいとか言っていたのか?」

 「いや、別に……。けど、どうせなら珍しいものを持って帰りたいよな」

 

 狸はそう言いながら財布を取り出した。中には数枚のおさつと、ばらけた硬貨が入っている。狸は、財布の中のおさつを数えると溜息をついた。


 「あんまり残ってないよ……。どんなものが買えるだろう?」

 「まあ、食べ物で良いんじゃないか?まあ、最悪の場合は幻術で……」

 「おい!!バレたら捕まっちゃうじゃないか!!」

 「フフフ、冗談だよ。まあ、足りないなら貸してやるよ。ちょっと前におごってもらったこともあるしな」

 「ありがとう。どうせなら、二人で明日、お土産を買いに行かないか?」


 狐と狸は同じ家に住んでいる、古くからの友人同士だ。二人とも、幻術を使用して人間の世界で暮らしていた。つい最近はこのような動物も増えてきていると狸は聞いていた。今のところは人間にはバレていないが、このまま増え続けると、いつバレてしまうかわからない。

 人間の世界での生活は、不便に思うこともあるが、快適なものも多い。一番はクーラーである。つい最近の夏は、狸や狐といった野生動物でも暑いと感じることが多く、クーラーはとても役立っていた。


 「それじゃあ、おやすみ。明日からもよろしく」

 「うん、じゃあ。また明日」

 

 狐が部屋から出ていくのを見て、狸は電気を消すと、ベッドに入って目を閉じた。



 「じゃあ、行こうか」


 狐のその言葉で、狸と狐は家からの一歩を踏み出した。

 鏡の前で見た幻術は完璧。どこからどう見ても「人間」だ。目にすごいがあること以外。それに対して、狐はどこから見ても、すばらしい美女にしか見えない。やはり、幻術での才能は狐の方が一歩上のように感じた。


 「確かにうまく化けれてるけどさぁ……」

 「なに?どうかしたの?」

 「いや、口調もそうだけど、なんか調子が狂うんだよね。化けてる本人が男ってことを知ってるからかもしれないけど……」

 「へえ、そうなの?私はこの姿が一番得意なんだけどなぁ……」

 「いや、その、ねぇ……」


 周りの人たちからの視線がすごい。狐に浴びせられる視線たちは、まるで槍のように狐に突き刺さっていた。狐は鈍感だからか気づいていないのかもしれないが、狸はちゃんと気づいていた。

 

 「ねえ、俺って今、すごい周りの人から色々思われてると思うんだけど……」

 「へぇ、私はそんなことないと思いますけど」

 「いや、『なんであんな美人が雑種犬を連れてるんだ?』とか思われてるって」

 「いや、狸さんは犬じゃなくて狸でしょ」

 「ねえ、『さん』ってつけるのやめてくれない?なんか恥ずかしいんだけ」

 「あら、着きましたよ」


 俺の意見は完全に無視かよ……。そんなことを思いながら、狸が前を向くと、目の前には大きなショッピングモールがずっしりと建っていた。


 「さあ、狸さん!!はやく行きましょう!!」

 「ねえ、『さん』って付けるのやめてくれない⁉」


 ショッピングモールの中は冷房によって、冷気をため込んでいた。今まで暑い中、ここまで歩いてきただけに、この涼しさは凶悪だった。


 「ああーーーーー!!すごい涼しいーー!!」

 「そうですね!!まあ、実家に帰るとこの涼しさとはおさらばなんですけど……」


 二匹はゆっくりといろいろな商品を見ながら、食べ物コーナーへと向かっていた。


 「何を買うつもりなんですか?」

 「まだ決めてないんだよね……。何かいいモノって……」

 「あれ?どうしたんです?」


  狸が見つめる先には小さな扇風機があった。実家は山の中で、クーラーなんかをおいても涼しくはならないが、扇風機なら涼しくなるのではないか。そんな考えが狸の頭を巡った。


 「俺、これ買うよ!!」

 「えっ、そうですか。まあ……いいでしょう」


 狐がそういうと同時に、狸は扇風機をレジまで持っていった。大きいものはさすがに値段的にも大きさ的にも厳しいが、小さいものなら問題はあるまい。


 「あれ?思ってたよりも高いな……」

 「えっ?足りますよね?」

 「いや、まあ、一応足りるけど……」


 お金を支払い、狸は扇風機を、狐は肉を買った。狐が肉を買った理由は、「多分、うちの家族は肉が一番喜ぶから」だそうだ。


 「狸さん、まだ気づきませんか?」

 「えっ、何が?」

 「私たちの実家って、山奥ですよ?」

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