　YukiyamaのSNSを閲覧していると、24時間で消える気軽な投稿である『ストーリー』を投稿していた。連日その内容は個人用LINEのスクショで、友人との通話履歴だった。

『通話たのかったありがとー！！また話そっ』

　そんなコメントと共に、平均して1時間程度の通話をしているストーリーばかり投稿されているので、仁はその内欲が出た。

『由貴さん僕とも電話しませんかー？』

　DMで送った。Lineでなくとも通話はできるし、そんなに分不相応な欲じゃないと思った。

『いいよーてか声聞くん初めてじゃんね』

　二つ返事でOKしてくれた。もはや何を言っても『Yes』を引き出せるところまで来た。

　告白すれば付き合えるのではないかとさえ思った。会った事がなくとも恋人関係になるのは、イマドキ珍しくはないだろう。

　電話をすることになってから、数日経った。そして着信の音がなり、画面にはYukiyamaのトプ画と名前が出ていた。電話にドキドキするのは相手がYukiyamaだからか。あるいは引きこもりだからか。

　意を決して通話を開始した。

「はいですくわー仁くん！　由貴だよ！」

　これは、滑舌が悪いプリッツの挨拶をネタにした彼女のお決まりの挨拶だ。つまり聞き慣れた挨拶だ。

「あ、あぁ、あー仁です」

　吃（ども）った。最近は歌を歌ったり漫画のセリフを朗読するなりして、声の出し方を取り戻したつもりでいた。だが会話をしようとすると、上手くいかないものらしい。

「声思ってたより低い！」

「あ……はぁ……ああありがとうございますはい」

　頭は真っ白だ。

　シミュレーションでは確かに、明るく饒舌に話し込んでいたのに、言葉が宙を舞ってしまった。

「敬語禁止だよーあとコメントみたいに明るくね！」

「あ……あぁ……」

　それから、記憶がない。30分は話してたのに、基本的に受け身で黙りだった。

　断片的に『あんま楽しくない？』とか『今塾終わってもうすぐ家着く感じかなぁ』とか『こちらこそ！』とか、会話をしていたのだろうと予測できる記憶はあるのだが、なんの話しをしていたのか何も覚えていない。

『こちらこそってなんだ？　もしかして告ってOKが……そりゃねぇか』

　どっと疲れたが、不思議と達成感があった。こうして女子との通話童貞を捨て、その日はぐっすり眠れた。

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