第5話 SNS垢が欲しい

 Yukiyamaとの収録の時がやってきた。この日もまた南の島に来ていた二人だったが、この日の仁は前回と異なり、盛り上げるためのチャットトークに熱は入らなかった。

 緊張して、何でもないようなことを散発的に呟くだけだった。


「今日の仁くんはスランプ気味みたいで」


 チクリと刺された気分だった。

 この日の収録も、まだ野良はいない。どうせここもカットだろう。調子が良くならないのなら、もうここで言うしかない。


 仁は意を決してプライベートに踏み込んだ質問をしようとした。

 だが、ひよってしまった。


『今日の朝何食べました?』


「納豆かなぁ。……朝ごはん聞き始めるとか、やっぱり今日はスランプ気味なようで……」


 グダグダと過ごし、時間が流れていく。こんなことだと、結局何も聞けない。焦っていると、チャンスがまた訪れた。


「野良も来ないし今日辞めようか」


 その一言で収録は終わった。ゲームを切られれば何も聞けなくなる。仁は、今度こそ意を決して質問した。


『予定詰まってなかったら少し話しませんか?』


「いいよ。どうしたの?」


 まさかの1言目で承諾され、仁は焦った。


『今日の朝ごはん知りたくて笑笑

 何食べたのか教えてもらってもいいですかっ?』


「いいけど、ふつうだよ? 朝ごはんは納豆だよー。なんなん、その朝ごはんへの執着心」


 呆れたかのように鼻で笑うYukiyamaに対し、仁はしたり顔だった。

 これは仁の思惑通りの展開だった。彼が暇な時間にネットで得た心理テクニックで、人は『Yes』を出してしまうと次もまた『yes』と言いたくなるので、最後はプライベート用SNS垢を聞き出せるという計画だったのだ。


『僕苦手なんで魅力教えてもらっていいですか??』


「納豆の魅力かぁいいよ教えてあげる。1つ目は健康に良いでしょ。2つ目は……有名Youtuberのプリッツさんも好きだから験担ぎ的な? 私プリッツさん好きでさ! グッズもめっちゃ持っててインスタにめっちゃ載せてるんよ!」


『オリキャラのプリ丸かわいいですよね!!グッズ持ってるとか見てみたいなぁ(´-ω-`)ウラヤマ〜

 見てもいいですか??』


「まぁ……仁くんならいっか。良いよ〜」


 仁は勝ち誇った顔で、Yukiyamaのアカウント名を手に入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る