第4話 帝都 中央 “近衛軍団 幕僚会議室”その2


『ちょっと待ってください!私は今来たばかりなんです!情勢を教えて下さい!』


 近衛軍団の作戦会議室で、若い金切声が不意にあがった。

 

 一瞬、部屋は、シンと静まり返り、皆が発言者を見る。

 人の群れがサッと引き、発言者のまわりの空間に、隙間ができる。


 いったい誰なんだ、こいつ?

 

 すかさず、“ボーイソプラノ”の声が、フォローに入る。


「ご紹介が遅れて、申し訳ありません。

 赤毛の大男が、軍団長の“ロン”様です。2個軍団の、総指揮を、とられます。

 金髪の彼が、副将の“ヤスティニアヌス”様です。」


 政治に詳しい美少年の、“スケ”さんが、大きな声を出した新人に、優しく近づく。


「そして、僕が、“スケティオ”です。

 以後、お見知りおきを。

 かつて、ご尊父の“ディクマス”様とは“カピトリ”の別荘で、釣りをする仲でした。

 わたくし供に、ご尊父を探す、お手伝いを、させてください。」

 

 年齢不詳の“美少年”は、包み込むように、新人の手を握り、自己紹介をする。

 新人は、恥ずかしそうに、頬を赤らめた。


「皆さん、この方は、“古き良き”元老院議員の一人ですよ。

 “スー”議員は、共和国時代から続く、由緒ある家系の方です。

 今回、軍団の副将の一人として、元老院から正式に辞令が出ています。」


 “スケ”さんは、仲間たちに、新人を紹介する。


「“スー”様の軍歴は、“ペイルシア”など、東方の属領が、主でした。

 帝国北部の、情勢に疎いのは、仕方ないことです。

 あの有名な、ソクラッス将軍のもとで、大隊長もされていたんですよ。」


 部屋の男達は、声に出さなかったが、微妙な表情だった。

 広い部屋内に様々な思いが、渦巻く。

 

 年齢が、とても若いなぁ。

 知らない名前だ、世襲議員か?

 

 父親は、行方不明になった軍団にいたのか?

 親しい人の行方が、心配なのは、俺たちと同じだな。

 

 元老院は、お目付け役として、この若者を送り込んだのか?

 実際の監督者は、別に居そうだ。誰なのか調べないと。


 大隊長は、若い大貴族が、軍で最初に配置されるポジションだ。

 過去の軍隊経験は、名誉職的な感じだろうか?

 副将の経験は、今回が初めてらしい。大丈夫か?

 

 だが、大勢の男達には、共通する思いが、ひとつだけ、あった。 



 このお客様、俺たちの足を、引っ張りかねん!



「聡明な議員様、今日はお忙しいところ、お越しいただき、ありがとうございます。


 合計6個軍団の新規編成を認める法案が、正式に可決されたのは、昼のことです。

 急な出陣準備で、さぞ、お疲れのことと存じます。


 ささっ、こちらに。」

  

 美少年が勧めた、中央最前列の椅子に、“スー”は、ドカッと座り込む。


 あまり、体力がないのだろうか?



 赤毛で背の高いマッチョ、“ロン”は、気を取り直して、説明を始めた。


「初めての方もいるようですので、簡単に、ご説明します。」

 

「帝国北部の国境地帯は、主に4つに分かれています。」


 




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