第3話 帝都 中央 "近衛軍団 幕僚会議室”

『まさか、"調査部隊”の本隊も、行方不明とはな・・・』



「これで、3個軍団、約1万5千人の兵士が、北部国境で、消息を絶った。」


 会議室内に集められた男たちは、一様に、絶句した。


 調査部隊には、彼らの同僚もいる。

 早馬に、飛び乗っていった彼らを見送ってから、まだ2週間もたっていない。


 皆、ショックを、隠しきれていない様子だ。


「おいおい、お前ら、どうした?

 俺のサプライズ誕生日パーティでは、もっと元気だったろ?」


 赤毛で背の高いマッチョが、静かになった会議室を、盛り上げようと声をだす。

 

「そういえばあの時、一番ふざけて、はしゃいでいたのは“ロン”お前だったなぁ。」


「こんな、ふうに! なぁ? そうだろ、“ロン”?」


 金髪の巻き毛の青年“ヤス”が、酔っぱらっていた時の、赤毛マッチョの真似をして相棒を、からかう。


 “ロン”は笑いながら、太く盛り上がった手を、金髪の美丈夫の肩に、優しく置いて、“宴会芸”を、やめさせた。


 少し笑いが起き、部屋の空気が、緩む。



 俺は、そんな変な姿勢、だったのか?

 

 鍛え方が、足らなかった。

 もっと、“体幹トレーニング”をしなければ。



「“魔の森”の、“怪物”についての、情報は?」


 “ロン”の部下、“フロディ”が尋ねる。


 “怪物”に、1万の軍勢が、食い殺されたという噂が、帝都でひとり歩きしている。

 商人を中心に、皆、その噂で持ちきりだ。

 “魔物の軍勢”が、帝都まで、攻め寄せてくると。


 フロディは、同僚のサムと一緒に、ここに来る前、“大神殿”に立ちより、“魔除け”の加護があるという、お守りを大量に買って来て、仲間に配っていた。


 かなり高値だったが、命には代えられないので、相当な金額を奮発したらしい。

 

 フロディとサムが、二人仲良く、同じような形をした“金の指輪”を、新しく付けているのは、きっと、そのせいだろう。

 


「怪物など、いるものか。怪物のような人間なら、帝都にゴロゴロいるがな。」


 金髪巻き毛の青年は、美しい眉をひそめてみせた。


「俺が直接 “触って” 情報の有無を確認した。

 副司令は、何も知らなかったよ。


 情報が“近衛軍団”には、全く上がってきていない。

 そのことは、間違いない。」

 

 金髪碧眼の美丈夫は、その時のことを思い出したのか、自身の髪を触りだした。



「どこかで、意図的に、情報が隠されているのでしょうか?」


 もう一人の部下、“サム”が、口を挟む。


「わからん。

 誰も正確な情報を持っていないから、追加で俺たちが行って、正確な報告を上げることになった。」



 胸をはだけた年齢不詳の“美少年”が、“恋人”や“愛人”たちに、手紙を書き続けている白い手を止め、ボーイソプラノの声で尋ねた。


「“皇帝陛下”の、ご指示は?」


「ありがとう、“スケティオ”。

 

 まずは、『安否の確認』だ。

 

 どれくらいの兵士が、生きているのか、又は、死んでいるのか。

 はっきりさせる必要が、ある。」


 “ロン”は、政治担当の部下“スケティオ”に、答える。


 こいつ、今、言おうとすることを、先取りして、聞いてくるなぁ。

 ずっと別の“仕事”をしているのに、“話をきいてますよ”アピールが、上手い奴だ。



「次に、『国境周辺の安定』だ。

 

 つまり、周辺の属領の“総督”、地方貴族や領主との連携が、欠かせない。

 彼らを安心させ、必要な協力を得なければ、国境地帯の治安は、保てない。


 同盟部族との協力も、必要になってくる。

 その辺りは、うちの地元だから、もうすでに実家の者に、準備させている。」


「お前いつも、『地元のワルは、だいたい、友達ぃ!』ってイキってるよな。」

「そんなことは、してないぞ? 言ってない、からな?」 

  

 金髪青年の“軽口”に、赤毛マッチョは、太い腕で突っ込みを入れる。


 ここにいる人たちが、勘違いするから、やめてくれないか?



 細マッチョで、細い眼鏡をかけた男が、“算盤そろばん”をはじくのをやめ、静かに質問する。

  

「新たに支給された、現金は?」

 

「一番大事な質問を、ありがとう、“カクストゥス”。

 

 陛下から下賜されたのは、金貨が、約500枚。

 追加される見込みは、ない。


 新規に、2個軍団を編成するには、当然足りないが、問題ない。

 もちろん、不足の金額は、俺と“ヤス”が出す。」

 

 細眼鏡の男は、ひたすら何かを計算し、メモを都度、部下に渡して指示を始めた。 


 “金は、命だ。”


 金がなければ、なにもできない。

 

 今回は、恐らく“防衛戦”になる、可能性が高い。


 自国の領土内で戦うから、“敵”から、領土や財宝を、何も奪えない。


 国家予算に限りがある以上は、自腹を切ってなんとか、するしかない。

 金がなくなる時が、俺たちの命運が尽きるとき、なのだ。

 

 “金は全てに優先する”ことを、金庫番の男“カクストゥス”は一番理解している。



 “ノブレス・オブ・リージュ”って、やつだ。

 俺たち貴族が、普段いい暮らしをしているのは、いざというとき“軍役”を担い、最 前線で、国防に殉ずるため、なのだ。

 

 この部屋に集うメンバーには、『俺たちこそが、帝国の屋台骨だ』、という強い自負があった。



 そのとき、聞き慣れない、大きな金切り声が、会議室の端で上がる。




「ちょっと待ってください!私は今来たばかりなんです!情勢を教えて下さい!」

  

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