第13話

「というわけで、今のアメリアにいくらナックのクズっぷりを説明したところで逆効果だわ。私に考えがあるから、アメリアが来たら私に話を合わせてくれない?」


 なんとか怒れるリナーを宥めて、クズにハマる女性の特徴を説明した。

 するとリナーも思い当たる節があったのか、『だからどれだけあの男はやめろと言っても聞いてくれなかったのね……』と呟いた。


「わかりました! それで、どんな風に話をするつもりですか?」

「それは――」


 肝心な部分を説明しようとしたところで、ドアがノックされアメリアが顔を見せた。

 昨日と同じ時間に来るように呼び出していたんだったわ。思ったより早かったわね。


 んー本当はもうちょっとリナーと打ち合わせしてからアメリアに話したかったけど……まあいいか。なんとかなるでしょう。


「アメリア、よく来たわね。そこに座って?」

「ありがとうございます。それで――彼は、ナックはいかがでしたか?」


 神妙な面持ちで聞いてきたアメリア。

 それに対して、私はにっこりと笑う。


「素晴らしい男性だったわ!」

「!? セレスティーナ様!?」


 私が賛辞する言葉を述べれば、慌ててリナーが止めに入ろうとした。

 あら、やっぱり打ち合わせが必要だったかしら。

 まあ始めてしまったものはしょうがない。このまま続けさせてもらおう。

 リナーには口パクで『私を信じて』と伝え、パチンとウインクをして引き下がらせる。


「本当ですか?」


 アメリアは、予想外のことを言われたからか、かなりびっくりした様子で私に聞き返した。

 ふふ、まあそうなるわよね。

 アメリアだって馬鹿じゃない。自分が軽くみられているかもということは潜在的にわかっているはずだ。

 だからそっちの気持ちを助長させてあげれば良い。


「ええ! だってとてもかっこよかったもの!

 剣の腕はまだまだこれからだったけど、努力している姿勢がとても好感持てたわ。そんな彼にアプローチされているアメリアが羨ましいわ〜。ね、リナー? あなたもそう思うでしょ?」

「えっ……そ、そうですね。アメリアごめんなさい。ナックのこと誤解していたみたい。アメリアが散々『彼は優しい』と言っていた理由がわかったわ。改めて見ると好青年だったもの」


 私がナックを褒めちぎる間も戸惑いを隠せていなかったリナーだったけど、私が問いかけたら腹を括ってくれたのか、見事に同調してくれた。


 まさかあのリナーまでもがナックを褒めると思っていなかったからか、アメリアはぽかんとしている。


 本当は稽古場にいたナックの様子はどう見てもサボっているようにしか見えなかったけどね。完全にナックとは真逆の人物像を言った。

 でも、大事なのはそこじゃない。


「彼ほどイイ男なら、他の女性に見向きする気持ちもわかるわね。それでもアメリアに彼を包み込む愛があるのなら、私はあなた達が付き合うことに反対しないわ」

「そ、そうですか……ありがとうございます……」


 とどめとばかりにアメリアを見て穏やかに微笑めば、アメリアはかなり狼狽えた様子で感謝を述べた。






「本当にあれで良かったんでしょうか……?」


 アメリアが帰った後、リナーが不安そうに聞いてきた。

 あれからもリナーとナックのことをあることないこと褒めちぎり、最終的には『ナックみたいなイイ男他にはいない!』と太鼓判を押してアメリアを応援した。

 アメリアは途中で頭がパンクしたのかフラフラの状態で部屋を出て行ったわね。


「大丈夫よ。数日悩めば、きっと私達が言うほどナックはイイ男じゃないということに思い至るわ。それからはだんだん自分の中でナックを否定する気持ちが膨らんでいくはず」

「な、なるほど……。セレスティーナ様さすがです!」

「もしアメリアが貴女に何か相談してきたら、否定も肯定もせず話を聞いてあげてね。最終的にはアメリアの選択を応援してあげて」

「わかりました!」


 さあ、あとは植えた種がどう育つのか見守るだけね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しがない小国の姫でしたが、恋愛相談を武器に成り上がります 藍原美音 @mion_aihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ