第12話
「セレスティーナ様、あれです! あの男がナックです!」
一人では誰がナックかわからなかったので、リナーに同行してもらい騎士団の練習場に来た。
すると端っこの方で男達がたむろしており、その中心に立っている男をリナーが指差した。
こそこそと物陰に隠れて様子を窺う。
「ナック、そういえばお前、最近また元カノにアプローチし始めたんだって?」
しばらく黙って男達の会話を聞いていると、ついに私達が聞きたかった題材を出してくれた。
ナックがもし改心していて、今度こそ本気でアメリアを好きだと言うのなら話は別なのだけど――。
「ああ、あの女、まだ俺に気があるみたいなんだよ。つまんない女だが、暇潰しにはなるからなぁ」
まあ、クズ男がそう簡単に改心するわけないわよね。
ナックの発言に周囲の男達がケラケラと笑う。
その光景を見ているだけでも吐き気が込み上げてくる。
「とか言って、失恋を慰めて欲しいだけだろ! この間まで侯爵令嬢に夢中だったもんな
〜! 男爵家の3男であるお前とは身分が違いすぎるっての!」
「うるせえ! クソ……もう少しで手に入るところだったのに……」
「いいじゃねえか。お前にはどれだけ他の女に目移りしようが一途に想ってくれる女がいるんだからよ」
「そうだそうだ。見た目も良い方だし申し分ないじゃないか」
「まあな〜。いい身体もしてるしな」
うわ……絵に描いたような最低な奴等……。
「あいつら……! アメリアをなんだと思って!」
「ストップストップ。今出ていっても状況が悪化するだけだわ。ここは一旦引きましょう」
危なー。
リナーがずっと苛立っているのはわかってたけど、まさか男達の中に飛び込んで行こうとするなんて。
リナーはおとなしい子だと思ってたのに……。
あれかしら? 常日頃、ロイとの関係性で『言いたいことはちゃんと伝えよう』と言い聞かせてきたから、ストレートな性格に変わりつつあるのかな。
それは良いことだけど……時と場合を考える術を身につけさせないといけないわね。
しぶしぶ諦めてくれたリナーを連れて自室に戻る。
リナーを見ると、怒りが収まらないようでわなわなと震えていた。
「やっぱりあの男最低最悪のクズでした! アメリアのこと都合の良い女としか思ってないんです! なんでアメリアはあんな男を好きに……!」
仲の良い友達が軽く見られていることに怒り心頭のようだ。それはそうよね。私だって自分の大切な人がそのような扱いを受けていたら怒り狂うわ。
さて……やはり問題はアメリアにどうやってわからせるかね。
クズに引っかかる女性の特徴は一貫している。
純粋で頑固。相手の男を信じすぎている節がある。
どんなに酷いことをされても、それが男の本性だと思わずに『大丈夫、彼は優しい性格だから。ちゃんと私のことを愛してくれてる。たまに酷いことをするだけで……』などと言い聞かせてしまうのだ。
そしてその思考は外野があれこれ言えば言うほど悪化する。
何故なら、『やっぱりあの人を理解できるのは私しかいない……私が見捨ててしまったら彼が可哀想だわ』ととことん男の味方をしてしまうからだ。
クズに引っかかる女性は天邪鬼なきらいがある。
言われたことを素直に受け取らず、『でも』とひたすら言い訳してしまうのだ。
何を言っても靡かない頑固な性格に、忠告している友人達も『この子には何を言っても無駄だ』とだんだん諦めていき、『もう好きにしろ』と見放してしまう。
それで誰も止める人がいなくなってしまい、余計にクズ男に泥沼化していってしまう――という流れだ。
クズにハマる女性の特徴を知り尽くしていないと、逆効果になるし、状況を悪化させてしまう。
だから、ここは彼女の天邪鬼な性格を逆手に取るのが一番だ。
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