閑話2(テリック視点)
ロイの劇的な変化の理由が気になりすぎた僕は、すぐさま周囲の人間に事情聴取をした。
理由はすぐに判明した。
どうやらロイに恋人ができたらしい。
相手は幼馴染であるリナー・ポイット。
確か皇太子妃の専属メイドだったか……。
皇太子妃とは未だに一度も会話していない。これまでの僕が関わってきた女達はしつこく、強引で、身の程をわきまえない愚かな人間ばかりだったが、皇太子妃は僕が一度も会いに行かなくても何の文句も言っていないらしい。
女に興味のない僕に痺れを切らして父が強引に進めた結婚だったが、かなり満足いっている。
まあ祖国を盾に無理矢理契約結婚させたからな。僕の恨みを買うことなんてまずしないだろう。
そんな大人しい皇太子妃が唯一言ってきた要望が、『リナー・ポイットを専属メイドにしてほしい』だった。
リナー・ポイットは確か母――皇后陛下の所属だったメイドだ。
今回皇太子妃を迎えることで新たに人を雇ったが、何人か皇后陛下から人員の派遣もあった。
僕はリナー・ポイットの性格まで把握しきれていないが……従順な皇太子妃が唯一望んだメイドだ。少し気になるな。
まあ今はそんなことよりもロイだ。
あいつは意外にも、プライベートが仕事に影響を及ぼすタイプらしい。
まさか恋愛でああも左右されるとは……。
恋人ができたことでああも仕事ができるようになったのだ、無能になったのも大方リナー・ポイットとうまくいっていなかったからだろう。
……まったく、くだらない。
たかが恋愛ごときで仕事に支障をきたすとは。
僕は今まで一度も恋愛をしたことがないので良さが全くわからない。
女という生き物はなんとも厄介な存在だ。そんなものとよく恋愛など邪魔でしかないことをできるものだ。
はあ……僕のことは置いといても、ロイの仕事ぶりがプライベート――恋愛の進捗で変わるのは厄介だな。
恋人と喧嘩でもすれば、またこの前みたいな無能秘書となり得るわけだ。
しかし上手くいっている場合は以前の3倍は仕事ができる。
やはり手離すには惜しい人材だ……。
どうやったらあの有能っぷりが安定して発揮されるか……。
そんな僕の不安は杞憂とばかりに、ロイの仕事の出来はずっと安定していた。
たまにダークな雰囲気を纏っており怪しい時はあるが、次の日になれば必ずと言っていいほど立ち直っている。
リナー・ポイットが上手く手のひらで転がしてくれているのだろうか?
そんなある日、ロイがいつになく興奮した様子で僕専用の執務室に入ってきた。
昨日は確か一段とダークな雰囲気だったな。以前のように仕事のミスも多かったし、今後しばらく続くものならどうしようかと思っていた。
「殿下! 皇太子妃殿下は本当に素晴らしい女性ですね……!」
開口一番出てきた言葉は、皇太子妃を絶賛するもの。
は……? 何故ここで皇太子妃が出てくる?
いつものようにリナー・ポイットのことで悩んでいたんじゃないのか?
「皇太子妃殿下のおかげで、ちょっと恋人と揉めてもすぐに晴れやかに解決してくれ、以前よりももっと絆が深まります! 私は今とても幸せです!! 殿下からも是非妃殿下によろしくお伝えくださいね……! よし、今日も仕事頑張るぞー! ――ハッ! 何故こんなにもミスが!?」
――なるほど。
どうやら一度、皇太子妃に会ってみる必要がありそうだな。
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