第7話

 それから数日後――朝起きたら、満面の笑みのリナーがベッドの横に立っていた。


「おはようリナー」

「おはようございます! 聞いてください! 昨日ロイに告白されて、晴れて付き合うことになりましたー!!」

「そう……良かったわね……」


 寝起きの頭に、リナーの甲高い声がキーンと響く。

 ああ……本当は一緒になって大喜びしたいけど、身体が言うことを聞かないわ……。


 結局あの後、「お願いですからデートまでの間、一緒に戦略を練ってください……!」とロイに毎夜呼び出され、一緒にデートプランを考える羽目になった。

 そんなの一人で考えればいいのに……。

 なんで私がそこまでしないといけないのかしら……。

 なんて思いながらも、お節介気質のある私。乗りかかった船だということで、最後まで面倒見てあげた。


 おかげで連日寝不足だ。何回か授業中も居眠りしてしまい、先生に注意された。

 昨日はようやくぐっすり眠れると思ったけど、なんだかんだ二人のことが心配で遅くまで眠れなかったのよね……。


「セレスティーナ様、ちゃんと聞いてくださいよ〜! ロイったらすごくお洒落なお店手配してくれて、髪もちゃんとセットしていてかっこよかったし、プレゼントだって私の好みドンピシャで――!」

「はいはい。リナーが嬉しそうで私も嬉しいわ」


 リナーの反応を見るに、告白は大成功だったみたいね。

 貴重な睡眠時間を削ってまでロイに付き合ってあげた甲斐があったわ。


 といっても、最終的にデートコースや告白の仕方を考えたのはロイだ。

 私はただロイに自信を持たせるため、ちょいちょい励ましたりアドバイスしていただけ。

 だってリナーの話を聞いていて、どんなにロイのことが好きかはわかっていた。

 そんな相手からの告白だもの、例えみすぼらしい店だろうが、プレゼントのセンスがなかろうが、喜んで承諾しただろう。


「あっ、それで、ちゃんと誤解も解けました! ロイが気になっていると思っていた女性は、どうやらロイの付き纏いだったみたいです」


 良かった、ちゃんとロイは説明できたみたいね。

 リナーがロイのことを好きだと私から言うわけにはいかなかったから、そこの誤解を解くように、とまでは伝えられなかった。

 まあ告白された時にリナーから質問したんだろうな。

 他に想い人がいると思っていた男性から告白されたらびっくりするものね。


 そういえば、そもそもなんで誤解したかは聞いていなかったわ。

 最初は何か決定的な理由があると思っていたけどそういうわけでもなかったし。


「よく付き纏いが彼の想い人だと勘違いしたわよね」

「あはは……二人を見かけた時は胸が痛くなってしまってすぐにその場を離れていたので、ロイが嫌がっているとは思わなくて……」

「なるほどね」


 さすが8年も両片想いしていただけのことはある。すれ違いが凄まじいわ……。


「でもまさか彼から告白してくるとは思わなかったです。ああ見えて彼、かなりの照れ屋でして」

「ええ? あのキッチリとしている彼が?」

「そうなんですよ。といっても昨日判明したんですけどね。ずっと告白してこなかったのは照れ臭かったからって言ってしました」

「へえ、人は見かけによらないわね」


 勿論ロイが照れ屋なことは十分に理解しているけど、私がロイに入れ知恵したとリナーが知ればよく思わないかもしれないので、徹底的にしらばっくれる。

 ロイにもちゃんと口止めしたしね。


「だから私聞いたんです! 『じゃあなんで突然告白する気になったの?』って。そうしたら、『ある人が勇気をくれた』って言ってました!」


 ロイ……ちゃんと口止めしたのに。

 第三者の介入を仄めかしちゃダメじゃない。

 まあ、誰かと一緒にデートプランを考えたことがバレなきゃまだ大丈夫かしら?


「それが誰かは教えてくれなかったです。ちゃんとお礼がしたかったのに……」


 良かった、とりあえず気分は悪くしてないみたいね。

 リナーは本当に良い子だわ〜。


 するとその時、トントンと部屋のドアがノックされた。

 身支度を手伝ってくれていたリナーが不思議そうに扉に近付く。


 誰だろう? まだ授業までは時間があるし、先生が呼びに来たわけではないはずだけど……。

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