第6話
「最近リナーの様子がおかしかったんです。いつも明るくて可愛らしいのに、最近は暗い表情でため息を吐くことが増えて……」
実際、私がロイと例の女性について調査している間も、リナーはずっと浮かない顔をしていた。
私が話しかけるといつも通り明るく対応してくれるけど、それ以外は心ここに在らずって感じだ。
「理由を聞いてみれば、ある殿方が最近違う女性と親しくしている様を見て、落ち込んでいるのだとか」
「ッ!」
あえて、“ある殿方”と表現をぼかす。
しかしロイは自意識過剰なのか、何かを思いついたような顔をした。
そしてすぐに俯き、頭を抱えてぶつぶつと言い訳しだす。
「違うんだリナー……彼女とは別に親しくなんかない。一方的に話しかけてくるだけで……最初は仕事の話をされるから無視するわけにもいかず……だけど頻繁にボディータッチをしたり密室に連れ込もうとしたりで、私だってすごく困っていて……ハッ、それで最近私に喋りかけてくれなくなったのか……?」
私の存在を忘れているのだろうか。完全にマイワールドに入ってしまっている。
でもそれを聞いて納得したわ。毎回あの女性が話しかけるたび、まともに取り合っていたのは仕事の話もしてくるからだったのね。
嫌なら最初から無視すればいいのに、と思っていたからこれでスッキリした。
そしてその様子だとやっぱりどこかやつれている理由はリナーにあるみたいね。
勘違いしたリナーが傷心でロイを避け始めて、リナー不足になったロイは夜も眠れないほど悩んでいたのだろう。
……あらまあ、なんて可哀想なのかしら。
でもここはあえてもう少し意地悪させてもらいます!
「秘書様? リナーが気にしている殿方が貴方だとは一言も言っていませんよ?」
「……はい!?」
「私はただ、秘書様がリナーの幼馴染だと聞いたので何か知っているかなと思っただけで……」
「なっ……!」
動揺を隠すことができずぷるぷると震えている秘書様。
なんともお可愛いこと。
皇太子の側近ともあろう御方がこんなにわかりやすくていいのだろうか?
まあ、好きな人のことだと冷静さを保っていられないのも無理はないか。
「気になる殿方について、リナーは何か言っていましたか!? 例えば騎士だとか、はたまたどこかの貴族か、もしかして皇太子妃所属の侍従が……? そういえば顔が整っている執事がいたな……まさかそいつのことが……!」
あら、ちょっと意地悪しすぎたかしら。
またもやマイワールドに入ってしまい、しかも暴走気味なご様子。
私は何も言ってないのに、よくそんなに妄想できますわね。
愛の力って面白いわ〜。
「秘書様、落ち着いてください。リナーが気になっている殿方が誰かなんて、関係ありますか?」
「……え?」
「大事なのは貴方の気持ちでしょう? そんなに嫉妬心が芽生えるほどリナーのことを好いているんですよね? ならば何故告白しないのですか?」
「そ、それは……」
リナーは元が恥ずかしがり屋だから、告白するのを強要するのは難しいだろう。
それに今は絶賛勘違い中だし、今回の場合はリナーに好意を持っているくせに長い間煮え切らない態度を取り続け、しまいには頓珍漢な勘違いをさせているロイが悪いと思う。
したがって何か行動を起こすならロイがするべきだ。
ていうか私、はっきりしない男って嫌いなのよね。
「リナーとは幼馴染で、兄弟同然に育ったから……今更改まって告白するのも気恥ずかし――」
「だまらっしゃい!」
「!?」
もじもじと何を言い出すかと思えば、この期に及んで言い訳がましいったらありゃしない。
段々イライラしてきて少し大きい声を出せば、ロイはびくりと肩を上げてそのまま私を凝視した。
ずっとしおらしく振る舞っていたからギャップに驚いたのね。
だってこっちが私の本性だもの。
「貴方がそうやってもじもじしている間にも、リナーはいろんな男性からアプローチを受けるんですよ? 同性の私から見てもリナーは愛らしい子ですわ。うかうかしているとどこの馬の骨ともわからない殿方に掻っ攫われますよ?」
「ぐっ……」
どうやら一瞬でかたがついたみたいだ。
ロイは何も言い返せない。
図星だからだろう。悔しそうに唇を噛んでいる。
そしてしばらく悶々と悩んでいる様子だったけど、ようやく決心がついたのか、やつれていた顔に生気が戻っていた。
「リナーに告白します……」
「そうしてください」
「私以外に気になっている男がいようが関係ない! 小さい頃から彼女を知っているのは私だ! 私は頭も良いし、気遣いもできる、外見だって悪くない! どんな男が相手だろうが必ず勝ってみせる……!」
「その意気です!」
まあ、メラメラと闘争心を燃やしているところ悪いけど、リナーが好きな殿方はロイ、貴方なんだけどね。
とはいえ私からそんなこと言えないので、ここは乗ってあげる。
よし、これでもう心配はいらないわね。
リナーからの報告を楽しみに待っていましょう――。
「ところで告白はどのようにすれば!? 女性が喜びそうなロマンティックなロケーションは何処ですか!? 一緒に薔薇を渡した方が……いや宝石の方がいいですか!? 告白の文言は何が一番ときめきますか!?」
「そんなのご自分で考えてください!! 貴方の想い人でしょう!?」
ロイ……思ったよりもなかなか拗らせていた……。
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