第5話
「見てわかりませんか? 私は忙しいのです。この後もテリック殿下に頼まれた重大な仕事をこなさないといけません。あなたに構っている時間はないのです」
やれやれといったようにげんなりした表情で私を見るロイ。
ははーん、なるほどね。
さてはこの男、私があんたに気があると思っているわね。
さぞかしおモテになるんでしょう。勘違いするのも無理はない。
だけど、ちょっとカチーンと来ちゃったわ。
折角親切心でやってやろうと思ったのに(半分は好奇心だけど)そっちがその態度なら私だって考えがあるわよ。
「そうですか……お忙しいなら仕方ないですね」
しゅんと視線を下げしおらしく呟いた。
それを見てロイは安心したようにホッと息を吐く。
ふふ、安心するのはまだ早いんじゃないかしら?
「友達が困っているので原因が何か秘書様なら知ってるかと思ったのですが、聞くのは諦めます」
「友達……? なんで私があなたの友達について……待てよ。あなた、皇太子妃殿下の所属と言いました?」
先程の表情とは一転、どこか焦ったように聞いてきたロイ。
ふふ、さすが秘書様。頭の回転は遅くないみたいね。
「ええ、そうですけど」
「その友達というのは……同じく皇太子妃殿下のメイドで?」
「ええ」
「な、名前は……!」
「リナーです」
「ッ!!」
リナーの名前を言った瞬間、これでもかと目を見開いたロイ。
そして次に私の両腕をガッシリと掴んできた。
なるほど〜、大体読めたわ。
この問題、案外シンプルだったのね。
リナー、待ってて。すぐに私が解決してみせるわ!
「先程の態度、大変失礼しました。最近しつこく絡んでくる女性がいて辟易していたので、あなたも同じかと思ってつい……」
「ええ、大変傷付きましたわ。ゴミを見るような目で冷たくあしらわれて……」
「ゴ、ゴミ!? そんな、滅相もない。深く反省しています」
「……」
「さ、先程の話の続きを聞きたいのですが……」
「貸し一つですわよ?」
「……はい」
あっという間に立場逆転。
性格は悪くないみたいね。
私の傷ついた演技にコロッと騙されて低姿勢でくるロイにちょっとイタズラ心が芽生えて、強気の態度で対応する。
皇太子の秘書に貸しを作ることができた。
ふふ、かなりの収穫ね。何か困ったことがあればコマ遣いのようにこき使ってやろう。
立場上、廊下に長く留まるわけにはいかなかったので、すぐに人気のない密室へと移動した。
ここは古書室かしら? かなり古い本や資料が本棚に並んでいる。
「そ、それで……リナーが何か言ってましたか?」
室内を見渡して感心していると、ロイが焦れたように聞いてきた。
あら可愛い。一見神経質そうに見えるけど、焦った姿は人間らしくて好感が持てる。
「そう焦らないでください。順を追って話します」
そして私は可愛い人には意地悪をしたくなってしまうなんとも厄介な性格だ。
私には時間がたっぷりあるので、お付き合いくださいね?
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