第4話
リナーから詳しく話を聞けば、想い人――ロイ・マイリドとは幼馴染ということもあり今でも顔を合わせたら立ち止まって話す仲なのだが、最近は忙しそうですれ違いの日々が続いているそうだ。
だから宮殿内では常にロイを探していたら、ある女性とよく一緒にいるところを見かけるようになったらしい。
リナーは勇気がなくて本人に直接確かめるのは無理だそう。
――というわけで、わたくしセレスティーナ、調査を始めたいと思います。
皇太子妃教育が終わった後、早速行動を開始する。
リナーに頼んでメイド服を一着貸してもらった。
これで怪しまれず宮殿内を好き勝手歩ける。
それにしても広いな……。図書室と学習室くらいしか行かないから、まだ宮殿内がどんな構造をしているか把握しきれていないのよね。
長い廊下をしばらく歩いていると、部屋の前に護衛が二人立っている部屋を見つけた。
おそらくあそこが皇太子のいる部屋だろう。
一時間ほど待っていると、扉が開き、ロイと思われる青年が出てきた。
心なしか疲れ切った表情だ。そういえばリナーが最近忙しそうって言っていたな。
とりあえずロイの後をつけていく。
すると、すれ違うメイドたちの大半が顔を明るくさせて挨拶していたから、宮殿内で結構人気があることがわかった。
そしてしばらくすると、ある一人の女性がロイに接近してきた。どうやら皇太子所属のメイドのようだ。
ふむ、どうやら彼女が噂の人みたいね。
様子を見守っていると、最初は普通に話していた二人だったけど、段々ロイの表情が険しくなっていき、最後には自分の袖を掴む彼女の手をパシリと振り払い逃げるように去っていった。
ん……?
これってロイ、あの女性のこと好きかしら……?
とても大切な人に対する行動とは思えなかったんだけど……。
いやでも、まだ決断づけるには早いわよね。
リナーだって何か決定的な理由があってそう思ったわけだし……。
というわけで、それから毎日のようにロイの後をつけ回すようになった。
すると、確かに毎日あの女性と接触していた。でもロイから話しかけている様子は全くない。全て女性からだ。
そして最後にはやはり逃げるようにしてその場を去るロイ。
ふむ……もうこれは確定なのでは? リナーの早とちりだったのでは?
そう思うが、万が一のこともある。
やはりここは直接本人に確かめるしかないか……。
「あの、すみません」
「はい?」
相変わらず疲れ切った顔でずんずんと歩くロイを呼び止める。
近くで見るロイの顔はモテそうではあったが、目の下にくっきりとできた隈が気になった。
よく眠れていないのだろうか。
「秘書様にお話があるのですが……」
「はあ。というかあなた、どこの所属ですか? 見ない顔ですが……」
ま、まずい。そこまで考えていなかった。
この人、皇宮内のメイドの顔を全て覚えてるのかしら。
軽く変装しているから私が皇太子妃だとは気付いていないみたいだけど……。
なんとか誤魔化さなくては。
「皇太子妃殿下の所属です。最近新しく雇われまして」
「ああ、なるほど。そういえば最近人を増やしたんでした。早く顔を覚えないといけませんね」
あっぶなー。通じるか内心ビクビクだったけどことなきを得たようだ。
「それで? 皇太子妃殿下のメイドが私に何の用です?」
「ここではちょっと……」
きょろりと周囲を見回して場所を移したいアピールをする。
と、ロイは額の手を当てて「あなたもですか……」と重いため息を吐いた。
はて……? あなたもとは?
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