第2話

「ここがセレスティーナ様のお部屋になります」


 結局テリック皇太子とは一度も言葉を交わさずに、自室に案内された。

 まさか視線が一度も合わないとは思わなかった。

 相当な女嫌いのようね……。

 確かに、私が今まで見たどんな男性よりも容姿が秀でていた。

 プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳。表情はなく冷ややかな印象だったけど、それもまた良しとさぞかしモテたんだろうな。

 人間の執着心って馬鹿にならないし、嫌な思いも沢山してきたのかな……。

 まあ、私には関係ないけど。


 部屋を案内してすぐに退室していった使用人たち。

 ある程度予想はしていたけど、かなり冷たい態度だ。

 いくら皇太子妃とはいっても名ばかりだしね。弱小国から売られるように嫁いできたわけだし、なんなら宮殿勤めの使用人の方が身分が高い可能性もある。

 宮殿勤めとなれば雇用基準は相当高いだろうし、きっと貴族令嬢出身が大多数だろう。


 まあ私は不自由なく生活できれば冷たく接されようが気にしないけど、アンドラでは使用人と友達のように接していたからちょっとは寂しいかな……。






 皇太子妃になってから数日が経った。

 少しの寂しさを抱えつつも日々は目まぐるしく過ぎていく。

 一日のスケジュールは皇太子妃教育が大半を占めていた。

 といってもちゃんと自由時間もある。勉強時間は自習も含めて全て夕方までに終わらせ、それからはベッドに転がりながら恋愛小説を読む。

 現実ではこんなに上手くいかないと思っていても、小説は仮想世界だから楽しめる。私もこんな素敵な恋愛したいって思うけど、さすがにもう無理かなー。

 だって結婚相手はあの冷たい皇太子様だしね。

 不用意に近づいただけで視線で殺されそう。


 でもいくら女が苦手だからっていつかは恋愛するんだろうな~。

 そうしたら私もお役御免? 皇太子妃の座を退いて国に帰れるんだろうか? それとも後宮で隠居生活?


 はあ、それにしても暇だな。

 恋愛小説を読むのは楽しいけど、こうも数日部屋に引きこもっていれば飽きる。

 そもそも人と話すのが好きだし。

 アンドラでは毎週のように友達と会っていた。

 今度お茶会があったら行けるよう皇太子殿下にお願いしようかな?

 ああでも私みたいな弱小国の姫、誰も相手にしてくれないか……。


 とにかく喋り相手が欲しい……。


「セレスティーナ様、お食事をお持ちしました」


 ベッドの上でボケーっとしていると、メイドの声がした。

 私と同い年くらいかな?

 使用人の中でも比較的私に対して態度が柔らかい子だ。

 ……会話はあまりないけど。


「……セレスティーナ様? いかがされましたか?」


 食事をテーブルに並べ終わっても彼女をじっと見ていたら、少し怯えたような目と目が合った。


「あなた、名前は?」

「リナーと申します」

「そう、リナー。ちょっとそこに座ってもらえる?」

「え?」


 私が座っている席のテーブルを挟んで反対側の席を指させば、リナーは戸惑ったような声を上げた。

 

「毎日一人で食事するのに飽き飽きしていたの。皇太子殿下は毎日忙しそうだし……喋り相手が欲しくて……」

「セレスティーナ様……私でよければ喜んで……!」


 そう言ってそそくさと席に着いリナー。

 ふふ、良かった。

 私の予想が当たった。

 私のお世話をしてくれる時、いつも憐みの籠った視線で見つめてくると思っていたのよね。

 ただなかなか話しかけてはくれなかったから痺れを切らして私から話しかけちゃった。


 リナーとは結構趣味が合うようで、恋愛小説が好きらしい。お互いのおすすめの小説について話していればすぐに時間が過ぎた。

 良かった、とりあえずこれで一人は喋り相手ができたかな。

 この調子で皇太子妃生活頑張るか。

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