第3.5話 冒険者とネクロス
─アルカナス王国、人口は約20万人の中堅国家と言ったところか。
魔族領デモミニアに隣接するその国は、魔族と人間を隔てる境界線の国として
多くの冒険者が集まる国であった。
そしてこのハロルドとオスカーもその1人であった。
「先日突如現れた巨大構造物の調査…ね。」
オスカーは不安であった。
冒険者と言うのはその仕事柄、荒事が多い。
しかしその分報酬も弾むので依然として人気の高い役職だ。
かく言うオスカーとその悪友であるハロルドも冒険者の報酬に惹かれてこの業界に入った。
それぞれ、冒険者はランク分けされており、基本的にはそのランクに応じた仕事を自由に選んで請け負うことになる。
だが、低いランクの冒険者は依頼の内容を選ぶことはできない。
規定上は可能なのだが、冒険者として食っていくなら仕事なんぞ選ばず受け持てという暗黙の了解。悪い習慣のようなもの。
彼らも駆け出しの内は色々と嫌な依頼を請負わされたものだ。
しかし、今は違う。
何を隠そうこのオスカーとハロルドはE〜Sの6段階あるうちBランクであり、
これは数ある冒険者の中でも上位30%の実力である。
Bランク冒険者クラスになると依頼の内容もある程度自由に決められる。
なにせ、上位30%ともなると、貴重な戦力である。
特に魔族領と隣接するこの国では魔族の襲撃も多い為、尚更重宝されている。
待遇も、勿論他とは一線を画している。
だが、今回は違った。
冒険者を管理している、冒険者ギルドに緊急の依頼として無理矢理駆り出されたのである。
報酬がいつもより少し高いのでそれ程不満はないが、自分達ほどの冒険者が緊急で調査のためだけに使われるというのが不安だ。
「オスカー、そんな景気の悪い顔するなって、別にその中に入って来いと言うわけでもなく、その付近と建物の外見のみの調査なんだからさ。」
「確かにそうなんだが…」
先日、突如として魔族領との前線にある森林付近に謎の巨大構造物が現れた。
直ちにリスクを考慮して遠隔からの調査が行われたが、何かしらの妨害が入っており、ただ巨大な構造物だと言うことしかわからなかった模様。
しかし一応、国としては魔族が何かしらの方法で作り上げた対王国用の要塞であるという認識だそうだ。
オスカーを不安にさせるにはその情報だけで十分であったが、まだある。
彼は遠隔からの調査を行った人物達と面識がある。
それはAランクの冒険者で構成されたチーム、『守護者の盾』だ。
Aランクに関しては上位10%のみしか居らず比較的上位の冒険者が多いとされるこの国でも数十名しかない。
そんな彼らの実力はかなり高く、そこらの魔族程度の妨害など、大した問題でもなく調査できるのだ。
その中でも『守護者の盾』は対魔族のプロフェッショナルでメンバー全員が魔族の魔法体系や魔法に詳しく対策方法を確立させている。
勿論その中には妨害や創作の魔法も入っている。
そして彼はそんな面々の1人と一度、個人的な依頼を共に遂行したことがある。
間近で見たその実力と魔族への対策は、瞬時で一生届くものでは無いと彼に悟らせたほどだ。
そんな彼らが殆ど情報を得られなかった相手に何ができようか。
結局、不安が解消されないままその付近へと辿り着いてしまった。
「確か、この先に例の建物があるらしいぞ。」
「俺の探知では何も感じないぞ…」
因みにこのパーティーではオスカーがサポート、ハロルドがアタッカーを担っている。
「マジかよ…それはちょっとやべーかもな。」
「ちょっとどころじゃない!俺は探知魔法に関してはAランク匹敵すると言われてるんだぞ!!」
そう、冒険者のランクは色々な実力を総合した結果と今までの実績で振り分けられる。
オスカーの場合、探知系の魔法には才能があるのだが、体力や魔力の量が並の冒険者程度しかない。
「わかってるって…だがあまり取り乱すな、何があるかわからんぞ」
「ほんと、お前ってこういう時程、冷静だよな…──って、居る…な。」
しかし周りには何も見えない、ただ静かな森が続いてるだけである。
「距離は?」
「前方500m、数は1だがかなり速い。」
「魔族か?」
探知魔法をフルに研ぎ澄ませその正体を探る。
「いや、アンデッドだな、アンデッドウルフ。」
「アンデッドウルフか……少し厳しい相手だな。」
─苦笑いのハロルド。
「あぁ、それにここまで速いとは聞いたことがない。もう、来るぞ!」
「そのようだな…」
「打つなら先手必勝よ─!『エンチャント:フレイム』!!」
その言葉と共にハロルドの手に持つ剣は炎を纏う。
「俺もそのつもりさ、『ストレンクスパワー』!!」
──瞬間、ハロルドの肉体が強化される。
これで迎撃の準備は整った、後は敵を待つだけ。
気配が段々と近いてくる。
遂に先程まで姿の見えなかったそのアンデッドはもう、目前に来ていた。
(なにもないですね…)
ネクロスは焦りを感じていた。
敬愛する主人の命に従い外の調査を行う。
これはネクロスにとって最高の事であり、何としてでも成果を出したい所であった。
そしてそれを達成する為、彼は今自ら生み出したアンデッドウルフの視界を介して調査を行っている。
しかし、何か有益な情報があるかと言えば特にない。
言うなればハルモニアの能力でも把握できる様な情報しか提供できないのである。
短期間での情報収集において、常にその前線に立ってきたネクロスとしては自分でしか得られない情報を必ず主人に届けたいのだ。
なのに、何も得られない。
だからこそ焦る、何かないのかと。
しばらくして、ネクロスはアンデッドウルフを森林に向かわせた。
既にハルモニアが報告を始めている。
早く自分も有益な情報を得なければ。
── 一層焦りが増す。
突如、アンデッドウルフは何者かを瞳に捉える。
少し近づけば鮮明に見える、2人の人間の男であった。
刹那、ネクロスは更に近づくように命をだす、現地の人間の実力を測る。
これはかなり有益な情報ではないか。
もっと急ぐ様に命令する。
そして彼らの目前に来た時、
一閃の光がアンデッドウルフの首を穿った──。
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