第2話 認知と異世界


「なん…だと…」

 外に出た。

ただそれだけの筈なのに阿寒が走る。

 何故なら、目の前に広がる世界は俺の知らない場所であった。

 同時に肌で風を感じる、寒さを感じる。


 夢にしては余りにもリアルすぎる感覚。

 前者も驚きだが、後者の方が圧倒的に俺の感情を揺さぶる。

これは夢ではない可能性が大いにある。

 創作物だけの話だと思っていたことが起きた。


ああ──


 俺はエピック・ワールドに全てを捧げてきた。最早現実などどうでもいい。

そう思わせるほどに。

 ただ、これが現実であるかはわからない。

 でも今はただコレが現実であると信じたい。


 もう、何も楽しくない虚しい世界などに戻りたくない。

 俺はこの自分の全てが詰まったこの場所ヴァルハラ城で生きたいのだ。


 空は青く、不快な都会の喧騒も何もない。

 周りにはただ、美しく、芳しく伸びる草がひたすらに広がる草原。

 何があるのか分からない、いつ死ぬかも、そもそも何処なのかも。

 更には、やっぱり夢であるかもしれない。

 

 それでも、俺はこの寒さも風も何もかもが新鮮に感じる。

ありきたりな状況だと言うのに新鮮に感じてしまう。

 俺にワクワクとした感情が駆け巡る。

 景色のせいだろうか、それとも隣にいるティアのおかげか。

 いずれにせよ、俺は今までにない喜びを肌で感じた。


「ティア、一旦戻ろう。」


「えっ?、う…うん!」


 とりあえずは、現状の把握。

 NPCが話し始めるなんて夢でしかありえないと思っていたがここまで来たらもう吹っ切れた。

 全て何でもいい、この幸せが、ワクワクが続くなら。



 急いで玉座の間に戻り、セヴラスに命を出す。


「セヴラス、今この城にいる覇皇六将はおうろくしょうをここに呼べ。」


「畏まりました。」


 冷静に考えれば今までヴァルハラ城があった場所から異世界?に来たわけで、配下がどれだけ残って居るかは分からない。

 そもそもの世界に生命体が他にいるかも不明だが、こちらも戦力が多いに越したことはないのでそちらが先だ。

 そして、戦力と言う意味で俺の配下で最高クラスの力を持つ覇皇六将が無事ならば取り敢えず安心だ。

 …因みに配下が俺に逆らうことはないと踏んでいる。

 理由は単純で今、隣にいるティアが俺に従っているから。

 彼女が俺に従っている限りどれだけ配下が束になろうと勝つことはできない。

 まぁ毛頭、配下達が逆らうことは考えられない。

 俺は数々の苦難を共に乗り越えた彼らに絶対の信頼を置いているからだ。


「アムラ様、覇皇六将の方々がいらっしゃいました。」


 セヴラスが玉座の間の扉を開け、そう伝える。


「入室を許可する。」


 随分上からな返しだが絶対者ってこんな感じだと思う。

 そう、俺は絶対者に憧れてエピック・ワールドを始めたのだから。


「「失礼致します!」」


 6人が声を揃え深く頭を下げる。

 そして、俺の前まで歩き、跪く。


 やはり忠誠心に問題はないだろう。


「面をあげよ。」


「「はっ!」」


 そう言って6人が顔を上げる。


「覇皇六将全員、陛下の前に!」


 6人の内の1人が代表して話しかける。

 彼女は覇皇六将のリーダー[永劫無極]の異名を持つ空間と時間を統べる神、テンペスタである。

 容姿はバランスの良い凹凸のスラっとしたシルエット、腰まで伸びた大和撫子を思わせる美しい髪、キリッとした切れ目の女性でシスター服に身を包んでいる。


「あぁ、ご苦労であった。」


「…滅相も…御座いません…陛下の…ご命令で…あれば…いつでも…」


 少し辿々しい喋り方で話すのは、[星元統主]の異名を持つ星と元素を統べる神、ステラ。

 小学校高学年位の身長に、無造作に伸びた真っ白い髪と眠たげな目をしているその少女は魔法学園みたいなものを連想させる黒と赤を基調とした制服に身を包んでいる。


「いやいや、これ程までに早く集まってくれたのだ。労いの言葉くらい送らせてくれ。」


「ありがとうございます、陛下の慈悲深さには感服でございます…」


 優しく丁寧な口調で話す彼は[生死共操]の異名を持つ生と死を司る神、ネクロス。

 ボロボロな黒と金のローブを纏っており、肩の辺りから大量の骸骨の顔が生えている。

 ローブに付いてるフードによって顔は見えない(そもそも作ってないのだが)が目の当たりから金と白銀の光がオッドアイのように揺らめいている。


「何もそこまで言うほどでもないさ。」


「いえいえ、尊き陛下の元へ迅速に向かうのは配下d──」


 長くなりそうなので止めるようネクロムを静止させる。


「これは…申し訳ありませんでした。」


 気にするな、と首を振り本題を話そうとした時

 先に1人が口を開いた。


「それでぇ〜陛下はぁ〜何のご用件でぇ〜お呼びになったのですかぁ〜」


 間延びする様な喋り方をするのは[生息樹主]の異名を持つ自然と生命を司る神、ハルモニアだ。

 よくあるエルフの様な長い耳に全体的にスラッとしているが少し胸が大きい。それでも、テンペスタ程ではないが。

 おっとりとした垂れ目とふわっとウェーブのかかった金髪だがティアの様なクリーム色の様な金髪ではなく、しっかりとしたものである。

 服装は緑を基調とした少し民族的なものを纏っている。


「お前らなら薄々気づいてるかも知れないが、ヴァルハラ城がどこか分からない

 場所に転移している。

 それらに関しての情報共有を目的としてお前達を呼んだ。」


 ぶっちゃけ転移云々よりも配下がどれだけ残っているのかを確認したいだけなのだが、それじゃあ格好がつかないのでそれっぽく話した。


「生憎、俺には探知系の魔法やスキルがないのでな、今の我々の状況を細かく教えて欲しい。」


「えぇ、えぇ、その様なご用件でしたら私にお任せ下さいな。」


 上品な口調で話すのは[情命主宰]の異名を持つ、支配と感情を司る神、キリアルヒアである。

 豊満な身体に美しい金髪を縦ロールにした、つり目気味の女性。

 服装もボリュームのある赤紫色のドレスを着ておりお嬢様感がかなりある。


「あぁ、確かにお前の持つスキルはそれに適しているな。では、報告を頼もうか。」


「ソノマエニ」「少しよろしいですか?」


 潰れた様な男性と透き通る様な女性の声が交互に聞こえる。

 その二つの声の主は最後の覇皇六将、[創破無為]の異名をもつ破壊と創造を司る神、クレアトゥスだ。

 腕の一つは白くてな小さな女性のもの、一つは瓦礫の様なものがかろうじて腕のようになっているもの。

 顔には無表情な面を着けており髪というよりも触手の様な黒い物体が何本も地面まで伸びている。

 服装も白と黒のローブの様な修道服のような、なんとも曖昧なものを着ている。


「なんだ?言ってみろ。」


「ハイ、ホウコクノアイダニ」「いくつかの僕を外に放っても」「ヨロシイデショウカ?」


「それは良い案だが仮に何かしらのアクシデントによってそれらを喪失したときお前の僕では少し痛手だな。」


 というよりも、クレアトゥスの配下達はひとまず無事だったようだな。

 まぁ他の配下達の話は追々聞くとして。


「ナラバ、ゴーレムデモ」「創り出しましょうか?」


「あれは動きが鈍いので、ここは私の創ったアンデッドに任せましょう。」


 確かにネクロスのアンデッドならば、短時間で周辺の探索を行えるだろう。


「私の能力の方がぁ〜早くできると思いますよぉ〜」


「でも、その子《ハルモニア》の能力ってかなり曖昧な情報しか入らないよね!」


 ずっと無言で隣にいたティアが口を開いた。

 彼女の言ったことは正しい、ゲーム内でも敵勢力の大雑把な把握は彼女に頼っていたが細かい情報はそれだと捉えきれないので他の方法を使っていた。


「そ、そ〜ですねぇ〜…」


 バツが悪そうにするハルモニア。

 まぁティアは設定上、俺の妹なのであまり強く言えないのも無理はない。

 そろそろ間延びしそうだ。ここは俺が上手く纏めるべきだろう。


「では2人に任せるとしよう。細かいことはネクロスに、大雑把な所はハルモニアの能力で頼もう。」


「「畏まりました(ぁ〜)」」


そんなわけで報告を始める前に2人が動き出した。





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