お嬢様から衝撃のプロポーズをされた日⑨
「ッ!? ……う~ん!美味しい!とっても美味しいですわ~っ!今まで食べたブラックブルの中でも、一番と言っても過言ではございませんわね」
セーニャ様がブラックブルを口にしてしばらく、時間差で目をキラッキラに輝かせながら言う。
なんて大袈裟な反応…。
「セーニャ様。少しはしたないですよ…」
「だって本当に美味しいんですもの。セシルも早く食べて。ビックリするくらい美味しいですから」
「はぁ~…。かしこまりました」
嗜めた俺にそう言ってくるセーニャ様の言葉に従い、溜め息を吐きながら俺も一口……ッ!?
「うんまっ!?―――あ。申し訳ございません。つい素が…」
んなアホなと思いつつ口に入れた瞬間。肉が、口の中で溶けて無くなった…。
思わず素が出てしまった。ブラックブルの肉は確かに旨い。脂が程よく乗っていて、かつしつこくなく、脂っこい物が苦手な人でも問題なく食べれる高級肉だ。
だが。口の中で溶けて無くなり、しかし肉の味が一瞬にして無くなるのではなく、口全体に旨味が浸透する、ことなんて今まで食った物にはなかった。肉そのものの質が普通のブラックブルとかけ離れている。
口の中で溶ける肉とか初めて食べたので、思わず素が出てしまったよ。
「まぁ!まぁまぁまぁまぁまぁ…。なんて美味しいのかしら。セーニャとセシルの反応も頷けるわ」
「ああ。これほど旨い肉は、今まで食べたことがないね」
旦那様と奥様も感動してらっしゃる。
……セーニャ様に急かされたとはいえ、お二人より先に口にしてしまったことも反省すべきか。まぁ半分家族みたいなもんだし、気にしてないだろうけど。
「卒業お祝いの品としては、満足でしょうか?セーニャお嬢様」
「ええ!大満足ですわ。聞きましたわよ、セシル。私の為に、わざわざ遠くまでブラックブル狩りに行ったと。本当にありがとうございます」
「え。は、はい。こちらこそ過分のお言葉を頂き、光栄でございます」
少々ビックリしてしまった。
あのお転婆で我儘で、思春期真っ盛りというのもあって生意気さに拍車が掛かっていたセーニャ様から、素直に感謝されるとは。
いや……思えば今日はずっと彼女はらしくない様子を見せていた気がする。
話があるからと、時間をくれとお願いしてきたこと。
普段ならお願いではなく、有無を言わさず“来い”みたいな命令形だった。
急に俺に対してどう思っているか告白し出したこともそうだ。これが一番セーニャ様らしくなかったな。
俺との思い出は大切だとか言ってたな。
散々俺に面倒臭いお使いを頼んできたのは……まぁ、もっと強くなりたかった俺にもありがたい面はあったし、一応良い思い出ではある。マジで面倒だったけど。
とにかくセーニャ様らしくない。
なんで急に素直でこんな良い子になった?
――――――――――――――――――――
『そ、それではセシル。2時間程経ちましたら、私の部屋へ来てくださいませ。大切な……お話がございますの』
食事を終えて、風呂から上がってしばらく。
顔を赤く染めながら指定された時間に、お嬢様の部屋の前まで来た。
かなり真剣な話っぽいし、一度お気にの執事服に不備はないか確認。
……よし。オーケーだ。
確認を終えて、俺はセーニャ様の扉をノックした。
―――コンコン。
「っ!……はい」
「セシルです」
「……入ってください」
「失礼します」
入ってください、か…。
お入りなさいとか、そういう命令文ではないことにまた驚きつつ、俺はセーニャ様の部屋の中に入る。
セーニャ様の部屋は実に女の子らしく、白を基調とした豪華なタンスの上や天蓋付きベッドなど、色々な所に可愛いぬいぐるみがたくさん置かれている。
さらにはフローラルな香りに包まれており、どこか安心する雰囲気も漂っている。
そんな部屋の主であるセーニャ様は、何故か白とピンクを基調とした綺麗なドレスを着ており、かなり気合いの入った格好をしていた。
ピンクのお花の付いたカチューシャも着けており、大変似合っているのだが……本当に何故?
「凄くお綺麗でございます。セーニャ様」
「ッ!? ……あ、ありがとう、ございます…」
とりあえずありきたりだが、思った通りの賛辞を述べると、セーニャ様は横の髪で顔を隠して照れた様子で言う。
……なんでそんな乙女らしい反応を…。いつもだったら『セ、セシルに言われても嬉しくないですわ!?』ってツンケンするのに。
マジで今日一日で人が変わり過ぎじゃないか?
「セーニャ様。私めに大切なお話とは、一体?」
本当ならもっと褒めるべきなのかもしれないが、それで今までみたいにツンケンした態度に戻られるのもなんかアレなので、さっそくと本題に移らせてもらう。
この様子だと……魔物討伐のお願いではなさそうだな。本当にただただ大切な話がしたいだけなのかもしれない。
「え、えぇ…。実はセシルに、聞いて頂きたいことがございますの…」
「聞いてほしいことですか?」
頷き、セーニャ様は深呼吸を一つ。
彼女は緊張しているようで、何かを口にしようとする度に閉じての繰り返しをする。
相当な覚悟を持っている様子なのは見てわかる。だから俺は黙ってセーニャ様の言葉を待つ。
そんな時間が10分ほど続いた後。
もう一度深呼吸をして、俺の目を真っ直ぐ見つめて、ついに決心した顔付きとなって……言葉を紡いだ。
「セシル…。聞いてちょうだい」
「はい」
真剣な言葉に、俺もまた真剣に耳を傾ける。
彼女の執事として、一言一句聞き逃さないように。
―――だがしかし。そうして次に彼女から飛んで来た言葉は、予想だにしなかったものだった。
「わ、私と……………け、結婚して、一緒に冒険者になってくださいッ!」
「…………はっ?」
瞬間。思考がフリーズした。
お嬢様は、今なんて言った?
「け、結婚…?」
「は、はい!私と結婚してください!そして一緒に世界を見て回り、行く行くは私の処女を―――」
「―――ちょっと待てぃ!?それ以上は言ったら駄目だ、言ったらきっと後悔するぞ!」
素の自分を出した私は、彼女を一旦落ち着かせるのと同時に、先ほどのプロポーズのことを考えました。
―――奥様が言っていたことって、まさかこのことですか?
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