お嬢様から衝撃のプロポーズをされた日⑦
ボスも含め、ブラックブルを20匹ほど狩ってから王都へ戻ると……門の前に人集りが出来ていた。
しかも全員俺のことを見ている。
……なんで?
門を潜ってすぐにこの状況だ。俺はただただ困惑するしかなく、そこにフィンさんが豪快に笑いながらやって来た。
「よお!帰ったな、フォンバーグ伯爵家の英雄様よ」
「フィンさん。これは一体なんの騒ぎなのですか?まるで私の凱旋祝いのようではありませんか」
「はっはー!確かに似たようなもんだな。皆、お前さんの帰りを待っていたんだ。セシ坊がブラックブル狩りに行ったって話が、肉屋経由で瞬く間に広がったみたいでよ」
「あー…」
なるほど…。肉が無いなら狩れば良いじゃな~い?みたいなことを言った気がするわ。
フランス貴族もビックリな迷言を信じて、こうして待ち構えていたという訳か。
こんなことは初めてだが、恐らく俺が前々から狩った魔物を商業ギルドや直接市場に卸していたから、それを知っている人たちがこうして集まっているのだろう。
しかもブラックブルほどの美味しい物は、長い間持ってきていなかったしな。ほとんどお嬢様の我儘の産物だったし。
「とりあえずいくつかの肉屋さんに直接卸しますので、道を開けてください。それとフィンさん。一つ頼んでも良いですか?」
「お?なんだ。セシ坊の頼みとあらば、俺に出来ることなら何でもやるぜ!」
「そんな大袈裟なことではないですよ。肉屋さんばかりに卸しては、商業ギルドから苦情が入りますから、そっちにも卸したいのです。ですがお嬢様の卒業祝いまで時間が無いので、手続きする暇がありません」
「ほぉ?ということは……」
「はい。ブラックブル丸々1匹差し上げますので、この分のブラックブルを商業ギルドに卸しに行って欲しいのです。それで売れた分のお金も全部フィンさんに差し上げますよ」
そう言って俺は、どデカい台車をアイテムボックスから取り出して、その上に6匹のブラックブルの死体を乗っけた。内1匹がフィンさんの分。
周りの人々が「おー!」と感嘆の声を上げる中、フィンさんだけは動揺した様子で待ったを掛けてきた。
「おいおいおいおいおいおい!?待て待て待て待て待てッ!?」
「おや?提示した条件ではご不満でしたか。ですが確かにそうですねぇ。将来のことも考えると、お金は余裕に余裕を重ねた方が安心……」
「ちげぇって!なんだよその好条件は!?代理で商業ギルドに手続きしておいてくれっていうのは良い。だけどてっきり俺は、肉をいくらか分けてくれるとか、売った金の何割か謝礼金して受け取ってくれとか、そういうのだと思ったんだよ。なのにお前……ブラックブル1匹に金を丸々俺に譲るとか、正気か?この量だと金貨5、60枚は固いぞ?」
えーっと。日本円で5、600万円くらいかな。でもこのブラックブルたちの肉は、ボス牛のおかげでほぼストレス無く過ごせていたんだ。
商業ギルド所属の鑑定士が見ればかなり良い肉だと判断して、1.3~1.5倍くらいの値段で買い取ってくれると思う。
だから最低でも金貨65枚くらいか。
別にそれくらいどうってことない。旦那様からのお手当ての方が多いし。
それに……
「フィンさんは近々、ご結婚なさるそうではありませんか。しかも20歳くらい離れた、年下の元同僚と。これはそのお祝いです」
俺は彼にしか聞こえない声で、そう言った。
「いぃッ!?セ、セシ坊…。なんでそれを知って……」
「私。屋敷の仕事やお嬢様の我儘が無い時はボーッと屋敷の見回りをするか、王都を散歩するくらいしかやることがないのですよ。暇だからって別の仕事してると旦那様から怒られますし…。なので散歩ついでに色々と情報収集しているのですよ。大から小まで」
「……………」
「ですからお相手もきっちり把握してますよ。お相手は……自分が務めていた隊の隊長、
「…………………………」
「いやー、聞いた時は驚きましたよ。あの近寄りがたいクールビューティーで気高きお方が、自ら貴方に猛アタックを……」
「だぁーーー!!!わかった、わかったから!?それ以上は言うな!それはアイツの隊の連中以外にはまだ秘密にしてんだよ。頼むからもう黙ってくれ…」
頭を抱えながら言うフィンさんに、俺はお口チャックのジェスチャーをしながら押し黙った。
俺の情報網からは何人たりとも逃れられないのだ。ぐふふ…。
「バラされたくなければ、大人しくお祝い品とお祝い金を受け取ってください」
「捻くれた祝い方された俺はどう反応すればいいんだ、これ…?それにノアールになんて説明すれば……」
「安心してください。あとでノアール様から叱られるだけですから。私が」
「お前かよ!?」
それからもう一言二言フィンさんと話して、行きつけの肉屋さんらにブラックブルを卸しに行った。
急げ~俺。もう夕食まであと2時間切ってんぞー。
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