お嬢様から衝撃のプロポーズを受けた日⑥
「モオオオォォォォ!」
「鳴き声はいっちょ前に牛ですよね。て、危ない!?」
ボス牛の雄叫びで背後のブラックブルたちは逃げ始め、同時に足元の地面が槍の如く俺に襲い掛かってきた。
地面を踏んで発動する訳じゃないのか?しかも今のグランドランスは直前まで魔力を感じなかった。コイツ、魔力隠蔽のスキルまで持ってるのか?
「魔力の気配を隠せる魔力隠蔽……そんなものまで使えるとは、やはりただの魔物ではないようですね」
魔族みたいに器用なことをするな。
強力な魔法ほど魔力隠蔽で隠すのは難しいはずなのに、奴はいとも簡単にグランドランスの魔力を隠しやがった。
「まぁ良いでしょう。それくらいの強さと大きさをしているんです。さぞ上質なお肉に成っているんでしょうね?お嬢様の卒業祝いに相応しい。それに……」
足は曲がっておらず、真っ直ぐな状態で育っているようだ。
農家の人から聞いたが、足が真っ直ぐピンと張っている牛は健康で上質な肉をしているらしい。
(それが本当ならこのボス牛はめちゃくちゃ旨い肉に育っているはずだ。なるべく傷を付けずに、一撃で奴の首を落としたいところだ、な!)
俺は地面を抉る勢いで蹴ってボス牛に向かって駆け出し、繰り出されるグランドランスの中を掻い潜っていく。
ボス牛の足元まで近付くと、俺を踏みつけようとしてくる。
それをジャンプして躱すが、同時にグランドランスが空中にいる俺に襲い掛かってきた。
それに剣で叩き付け、その衝撃で躱し、グランドランスを足場にしてさらに高く飛び上がり、下からボス牛の首に斬り掛かった。
―――ガキーン!
しかしボス牛の巨体に似合わない反応速度がそれを許してくれない。またしても硬い角に阻まれてしまった。が……
「想定内ですよ」
俺は太くて硬い角を握力の限り掴んで、ぐるん!と逆上がりして角に乗っかった。
そこから素早くボス牛の頭の上に移動して、俺は最近習得したばかりの魔法を発動した。
「頭を垂れなさい。《マイセルフ・グラビティ》!」
瞬間。とてつもなく重たい重石を積まれたが如く、ボス牛の頭が地面に縫い付けられた。
これは重力魔法という、最上級魔法に区分される強力な魔法だ。
習得したばかりだからマイセルフ・グラビティという、自身に重力波を浴びせて重くするだけの、あまり使えたもんじゃない魔法だけしか使えないが、物は使いよう。
図体の大きい奴には比較的有効だ。
普通なら自分の身体が重くなったら満足に動けないが、昔から身体を鍛えていたおかげで、剣を振り下ろす程度のことは出きる。
「申し訳ありませんが、その命……いただきますね」
マイセルフ・グラビティによる重みが合わさった斬擊が、ボス牛の首に落とされる。
角とは違い、柔い肉と骨はいとも簡単に断ち切られて、ボス牛の頭は胴体と別れることとなった。
「ふぅー。厄介でしたが、結局ただの魔物と変わりませんでしたね」
魔法が使えると言っても、このブラックブル自体は知能が低い魔物。
一瞬でも隙を作れれば、呆気なく戦いを終えることが出きる。
ドラゴンとか知能が高い魔物は話が別だが。
「「「モオオオオォォォォォォォ!!!」」」
「ん?」
さて、ちゃっちゃと亜空間という名のアイテムボックスに死体をしまって帰ろうかと思ったのもつかの間。
なんとボス牛が逃がしたはずのブラックブルたちが一斉に俺に向かって突進して来ているではないか。
ブラックブルは仲間のピンチに助けに入る習性があるが、もう既に死んでいる仲間の仇討ちをするようなことはない。
が、奴らの目は完全に自分等の仲間を殺された恨みを晴らそうとしているのが、見て取れた。
「何もかも常識外れですねぇ。この群れは―――」
或いはただ、自分たちをずっと守ってくれていたリーダーに対する、弔いのつもりなのかもしれませんねぇ…。
そういうの、私は大好きですよ。
「―――まぁいい。お前らもなかなか良い肉を持ってそうだしな。平原の生態系維持の為にも、半分くらい間引かせてもらうぞ」
私は自分に強化魔法のバフを掛け直してから、人一倍。いや、牛一倍仲間思いなブラックブルたちの相手をした。
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